第13話 少年期 王都の話

「ティアナ、親父たちとは一緒に戻ってこなかったのか? いま王都の別宅で一緒だったんだろ?」

 ティアナも帰ってきたことで兄妹全員が揃ってのお茶会。ミヒャエルや行った港町の話やブルーノの領内巡察の中で起こった出来事、ティアナの学院での話など話題は途切れることなく続き、そろそろお開きにしようとしたところでブルーノが声を上げた。


「それなんだけど、急遽王様から呼ばれて屋敷に向かうのが遅くなりそうだったからそれをみんなに伝えるためにも私だけ先に来たの。少なくともシオンの誕生日の前日までには着く予定らしいわ」

「ふーん、まあ親父は忙しいからあり得るか」

「なにか? ミヒャエル兄さん?」

「……いやー、別にー? シオンは人気者だなって思ってねー」

「ミヒャエル兄さん、今の話で何で僕が人気者になるんですか?」

「それはねー」

「そんなことより、シオン、今年から学院に来るのよね」

 ミヒャエルの言葉を遮りティアナが言葉を投げかける。

「はい、王都に行くのも初めてなんで楽しみです」

「そっか、シオンもリアも王都に行ったことなかったんだっけ?」

「はい」

「リアも行ったことないです」

「王都は凄いわよ、この町で一番大きな創立祭は行ったことあるわよね」

 シオンとリアはこくりと首を縦に振る。


 創立祭はローゼンベルク家の屋敷があるこの町で行われる一番大きなお祭りで、去年リアと一緒に行った時に出店と人の多さに圧倒されたのを思い出す。


「あれが王都での普通ぐらいかな」

「そんなにですか!」

 シオンは思わず声を上げた。王都に行ったことのあるブルーノもミヒャエルもうんうんと頷いているから本当なんだろう。あんな凄い光景が当たり前なのか。

「まあ、でもその分かなり大きい街だからもみくちゃになるとかはないから安心して」

「それならよかったです」

「シオンお兄さま、もうすぐ王都に行ってしまうんですね」

 リアが寂しそうにつぶやく。何とかしてあげたいがシオンにはどうにもできそうにない。

「ごめんね、リア」

 シオンは膝の上でちょこんと座るリアの頭を優しくなでる。

「……いえ、シオンお兄さまは悪くありません、わがまま言ってごめんなさい」

 そうは言うが、明らかにリアは落ち込んでいる。ティアナは学院、ブルーノもミヒャエルも領内の仕事で忙しく、リアの面倒を見て上げていたのはシオンだ。だからこそ寂しいのだろう。


「……ねぇ、リア。シオンが学院に行くときにリアも一緒に来る? シオンや私が学院にいるときは別宅で一人になっちゃうけど。使用人たちはいるけどね」

 ティアナが優しい声音でリアに尋ねる。

「いいんですか?」

「お父さんとお母さん来たら一緒にお願いしようか」

「はい! ありがとうございます、ティアナお姉さま」

 よほど嬉しかったのかリアはシオンの膝から降りてティアナにぎゅっと抱き着く。

「まったく、リアは甘え上手ね」

 ティアナはしょうがないなと笑っている。

「しゃーない、可愛い妹の為に俺からも言っておくよ」

「……僕からもお願いしてみるね」

「ブルーノお兄さまもミヒャエルお兄さまもありがとうございます」


「よし、じゃあそろそろこの会はお開きにするか!」

 少しだけの予定で始めたお茶会だが、気づけば予定よりも長くかかってしまっていた。

「アルベルトさんこんな時間まですいません」

「いえ、お気になさらないでください。ご兄弟仲睦まじい姿を拝見させていただき光栄でございました」

 給仕を担当してくれていたアルベルトはそう言って恭しく一礼する。

「意外と兄弟仲の悪い家って多いよね」

 ティアナが残念そうに声を上げた。

「……確か最近でも兄弟で跡目争いして、家がなくなったところがあった気がするねー」

「まあ、うちの家じゃありえないけどな」

 そんな話をしながらシオンたちは屋敷の中に戻っていった。


 

 

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