第10話 少年期 ブルーノと剣術鍛錬
ブルーノやミヒャエルの帰館にリアとの魔法の訓練など慌ただしかった昨日を終えた翌日。シオンは屋敷の庭でブルーノと対峙していた。昨日の一人での鍛錬の後で約束した件だ。シオンはブルーノにアドバイスを貰いながら鍛錬し、最後に実戦形式で勝負しようとなったのだ。
「シオンお兄さま頑張ってください」
庭には二人の他にリアとミヒャエルがきていた。リアは両手を胸の前でぎゅっと握りながらシオンに熱い視線を向けていて、シオンも少しはかっこいいところを見せようと腕に力が入る。
「シオン、あまり力まないようにー」
一方のミヒャエルは使用人に持ってきてもらった椅子に腰かけ、テーブルに置いた紅茶を飲みながらその様子を眠そうな目で眺めている。
「じゃあ、はじめるか」
「はい! お願いします」
「アルベルト、審判を頼めるか?」
「承知しました」
ブルーノが声をかけると、いつの間にか二人の間にローゼンベルク家筆頭執事のアルベルトが一礼しながら立っていた。ロマンスグレーの髪にスラッとした体形、今年で齢60歳を迎えるはずだが背筋はピシッと伸びていて20歳は若く見える。
「ブルーノ様、シオン様、準備はよろしいですか?」
「おう!」
「はい」
二人はそれぞれ鍛錬用の木剣を構える。アルベルトは両者が構え終えたのを確認して、白い手袋をはめた右手を掲げ、掛け声とともに振り下げる。
「はぁ!」
先に動いたのはシオンだった。態勢を低くし、剣を下段に構えたまま一直線にブルーノに向かって突進する。
領内でもトップクラスの剣術を誇るブルーノとまともに戦っても勝ち目はない。かと言って守りに入ってもじり貧だ。勝てるとしたら奇襲か意表を突くしかないと踏んでいたのだ。とは言え、そんなことはブルーノも百も承知だろう。シオン渾身の切り上げをブルーノは難なくいなす。
「どうした、こんなもんか?」
シオンの剣を捌きながらもブルーノは余裕そうな表情だ。
ブルーノとシオンは9歳差がある。シオンがあと6日で12歳になるとしても8歳差、体格もそうだし、これまでの経験の差も大きい。シオンは攻撃がことごとく跳ね返されてしまうのも当然なのだ。
なにか、方法はないか? シオンは頭を働かす。その間も攻撃の手は緩めない。緩めたら最後、そのまま押し込まれてしまうことは目に見えていた。
……そうだ、ミヒャエル兄さんが言っていた言葉だ。
シオンはこれまでより大きく振りかぶる。
最後の悪あがきってところか。ブルーノはシオンが大きく振りかぶったのを見て判断した。格上の相手に勝つ方法として先手必勝で先に攻勢に出たのはいい判断だし、剣術の腕も同じ年どころかもう3つ年上ぐらいまでなら勝てるぐらいの技量はあるだろう。それは間違いなくシオンが休むことなく鍛錬を続けてきたからに他ならない。
ほんと、立派になったな。ブルーノは弟の成長を喜びつつも、最後はシオンのひと振りのタイミングで力を籠め跳ね返し、そこからカウンターで終わらせてやろうと決め、剣で受けるように構える。
やっぱり兄として威厳ある姿を見せてやらないとな。
「らぁぁぁ!」
シオンは掛け声とともにブルーノに向かって剣を振る。そして剣同士がぶつかる寸前で軽くバックステップしつつ、一気に力を抜いた。
「なっ⁉」
タイミングを合わせて押し返そうとしていたブルーノの体勢が崩れる。
今しかない!
シオンは地面を強く蹴って渾身の突きをブルーノに向かって放つ。勝ったかもしれない。シオンがそう思った刹那、ブルーノはとんでもない速さでつんのめっていた体勢から体を回してシオンの剣を下から切り上げる。
「あっ……」
木剣同士の鈍い音と同時に、シオンの持っていた剣が宙に舞った。
「そこまで」
ブルーノがシオンに切っ先を突き付けたところでアルベルトが声を上げた。
「参りました。流石ブルーノ兄さん。最後のひと振りは全く見えませんでした。……ブルーノ兄さん?」
「……さすがは俺の弟だ!!!」
「うわっ⁉」
シオンはブルーノにわきの下に手を入れられ持ち上げられると、そのままぐるぐると回される。
「アルベルト、最後の見たか?」
「はい、素晴らしい発想に攻撃でした。並みの騎士であればあの一撃は避けられなかったかと」
「そうだろう! そうだろう!」
「ブルーノ兄さん降ろしてください!」
ブルーノはまるで自分のことのように喜び、シオンがブルーノから解放された時には目が回ってくらくらになっていた。
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