第12話 少年期 姉の帰館
「うめぇな、これ! 鍛錬して後に最高だな!」
「ブルーノ兄さん、そんな勢いよく食べたら!」
「あぁぁぁぁぁ!」
ふわ氷を一気にかきこんでいたブルーノが頭を抑えながら唸り声を上げる。
「だから言ったじゃないですか。一度に大量に食べたら頭が痛くなるって」
「いや、美味かったから、つい」
「気を付けてくださいね」
「しかし、よくこんな食べ方思いついたな」
「そうですかね」
「……珍しくブルーノに同意する。氷を細かく砕いてフルーツのソースをかけて食べるなんて発想はなかなか思いつかない」
ミヒャエルはスプーンですくったふわ氷をまじまじと見つめてからゆっくりと口に運ぶ。
「……おいしい」
あまり表情には出ていないが、動作がいつもより機敏だから気に入ってくれているようだ。
「リアおいしい?」
「はい、おいしいです! シオンお兄さまの味は何ですか?」
スプーンをせっせと動かしながらも、リアの視線はシオンのふわ氷に向いている。折角4人いるからとそれぞれ違う味にしようと、ブルーノは葡萄、ミヒャエルは苺、リアはメロン、シオンはリンゴにしてみたのだ。
「一口食べてみる?」
「いいんですか?」
リアの目がキラキラと輝く。シオンはその様子を微笑ましそうに見ながらリアの近くにリンゴのふわ氷を近づけあげる。
「はい」
「あー」
「えっ?」
「あー」
リアは小さな口を一杯に開けて待っていた。
「しょうがないな、はい」
シオンはリンゴのふわ氷をスプーンですくってリアの口に持っていく。
ぱくんと小さな口が動く。
「リンゴもおいしいですね!」
「それならよかった、果物のソースは厨房でストックしてもらうようにしてくれるらしいから、これからは頼めばすぐに食べられるよ」
厨房に行った際にその場にいた料理長のブラハムにお願いしたら二つ返事で了承してくれたのだ。興味ありげに見てきていたから、どうせならと使用人全員分のふわ氷用の氷を用意してあげたおかげかも知れない。ちなみにこの件で使用人たちのシオンの株がさらに上がっているのだが、当の本人は気づいていない。
「ほんとですか! シオンお兄さまありがとうございます!」
「でも、食べ過ぎるとお腹が冷えるから、食べ過ぎないようにね」
シオンはそう言ってブルーノの方を見る。先ほどから5、6杯お代わりしているが一向にお腹を壊しているような様子はない。相変わらず、かきこんで頭を抱えているが。
「……ブルーノ兄さんは普通の人と違うからリアは真似しちゃダメだからね」
「はい!」
「シオン!」
兄弟4人でのんびりとふわ氷と紅茶に舌鼓を打っていると、後ろから懐かしい声とともにぎゅっと誰かに抱きしめられた。後頭部に柔らかな感触があり、シオンの顔が少し赤く染まる。こんなことをしてくる人物をシオンは一人しか知らない。
「ティアナ姉さんお帰りなさい」
「ええ、ただいまシオン」
「その、そろそろ離していただけませんか?」
「ええー、もうちょっとー、久々にシオンに会えたんだから」
控えめに開放をお願いしたところ余計にぎゅっと抱きすくめられ、シオンは身動きが取れなくなってしまう。昔からことあるごとに抱きつかれていたが、ティアナが学院に通うようになり会える回数が減った今はその分一回の時間が長くなっている気がする。
「ティアナは相変わらずだねー」
ミヒャエルはその様子をにやにやと眺め、
「姉弟仲良くて結構じゃないか!」
ブルーノはうんうんと嬉しそうに頷き、
「むー、リアのシオンお兄様なのに!」
リアは不満そうにぽっぺを膨らませてと三者三様の反応をしていた。
時間にして5分ほどしてシオンを解放したところに、リアがティアナに近づいていく。
「ティアナお姉さま、お帰りなさいませ」
「リア! ただいま」
リアに声をかけられたティアナはぎゅっとリアを包むようにハグする。
肩口まで伸びたつやのある銀色の髪に切れ長の瞳。学院でも人気のあるティアナと天使の様に可愛いリアが抱き合っている姿は見ていて微笑ましく、見ているシオンたちの表情も緩む。
「みんなで庭でお茶会してたの?」
ブルーノ、ミヒャエルへ簡単に挨拶を済ませた後、ティアナは尋ねてきた。
「はい、良かったらティアナ姉さんもどうですか?」
「嬉しいお誘いだけど、今から椅子を用意してもらうのも悪いわね」
「でしたらティアナお姉さま、リアが座っていた席を使ってください」
「それじゃあリアはどうするの?」
「大丈夫です」
「リア⁉」
リアは言うや否やシオンの膝の上にぴょんと飛び乗り、顔を上げてシオンを見つめながら「えへへ」と笑う。
しょうがないなと言うふうにシオンが頭を撫でると、リアはより一層その笑顔を綻ばせる。
「……リア、お小遣い上げるからお姉ちゃんと場所を交換しない?」
「嫌です」
「まあ、今日は譲ってあげましょう」
「もとよりここはリアの指定席です」
一瞬、冷たい風のようなものが吹いた気がするが気のせいだろう。シオンはただただ苦笑いを浮かべていた。
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