第14話 少年期 誕生日前日
「じゃあシオン、あの岩を魔法だけで壊してみて。制限時間は10分」
「わかりました」
「じゃあ始めー」
ミヒャエルの気の抜けた合図に合わせ、シオンは左手を胸の前にかざし意識を集中させていく。
いよいよ誕生日を明日に控えた昼過ぎ。シオンはミヒャエルに魔法を教わっていた。シオンの10メートルほど先、ついさっきまで何もなかった庭の一角には頑丈そうな岩ができている。ミヒャエルがシオンの練習のために作ったものだ。
どうやってあの岩を壊そうか?
シオンは頭を回しながら、岩に向かって水の弾丸を打ち込む。弾丸は勢いよく岩にぶつかったが表面を僅かに削っただけだ。
なら、これならどうだ!
今度は空気を圧縮し、刀のように薄く鋭く尖らせるイメージをして岩に放つ。今度はしっかり傷跡が残ったが、精々削って3分の1ぐらいで壊すには至らない。
「今のはなかなかよかったねー、あと五分だよー」
「もう5分経ったんですか」
制限時間はあと5分。さっきの風の魔法を2回放てば理論上は壊せるかもしれないけど、同じところに当てられる自信はない。かと言って闇雲に攻撃したところで壊せそうもない。どうすれば……
「シオン、僕からのヒント、一つの属性にこだわらなくてもいいんじゃないかなー」
一つの属性にこだわらなくてもいい。逆を言えば複数の属性を嚙み合わせることができれば壊せるということだ。
「ありがとうございます」
「いえいえ、後3分ー、頑張ってー」
「はい」
気の抜けた応援を受けながら、シオンは再び手のひらをかざし、小さな炎を作り出す。炎は温度が高いほど青色になったはずだ。シオンがイメージすると炎は赤色から黄色、そして青色に変わる。後はさっき削った岩に向けて。
シオンは先ほど削った岩の部分に向けて青い炎を放つ。そしてすぐさま空気中の酸素を圧縮した風を同じように放つ。2つは丁度岩の削ったところで交わり、その瞬間、とてつもない破裂音と突風が起こってシオンは思わず目を瞑る。
「……驚いた」
砂煙が舞い上がる中、ミヒャエルはいつも眠そうな瞳を広げ庭の光景を見つめていた。
その頃ブルーノとティアナは屋敷の執務室で書類の整理を行っていた。
「ブルーノ兄さん、ここ間違ってるわよ、あと、これと、これも」
そう言ってティアナは確認した書類をどんどんブルーノの前の机に載せていく。
「まじかよ、だぁー! やってらんねぇ!」
ブルーノは椅子に深く腰掛け天を見上げる。
「俺もシオンと庭で鍛錬していたいー」
「子供か! そもそも、ブルーノ兄さんがやらずにため込んでたから、こんなことになっているんでしょ」
「そんなこと言ってもなー、面倒くさいんだよなー」
「別に手伝わなくてもいいんだけど?」
「すいません、すぐやります!」
はぁ、とため息をつきながらティアナは窓際まで進むと外の景色を眺める。
「ねぇ、ブルーノ兄さん」
「なんだ」
「シオンの誕生日にお父さんたちが伝えるんですよね?」
ティアナの問いかけにブルーノはペンを止め顔を上げた。
「ああ、シオンが12歳になったら話すって決めてたからな、まあ、でもシオンは賢いから言わないだけでとっくに気づいてると思うけどな」
「どう思うかな?」
ティアナは窓枠を強く握りしめながら魔法の鍛錬中のシオンを見つめる。遠くからでもつやのある黒髪が良く目立っている。
「そりゃ、シオンじゃないとわからないだろ」
「それはそうなんだけど!」
「なんだ、もしかしてお前、シオンが本当の家族じゃないとわかったら態度が変わるとかそんなしょうもないこと心配してるのか?」
「しょうもないことって何よ⁉ だってわからないじゃない。そんな経験したことないんだから」
ティアナは唇を嚙みながら下を向く。大切に思っている分、余計に怖くなるのだ。
「わからないことをいくら気にしたってしょうがないだろ。それよりも自分がどう思っているかが大事なんじゃないのか。俺は例え血が繋がっていなくてもシオンは自慢の弟だし、それ以外なんでもねぇよ。ティアナだってそうだろ?」
「あたりまえでしょ!」
血が繋がっていようとお父さんが赤子のシオンを屋敷に連れてきたあの時から、シオンは大事な弟、いやそれ以上に大切であることに変わりない。
「そんな怒んなよ」
「別に怒ってません!」
自分が考えている以上にシオンのことを考えているブルーノに腹が立って八つ当たりしているだけだ。自分がどう思っているかシオンに伝えること。それも大事なことなのだ。最もそれを気づかされた相手がブルーノなのは納得いかないけど。
「なんだ、トイレでも我慢してるのか? 気にしないで行ってきていいぞ」
「……ブルーノ兄さん最低、だからメイドの女の子たちからあんな風に言われるのよ」
「ちょっと待て、俺裏でなんか言われてるのか⁉」
その瞬間、屋敷が大きく揺れた。
「きゃっ!」
「なんだ⁉ 敵襲か!」
ブルーノは状況を確認するため窓を開け放ちあたりを見回す。シオンたちがいた近くが巻き上がった砂煙で全く確認できないようになっている。
「シオン!」
「おい、ティアナ! ったく」
飛び出していくティアナを追いかけるようにブルーノも部屋を後にした。
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