第9話 少年期 美味しいものは人を救う
「今でも料理することは好きですか?」
予想外の質問にフェリはきょとんとした様子だったが、「そうですね」と呟き、しばらく考えた後、
「好きです」
とシオンの目を見ながらはっきりと言い切った。
「じゃあ、大丈夫です。フェリさんは絶対に素敵な料理人になれます」
「えっ?」
「だって、こんなに大変な目に合っても料理が好きって言いきれるんですから。僕だったら絶対に途中で逃げ出してしまっていると思います。でもフェリさんはそれにもめげずに頑張ってきたから、うちの料理人見習いとして雇ってもらえることになったんですよ。そんな人の料理が美味しくないわけありませんから」
フェリは目をぱちくりとさせた。
「でも……」
「フェリさん最後の仕上げ手伝って貰っていいですか」
シオンの言葉を信じきれないフェリはまだ何か言いたそうだったが、シオンは無視してフェリにお願いする。
「この氷の上にさっき作った苺のソースと葡萄のソースを乗せてもらえますか?」
「えっ、はい、わかりました」
シオンに言われるままフェリは、シオンがいつの間にか用意していた粒の細かなふわふわな氷が入った深皿の上に苺のソースと葡萄のソースをそれぞれ乗せていく。甘い香りにごろっとした果肉。赤と紫の色が真っ白い氷の上に映えてなかなかいい出来栄えだ。
「あの、シオン様、これは?」
「えっとね、リアが今日魔法の練習を頑張ったからご褒美にあげようと思って」
「先ほど氷と言いましたが、このソースの下が氷なのですか?」
「そうだよ、氷を薄く削ることでこんなふわふわした見た目になるんだ」
「そうなんですね」
フェリは驚いたようでまじまじと二つのかき氷を見つめる。
「氷を薄く削って果実を使ったソースをかけて食べる。こんな料理はじめてみました」
この世界では氷を削って食べる文化はないから珍しいのだろう。
「料理と言うよりはデザートですかね。じゃあ最後にこれをリアのところまで持っていくの手伝ってください。僕はこの苺の方を持っていくので」
「えっ、その」
「下が氷なので早くしないと溶けちゃうので」
シオンがそう言って先に厨房を出る。すると恐る恐ると言った様子でフェリも後ろをついてきてくれていた。
「シオンお兄様遅いです!」
「ごめんね、作るのに時間がかかっちゃって、はいどうぞ」
シオンはそう言ってリアの前に苺のソースがかかったふわふわな氷を置いた。
「わぁ!!!」
リアは花が咲くように顔を綻ばせる。リアにも下のふわふわしたものが氷だと教えると、これがですかと驚いていた。
「シオンお兄様食べてみてもいいですか?」
「もちろん、リアのご褒美だからね。ただ、あんまり一遍に食べないように気を付けて。頭が痛くなるから」
「はい! ではいただきます」
リアはスプーンですくって口に運ぶ。
「んー♪」
リアは満足そうな声を上げた。
「シオンお兄様これとっても美味しいです!!!」
「よかった。リア、このソースを作ってくれたのはこのフェリなんだよ」
シオンがそう言ってテーブルに葡萄のソースの方を置いたフェリを手で指す。急に紹介されたフェリは驚いたようで、しっぽがピンと立っていた。
「そうなんですか、フェリさん、こんな美味しいデザートをありがとう!」
「っ!!!」
「フェリさん?」
「あっ、その、勿体ないお言葉です」
フェリはそう言って深々と頭を下げる。
「フェリさんのおかげで妹を笑顔に出来ました。ありがとうございます」
「そんな、むしろ私の方こそ、シオン様のおかげで少し気が楽になりました」
頭を上げようとするシオンをフェリが何とか宥める。
「はい、フェリさん」
「えっ? あの?」
シオンはフェリに持ってきてもらった葡萄のソースがかかった方をフェリに手渡す。
「フェリさんも一生懸命働いてくれているご褒美です。よかったらこれからもここで働いていてくれると嬉しいです」
「……はいっ!」
シオンから器を大事そうに受け取ったフェリはこの日初めての笑顔を見せた。
お節介だったかな。シオンはさっきまでの自分の行動を反省しながら二人を眺める。リアはフェリのふわふわなしっぽを気に入ったようで、さっきからずっとしっぽを撫でまわしている。
「リア様、そろそろお仕事に戻らないといけませんので……」
「もう少しだけ、だめですか?」
瞳をウルウルさせながら上目遣いのリア。
「……あと5分ぐらいでしたら」
「やったぁ! フェリありがとう!」
でも、上手くいってくれてよかった。シオンはリアを止めるために二人に近づいて行った。
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