第24話 To the city of desire
翌日
俺たちは旅の準備を整え
ライゼンさん達に別れを告げ
夕刻になる頃にルクルスを後にした
「楽郎 ちょっといい?」
俺がフィルビスの屋根で夜風に当たっているとステラさんが上がってくる
「次の街のことですか?」
「そうね
ラクロエなら夜明けの明星に関する情報もあるはずよ」
「...はい」
「不安?」
「全く相手の実態が分かりませんし
ステラさんを狙っていることぐらいしか」
「楽郎もだけどね」
「? どうして俺が」
「私は楽郎をおびき出すための囮だったかもしれないでしょ」
「...それは何で」
「転生者だからよ
奴らの情報網の凄さは楽郎や私が想定してるよりは上と考えるべきだし」
「それは」
「ほぼ10年以上表立って活動してなかった私の惑星魔術を知ってたし
襲撃のタイミングも明らかに測られていたし
惑星魔術の弱点である
魔素の精密なコントロールが出来ない環境を即座に作ってきた」
「!? そんな弱点が」
知らなかった
まぁ 知ってても俺の魔術だと作れないけどな
ステラさんが胸元のペンダントをすっと持ち上げる
「アリスラに頼んで対策用の魔具<ガイスト>は作ったけれど
今度はどんな手を使ってくるか分からないわ
直接対決になる前に夜明けの明星の情報を出来るだけ集めたい」
「それで首都で軍が奴等と戦っている間に」
「えぇ そっちに勢力を削がれる上に
アングラな街だから拠点の1つぐらいはあるはず
そこから情報を集めてから殲滅できればいいけど
もし情報を集めきれずに戦いになれば即撤退 いい?」
「えぇ でもステラさんなら1人で拠点の1つぐらい殲滅出来ちゃいそうですけど」
「あぁ 楽郎は対人戦は経験少なかったわね
そんな簡単でもないのよ
獣と人間相手の戦いは全く違うわ」
「...」
「戦術 地形を利用した魔術 魔具<ガイスト>
獣相手に一方的に有利だったアドバンテージがなくなる
それどころかむしろそれらを利用して相手が優位を取ってくる
1個人の能力により戦術の相性の方が重要になってくるわ」
ステラさんを襲撃した連中も1人1人は大したことはなかったが
結界によって惑星魔術を完全に封じることでステラさんを無力化できている
「不利な戦いになりそうですね」
こっちはほとんど手の内がバレいる上に
相手は金で半グレを雇ってある程度は人数を増やせる
つまり手札を増やせることになる
組織に狙われるってのは厄介だな
3日後
ピンク色でデカデカと尻と唇の文様が描かれた外壁に囲まれた街
ラクロエか
いかにもな見た目だ
それに街の中に入るといたるところに露出の多い女性が客引きをしている
だが街の区画が別れているらしく街を2つに割るように通っている川を渡ってからは
一般的な住宅街と商店街が広がっている
色街と違って女性は全員首元まで布で隠し長袖、長ズボン、もしくは地面に付きそうなロングスカート
極端だな
「ステラさん?」
珍しくステラさんがマフラーを首元までしっかり巻く
「郷に入ればってやつよ」
「職業が露出で別れてるんですね」
「そう
露出が多いと娼婦と間違われることが多いみたい
アリスラが昔 大変だったみたいだし
それに標高もちょっと高いからちょうどいいのよ
アリスラには合わないみたいだけど」
アリスラさんはフィルビスで待機するらしい
よほど嫌なことがあったらしく絶対に街には入らないとのことだ
数時間前
「あたしは街の中には入らないよ
絶対ね
いい素材があったら買い付け頼むよ」
アリスラさんが俺に銀貨をこんもり握らせる
「ってお金多すぎません?」
「夜の街 楽しんできな」
とアリスラさんが俺に耳打ちする
「ちょっと! アリスラ!!」
ステラさんが顔を真っ赤にする
「理解のある女ってやつさ」
「わ 私も べ 別に困らないけど
変な病気とかが心配なだけよ
そ そうよ」
「独占欲の強い女は嫌われるよ」
「ぐっ 楽郎 お小遣いあげるわ」
ステラさんが俺に銀貨を握らせる
「ついでにいい素材買ってきな」
アリスラさんが俺のバックに銀貨を突っ込む
「ちょっと足りないかしら」
今度はステラさんが俺のバックに銀貨を突っ込む
「ほらおまけしとくよ」
アリスラさんが俺のバックに銀貨を突っ込む
ステラさんとアリスラさんが次々と俺のバッグに銀貨を入れていく
何を競ってるんだ この2人は....
