第16話 To the acquisition
「ここは?」
俺は見たことのない街に立っていた
明らかに元いた街 ルクルスとは異なる
何より建物がすべて1階建てで作りが荒い
石をただ乱雑に積み上げたものが多い
「なっ」
人がすべて俺の体をすり抜けている
どころか全く見えてないようだ
そして俺の声も何もかもがこの世界に影響を与えられない
当然のように地面と足が接することがないため歩くことすらできないが
念じればゆっくり移動はできる
「これが過去の記憶 古代の世界なのか」
不便極まりない
この状態でどうやって古代魔術の概念を掴むんだよ
「シータ お前 惑星魔術しか使えないんだろ」
「だっさー うちらは4大魔術全部使えんの
才能が違うんの 貧民のあんたとはね!
さっさと有り金全部出しな!」
いや言葉が分かる
恐らく古代語を話しているであろう少女2人の会話の意味が
ものすごくクリアに分かる
これならいけるかもしれない
「ぐすっ」
ステラさんに似たシータと呼ばれた少女が震えながら銅貨を差し出す
もう1人の少女はその銅貨をぶんどりシータを蹴飛ばすとどこかに走り去る
この時代にもいじめがある
いやステラさん達 魔具が普及した現代人よりいじめがひどいはずだ
魔具は人を平等にした
才能がなくとも1人1人が人間相手なら必殺級の魔術が使えるんだからな
だがこの時代に魔具はない
あるのはステラさんのように恵まれた素質の人間だけが自由自在に使いこなせる古代魔術のみ
「4大魔術 重力<グラビト> 錬成<アルケミト> 空間変異<サティロスト> 蘇転生<リィンカート>
全部出来なくても私は大丈夫
だって惑星魔術があればお星さまが見守ってくれるから」
シータと呼ばれた少女は立ち上がると涙を拭って陽の方向へ歩いて行く
「蘇転生<リィンカート>
空間変異<サティロスト>
俺の転生は
まさか な」
空間変異<サティロスト> つまり異世界の空間に干渉し
蘇転生<リィンカート> 死んだ人間を蘇らせるもしくは別の生物の体にその生命力を移植する
そうすれば理論上は俺が転生したカラクリは説明が付く
つまり古代人であれば異世界人を転生させることができる
「いや やっぱりないな」
何せ俺が会った女神の説明がつかない
彼女は明らかに人間のそれではなかった
少なくとも今見ている古代人達と比べると全く見た目も雰囲気も違いすぎる
俺が転生した謎に関してはまだピースが足りない
そもそも情報不足の今だと前提から間違っていそうだな
「ともかく」
あの自称才能のある方の少女を探すか
シータって子には悪いが追うのはやめておこう
俺は彼女を助けるどころか触れることすら出来ない
街をちびちび移動していく
ようやく慣れて歩くのと同じ速度で移動できるようになった
足はつかないし ふわふわ移動するし幽霊にでもなった気分だよ
数時間探し回ること
なんとかあのいじめっ子を見つけることが出来た
「ふふーん」
じゃらじゃらと銅貨を手に握りながら歩いている
ほんと鼻につく奴だな
ドンッ!
少女が誰かにぶつかる
「てめぇ
俺がどこの誰かわかってんのか!!」
小太りの大男が金切り声を上げる
「ご ごめんなさい ごめんなさい」
「ごめんなさい?
それで済んだら衛兵はいらねぇんだよなぁ!」
小太りの男は少女の首をつかんで持ち上げる
「かっ 痛い 痛いぉ」
「貴族にぶつかって唯で済むわけないよなぁ!?」
「いや いやぁ」
パシッ!
