第11話 少年期 兄弟4人でお茶会
「シオン大丈夫かい?」
「はい、ありがとうございますミヒャエル兄さん」
鍛錬終わり。シオンたちは庭に出したテーブルを囲ってそのままお茶会をすることにしていた。シオンの隣にはリアとミヒャエルが座り、正面にはブルーノが腰かける。テーブルにはアルベルトが淹れてくれた紅茶にクッキーなど摘まめるおやつがいくつか置かれて賑やかな雰囲気になっていた。
「いやぁ、シオン悪かったな」
「ブルーノ兄さん本当に悪いと思ってますか?」
「思ってるよ、にしてもシオン本当に強くなったな。特に最後の一撃は手加減ができなかったわ」
「……ありがとうございます。」
でも手加減されてたんだよな。せめて一太刀ぐらいはと気合を入れて挑んだけれど全く歯が立たなかった。やはりブルーノ兄さんは凄い。でも……。シオンは膝の上に置いた拳をぎゅっと握りしめる。
「シオン様、紅茶のお代わりはいかがですか?」
横を向くと紅茶のポットを持ったアルベルトが立っていた。
「お願いします」
「承知いたしました」
アルベルトは恭しく一礼してシオンのカップに紅茶を注いでいく。その所作はよどみなく流れるようで洗練されていた。
「シオン様、僭越ながらあまり考えすぎませんように」
「えっ?」
「先ほどの試合、実に素晴らしいものでありました。特にシオン様はまだ自分の適性が分かっていないにもかかわらず剣術に励み、領内でも随一のブルーノ様を一太刀でも本気にさせておりました。騎士団の者でもそうそうできることではありません」
「そうなんですか?」
「はい、それにシオン様もご存じの通りブルーノ様は本当に思ったことしかおっしゃりません。そのブルーノ様が手加減しなかったのはシオン様がこれまで努力を重ねた結果にございましょう。反省することも素晴らしいことではございますが、シオン様は少しぐらい自分自身を褒めてもよろしいかと」
「……ありがとうございます」
そっか無駄じゃなかったんだ。シオンは顔を俯かせながら小さくお礼を言う。
「……シオン、照れてる?」
「そんなことありません」
「かわいいなー、シオンは」
「やめてください」
「シオンお兄さま、シオンお兄さま」
シオンがミヒャエルのからかいをいなしていると、椅子をシオンの近くまで移動させていたリア声を掛けてきた。
「リアどうしたの?」
「先ほどの試合凄かったです!」
「ありがとう」
「それに、その、凄いかっこよかったです!!」
「シオンの試合を見てからずっとこの調子なんだよねー」
二人の様子をニマニマと眺めていたミヒャエルが補足を入れてくる。
「この分だとシオンが学院に入るときは大変そうだよねー」
確かにそうかもしれない。グロファイガー王国に属する貴族の子供たちは12歳から18歳までの6年間、学院に行くことが決まっている。伯爵家であるローゼンベルク家は王都の学院に行くことになっているが、王都はローゼンベルク領から馬車で2日半ほどかかる距離だ。
当然通いながらは無理なので王都にある別邸に住むことになる。学園の長期の休みは春、夏、秋、冬にそれぞれ1回でそれ以外の休みだとそう簡単に屋敷に戻ることは出来ないだろう。
「シオンが王都に行くときについて行っちゃうかもねー」
「それは……」
ないとは言い切れない。
「まぁ向こうにはティアナがいるし、それもありかも知れないね。ティアナはシオンもリアも可愛がっていたし」
「んっ、そう言えば、ティアナはまだ帰ってきてないのか?」
妹の名前に反応したブルーノが口を挟む。
「確か明日か明後日には屋敷に帰るって一週間前に届いた手紙に書いてありました」
「そうか、それじゃあシオンの誕生日には間に合いそうだな」
「ブルーノ馬鹿? シオンの誕生日にティアナが来ないわけがない」
「それもそうだな、あと普通に悪口言ってくるな」
「悪口じゃない、事実」
「ああん⁉」
いつものようにミヒャエルとブルーノが口論を始め、シオンが止めようとあたふたしていると、袖をくいくいと引っ張られる感覚があった。
「リア、どうしたの?」
リアはもじもじと言いずらそうにしながら小さく声を上げる。
「シオンお兄さま、昨日食べたふわ氷が食べたいです。……駄目ですか?」
ふわ氷とは昨日リアにあげたご褒美のことだ。リアとフェリにこの料理の名前を聞かれたときに咄嗟にふわふわの氷の食べ物だからふわ氷と命名したのだ。前世ではかき氷と言う名前だったけど、そっちの方が見た目に合っている気がしたのだ。
「なんだそのふわ氷ってのは?」
「ふわ氷、シオン、僕も食べてみたいな」
さっきまで口げんかしていたはずのブルーノとミヒャエルも耳ざとく聞きつけると、興味ありげな視線をシオンに向けてくる。それにリアに可愛くおねだりされて断れるわけもない。
「わかりました、用意してくるのでちょっと待っててください」
シオンは席から立ち、「お手伝いいたします」とついてきてくれたアルベルトと一緒に厨房に向かっていった。
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