第26話 To the loss but sky is blue

翌日

俺達は3人でラクロエ郊外の川辺に来ていた

水の補給と昨日のことをアリスラさんに話した

「なるほど そんなことがあったのかい」

「えぇ でも首都で軍と戦っているはずの奴らがなぜここに」

「偽情報を掴まされてた可能性が高いわ

楽郎はあのエセ軍人が信用できる?」

「...出来ない です」

俺のミスだ

奴を信じたせいでステラさんを危険にさらしてしまった

「どういうこと?」

「首都に軍が駐留していたのは本当なんでしょう

だが実際にそれを避けてラクロエを拠点に活動している

つまりウェリドムは」

「あぁ 俺が夜明けの明星のボスってところだ」

いつの間にか俺たちの背後にウェリドムが立っていた

それもいつもとは違う フル装備で

大型の剣に背中にハンドガンのようなものをさしているのが見える

「!!!

っ!」

刀を抜き

それと同時に銃を抜こうとした瞬間

タァァンッ!

だがそれより早く俺の肩口に銃弾が突き刺さる

ベストのおかげで銃弾は通っていないが衝撃で肩が痺れ

膝を付く

「ボスの命令は絶対」

白髪の少女がダガーで俺の首筋をうっすら切りそのまま抑える

「楽郎!!」

「懸賞金1位も動くなよ」

ステラさんの背後で金歯の男が剣を突きつけていた

「アリスラさん 逃げてください!」

「ふん その女は職人か

なら助けてやる

去れ」

「楽郎! 私は戦え」

「黙れ!!!」

俺は叫ぶ

ステラさんは動けない

俺は完全に拘束されている

せめてアリスラさんに希望を繋ぐ

それが今取れる俺のベストだ

「っ!!

絶対に戻って来るんだよ!!!」

アリスラさんが走り去る

それでいい

「それでは私達の自己紹介と行こう」

ウェリドムが岩に腰掛け

髪をすっと串でとく

それと同時に別人の顔へと変わっていく

そう 俺と同じ東洋人の顔

いやおそらく日本人のそれへと

「私の前は上神<うえがみ> 太陽<そる>

君と同じ転生者だよ」


「私の前は上神<うえがみ> 太陽<そる>

君と同じ転生者だよ」

「...嘘じゃない みたいだな」

だが俺と違って相当強いな

魔素の量もステラさん並か

「私もそう ボスとは世界が違うけど」

「俺たちトライデントは転生者を集め

この世界を導く

どうだ 楽郎

私達と共に来ないか?」

「...論外だな

あんた達がやってるのはただの犯罪だ

それも組織的にやってるだけ質が悪い」

「犯罪?

だからどうしたんだ?

私たち転生者は全員元の世界で理不尽に殺されている

労働の限界を超えたトラック運転手の過失 薬害 精神的な異常による自死

お前は本当にそれでいいのか

私は違う

前世では無理でも せめてこの世界から理不尽を無くし

世界を1つに導く

そう 絶対的な平等と平和だ」

「なら何でステラさんを殺そうとする!

ステラさんは関係ないだろ!」

「魔具<ガイスト>はいい

現代魔術もな

それは人々が平和に 1つになるために必要なものだ

だが古代魔術はだめだ」

「何を」

「古代魔術を習得したお前なら分かるだろう

古代魔術は持つ者と持たざる者の格差を広げる

それも身分制度を生み出すほどに圧倒的な格差をな」

「だからってこの世界で身分制度が復活するようなことは」

「あり得るさ

現に私に献金してくる企業の多くは

圧倒的に賃金が高く

その他の企業を淘汰していっている」

「...それは」

元の世界でもあったことだ

所属する利益団体による不可視の身分制度

その側面は否定できない

「だが古代魔術で同じことが起きるとは限らないだろ」

「起こるさ

転生者によって徐々に古代魔術を再現する方法が判明している

実際に魔具<ガイスト>の一部は古代魔術を再現できるところまで

あと30年もすれば届くだろう

それらを一部の企業が独占すればどうなる?」

「我らが世界を統一し

その女のような古代魔術の使い手を殺し続ける」

「正しいのかもしれない

誰もが平和に生きられる世界」

「そう思うなら私に下れ」

こいつの言ってることは正しいのかもしれない

俺は実際 元の世界で過労状態のトラック運転手に轢かれて死んだ

一方で格差社会が産んだ奴隷とも言える彼らを恨むことは出来ない

その鬱屈がないと言えば嘘になる

「だが

それでも俺は」

「俺はこの世界で熟女ハーレムを作る」

そのためにも

「俺はステラさんを

守る!!!」

光の魔素を首元に集中し首でダガーを抑え

少女の足を蹴り飛ばして拘束から抜け出す

それと同時に抜いた銃で太陽の顔面めがけて光弾を撃つ

「ボス!」

少女が飛びかかり太陽に迫る光弾を切り裂く

「ステラさん!!!」

「えぇ!!」

ステラさんが惑星魔術を同士を反発させて発動させ自分の体を吹き飛ばす

俺の手を掴み上空へ飛び上がる

「楽郎 しがみついて」

「はい!」

刀を納め

ステラさんの火星の星に全力でしがみつく

「あんた達には置いてくわ」

ステラさんが火星以外の星の術式を一斉に展開して

太陽と金歯男のいる場所にあらゆる属性の攻撃を叩きつける

どうなったのか分からないが

今は逃げる

「ぶぅぉっ~~~~~~っ!」

「もうちょっと飛ばすわ」

息が出来ないほどの速度で飛び去る

「! あれは!」

走っているアリスラさんが見えた

「連れてくわ」

急激に降下し

「アリスラ!」

ステラさんがアリスラさんを掴んで引き上げ

「無事だったのかい?」

「何とかね とにかく逃げましょ」

空はどこまでも青く澄み渡っている

俺達は初めて敗北した

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