第17話 To the acquisition

記憶の街の北西部


ドンッ!!!

「シータ!

このっ!」

ルーレルとシータが戦っていた

「ルーレル やめて」

ドスンッ

「くっ」

シータの惑星魔術の球体がルーレルの胴体を軽く小突く

ルーレルの体が紙のようにふわりと浮き上がる

「ぐっ

はぁはぁ

何でよ

4大魔術を全部使える私が

何であんたに勝てないのよ!!!」

「魔術の根源は扱うものの心

正しく心が整わないと威力は出ないよ」

「ふざけないで!!!

魔術はただの現象よ!

魔素と術式さえあれば」

「でも魔術の術式は私達自身なんだよ」

「そんなことあんたに言われなくても!!」

「分かってないよ ルーレル」

俺もルーレルの意見と同じだが

どういうことなんだ

心とか抽象的なもので魔術が発動できるなら苦労しないだろ

魔具や現代魔術のような術式を常に保持したりする文化が根付くわけがない

実際に魔素と術式が揃えば魔術は発動する

「魔術は信じること

信じることによってのみ威力を増すの

自信の魔素の量を超えて」

「嘘よ!!

そんなの絶対にありえない」

「見たでしょ

魔素量がほぼ同じの私とルーレルでこれだけ魔術の力に差が出てるよ」

「信じない 嘘よ この嘘つき!」

だが実際に起こったことを否定は出来ない

つまり信仰心が古代魔術の威力強化の1つのピースなのか?

「魔術の基本は直感よ!!

体内の魔術術式が整えば術は勝手に」

「そうじゃない」

「うるさい!!!」

ルーレルが重力魔術を発動する

シータの足元にあった石の1つが

プレス機で潰したかのように潰れていく

ちらっとだが見えたぞ

ルーレルの手のひらの血管の一部にだけ魔素が集中して複雑な模様が浮かび上がる

「やめて

もう戦うのはやめようよ」

シータの体が惑星魔術の星の1つに乗って浮遊し

重力魔術の範囲から飛び上がる

「うるさい

ぐっ!!」

ルーレルの手のひらの皮膚が破れ血が流れ出す

「もうやめて

そんなに傷ついてまで戦う意味ないよ!!!」

ルーレルが鼻血を流し始める

「うるさい 私が

私が最強の魔術師になって

あんたも この腐った世界をぶっ壊すんだから!!!」

「!!!

まさか頭に術式を?」

「はぁはぁ

そうよ

人間の体で一番術式に利用できそうなところ

ふふふっ アハハハハハ!!!」

「だめっ!!!」

シータが惑星魔術の星をルーレルめがけて撃ち込む

「あ?」

ルーレルが急に倒れ込む

「え? うそ

ルーレル?

いや....」

シータがルーレルの体を揺する

「そんな...

術式に頭を使っちゃいけない

そんなの当たり前なのに

どうして!」

「....」

雨がポツリポツリと降り始める

そして俺の体をすり抜けていく

ザァァァッと雨が強まり

シータの泣き声がかき消されていった


翌日

シータはルーレルを街の医者の家まで運んでいき

ルーレルは無事1命を取り留めた


翌日 日曜学校

昨日のルーレルの犠牲のおかげで分かったことは2つ

1,古代魔術は人間の血管や神経を術式として用いる

2,古代魔術の術式に脳を使ってはならない

ひとまず俺は相変わらず読むのが遅い少し年少の組に混ざって本を読み漁る

「古代魔術の発動条件は」

ある少年が開いていた本に記載があった

自らの体の中に術式ができたに適切な魔素を流す

やはり納得がいかない

現代魔術を知っているから分かるが

あんな複雑な幾何学模様と意味のある文字の羅列を体の中に作り出せるものなのか

それも発動したい時に限ってだ

「シスター ここ分からないぃ」

ナイスだ少年 名前も知らないけど

「あら

自らの肉体に術式を作る方法ね

大丈夫よ

いつでも肉体には術式が作られているから」

「「え?」」

俺と少年の声がハモる

「どうやってやるの?」

「レビルくんは光の適性だよね」

「うん 指先からちょっと光出せるよ ほら」

マジかよ びっくり人間じゃねぇか

俺なんか術式なしだと何もできないぞ

「そうね つまり光を出すための術式が出来てるってことよ」

「えー でも何となく指のあたりに力を入れただけだよ?