ありがたいが面白そうなものでもあったら買って来るか
ステラさんと2人で街の隅々まで歩いて回る
色街の方はともかく 街が認めているカジノ以外にも賭場があったりと
夜明けの明星の件があったからか
どこも怪しそうに見えてくる
宿屋 ダンガン
「夜になったら楽郎は色街の見回り
私は賭場を回ってみるわ それでいい?」
俺は頷く
夜
色街 ガーデングランマストリート
ステラさんとアリスラさんに出会う前ならこういう所に行きたがったんだろうな
熟女系の店もあるし見る分には悪くないが
正直入りたくはないな
「はーい お兄さん 寄っていかない?」
「...」
俺は目を合わせないようにしながら早歩きで通り過ぎる
明らかに薬物の匂いがする女が混ざっている
そういう店には付き物なのかもしれんが 薬の知識がない俺からすると危険だな
ひとまず色街にある酒場に入る
「へい 兄ちゃん キメてくか?」
スキンヘッドの大男が前に立ちふさがる
「ミルク飲みに来ただけだ」
「ガキの店じゃねぇんだぞ
ゲベッ!」
スキンヘッドの男が俺に大声を張り上げようとした瞬間に
後ろからケツを蹴り上げられて奇声を上げる
「ブラザー!」
スキンヘッドの男がケツを抑えながら振り向く
「どけ 商売の邪魔だ
お客さん ミルクでいいんだな」
角刈りのサングラスのゴツいおっさんが
ドンッとでかいグラスに牛乳を注ぐ
「あぁ キマってない奴で頼む」
「あぁ 安心しろ このバカは酒に弱すぎるだけだ
ヤクキメるような根性はねぇよ
あとウチはヤクは禁止だ」
「そうか
あんたはいかにもな感じだけどな」
「兄ちゃん 人を見た目で判断しちゃいけねぇな
それで優男の兄ちゃんが似合わねぇ酒場に来たのは何の用だい?」
サングラスからするどい視線を送ってくる
こいつがマスターっぽいな
それに体から溢れ出る魔素の流れからかなりの使い手なのが分かる
「夜明けの明星について聞きたい」
「しっ!!」
グラサンのマスターが俺の口を抑える
「何を」
「馬鹿野郎 あいつらを探るのがどれだけやべぇか知らねぇのか」
「何かあったんですか」
「何か何も あいつらは誰も手が出せねぇんだよ
色街もカジノも全て資金から握られちまってる
色街にヤクが入りだしたのもあいつらが来てからだ
だがあいつらは強すぎる治安維持軍ですら手も足も出ねぇ
この前数人の隊員が見せしめに殺されてからは」
「!!
お代はここに置いとくぞ」
俺は銀貨を2枚おいて酒場から出る
カジノ方面に行ったステラさんが心配だ
今回はステラさんも魔具<ガイスト>を持っているとはいえ
前回のように襲撃してくる可能性が高い
「おい 兄ちゃん こいつは多すぎ」
グラサンのマスターの声が一瞬で遠のくほど全力で走る
「はい お兄さ キャッ!」
ボフッ!!!
ヴィスターブの暴風で飛び越えて屋根に飛び上がり走る
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