他のとこだと出来ないし」

「適性があるだけでその属性の魔術の術式が成立しやすいけど

体のどこもかしこも術式として使えるわけじゃないの」

「えー 何で?

左の指だと出来るのに右の指だと出来ないんだよ?」

「そうね

体はどこも構造が違うから」

「えー 指なのに?」

「少しずつ形が違うでしょ

だから使える魔術も違うのよ」

「そ そうだけど

だったらこっちの指で使える魔術教えて!」

「そうね 魔素が5倍ぐらいなったらね」

「えー そんなの大人にならないと無理じゃーん」

「そうかもね

でもビビッと直感で分かる時が来るから

それまで真面目に魔素の力を鍛えていくといいわ」

「ちょ 直感って

そんなぁ」

「あら 直感って凄いのよ

私もここの教区長様も

直感を磨き続けて色んな魔術が使えるようになったの」

「直感が磨くとか難しい」

「そうよねぇ

でも魔素を操る感覚を磨いていけば誰でも

自分の適性にあった魔術を使えるようになるのよ」

「ふーん 嘘っぽい

僕の父さんも母さんも魔術はほとんど使えないし

あんな胡散臭いものより金だって」

「そうね お金は大事ね

でも覚えておいて

直感を磨いて魔術を身につける

そんな選択肢もある」

「うん」

―――そういうことだったのか

古代魔術の発動にとって一番大事なのは


直感


自分の肉体の血管や神経を術式として組み上げる

その膨大な幾何学的な模様の組み合わせパターンを選び抜く直感なんだ

そして貴族じゃなければその力を発現しにくいのは

術式を組み上げる直感を磨く時間が取れないから

元の世界で言う高等学校や大学に行く前に働かざる負えないからだ

見た感じ 貴族は土地持ってるだけで遊んで暮らせる時代っぽいし

それだけ魔素を体に流して遊ぶ いや直感を磨く時間も取れるってわけだ

「あ でもお腹空いちゃったら忘れるかも」

「そうね そろそろお昼の時間にしましょう」

「えへへ」

少年が水とパンを渡されるのを横目に見る

「もぐもぐ」

現代魔術や魔具のように術式が外部化され民主化されるまでは

ずっと貴族だけの持ち物だったってことか

「ひとまずやってみるか」

俺は魔素を自分の体内の血管の一部だけに流れるように

細い糸状にしていくイメージをする

「....」

無理か

この記憶の中の世界では生身の体のように魔素を操ることはできないらしい

だがすべてのピースは揃った

あとは

ピシッ!!!!

世界そのものに亀裂が入るように空が割れていく

「なっ これは!?」

目が覚める

「楽郎?」

ステラさんの声だ

やっと目覚められるらしい

記憶をこのまま持って戻れるならいいが

いやそう願うしかないな


「大丈夫?楽郎」

ステラさんが俺に膝枕していた

幸いにも記憶は全部ある

「最高です

ステラさんに膝枕してもらえるなんて」

「ちょっと!

あなた半日ぐらいずっと気絶してたのよ」

「そういえばあの人 レイスさんは?」

「私が捕まえて 賠償の交渉中よ

ふんだくってやるわ」

「流石ですね

でもその賠償は要らないですよ」

「ど どうしてよ!

半日間意識を失うような電撃なんて

死んでもおかしくないのよ」

「でも俺は掴めましたよ

古代魔術の概念

いや直感と言うべきか」

「直感?

念じるだけじゃないの」

「ステラさんの才覚があればそれでも出来るかもしれません

でもそれは本質じゃない」

俺は魔素を全身に緻密に編みのように張り巡らせる

そして

ただ念じる

光あれ 

いや光は既にそこにある

それと同時に俺の手の中に光の玉が現れる

「やっぱり出来た」

だが

「ぐっ」

全身から力が抜けていく

パッと光が消える

とんでもない消耗量だ

さすが古代魔術だな

もうほとんど力が残ってない

魔素の食い方が異常だな

「ステラさん

見ました か」

意識が消える

「流石 私の男ね 楽郎」

意識が完全に途絶える前にステラさんの微笑みが見えた気がした

そして唇に温かい何かが触れた気がした

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