小太りの男が少女の頬を思いっきりひっぱたく
「へへへっ
ざまぁ見ろってんだ」
少女は地面にぐったり倒れたまま動かない
意識はあるらしいが小太りの男が立ち去るのを待ってから立ち上がる
したたかだな
とはいえこれが古代魔術しかない世界か
ロクでもない貴族が住人を一方的にいたぶる
俺の元いた世界だと流石にここまでのはなかったな
「ただいま」
少女が家に入る
流石に家の中まで行くのは気が引けるな
とはいえ俺も古代魔術の習得に必要な概念を身につけなきゃならない
ここは押し通らせてもらおう
透けるから透き通らせてもらうが正しいけど
家の中は木製の椅子が2つと
いくつかの鍋と石器とベッドぐらいしかない
まじで何もないな
何より本が1冊もない
これじゃ覗き見もできないし概念習得どころじゃないぞ
「おかえり どうしたのその顔」
「貴族のクソデブに叩かれた」
「ブーミオ・キースデット
ゴミみたいな貴族よね
でもそういうものなの権力はいつだって腐敗する」
「お母さん
そこは貴族様になにかやったんじゃないかって
怒るんじゃないの?」
「誰がそんなこと言ってたの?」
「隣の席のルージがパパにそう言われたって
何回もぶたれたって」
「あのね ルーレル
親は何があっても子供を信じるものよ」
「お母さん」
少女はルーレルって言うのか
いいお母さんだな
ルーレルはカツアゲ不良少女だけどな
「でもシータちゃんから銅貨取り上げるのはだめね
うちは貧乏だけど盗人じゃないのよ」
「え なんで?」
「やっぱりそうなのね」
ゴスンッと部屋中に響き渡るほどのゲンコツがルーレルの頭に炸裂した
ルーレルとお母さんはシータの家へと向かい
「うちの娘が大変申し訳ございませんでした!!!」
すごい平伏しながら謝っていた
「いえいえ お金は返してもらいましたし
うちの娘と仲良くしてやってくださいな」
シータの家はルーレルの家と比べかなり大きい
平民の中でもこういう格差があるのか
理不尽だな
貴族とは比べ物にならないが少し裕福なシータに嫉妬していたんだろう
親の経済格差が子供の人格形成に影響を与える
いい社会勉強に....って
って俺は古代魔術の概念習得に来たはずなんだが!!
「ほら ルーレル!
頭をもっと地面にこすりつけて!!!」
「ちょっとお母様やりすぎですよ!?」
シータの母親が全力で止めに入る
色々破天荒だな
次に俺はシータの家に入ってみることにした
すると数冊は本がある
だがどれも基礎魔術に関する本ではない
「やはりないか...」
冒険記に魔素の使い方系の超基礎的な部分しかない
四則演算に関する本 一応あるのね算数
最後に一番しわしわになっていて読み込まれている本が
リスレイド人の商売に関する本らしい
推測だがこの古代魔術文明においては
人種差別がありそうな感じだ
だがわざわざ金額に関係ない著者の人種を出すってことは恐らく迫害されているのだろう
魔具が開発されるまで手先が器用だったり商才のある人種は差別されてきたんだろうな
印刷技術がないのか本も手書きで写したやつ以外はないし
期待できるのはこの2人が通っているであろう学校みたいなところだな
子供は労働力とは言えど最低限の読み書きが出来そうなところを見ると日曜学校的なところには通っているはずだ
まずはそこに行ってみるしかないな
この2人より少し下の学年ぐらいの日曜学校的なところで
本を盗み見れれば何とかなりそうだ
レイスにやられた電撃のおかげか
今は古代文字も読めるからな
何とか掴むしかない
「はーい それでは授業を始めますよ~
自習でーす」
どうやら日曜学校は教会の横の建物で行われるらしく
いくつかの本棚が並んだ部屋の中で俺と4~5歳の少年、少女が本を一心不乱に読んでいる
俺は盗み見だけどな
教会のシスターらしい老年の女性が子供を見回る
日曜学校の子供は全員が年齢が違うため授業はやらないようだ
その代わりに分からない子がいると個別授業が始まる
子どもたちには悪いが 分からない子が多い方が助かるな
今の俺は見えないし触れない幽霊状態だが
子供の本をずっと覗き見してるのは気が引ける
「それじゃあ 今日はここまで」
日曜学校が終わると子供は家に戻って仕事の手伝いや
古代魔術の練習をしたりと様々のようだ
経済格差がそのまま古代魔術の練度に関わってくる
残酷な魔術格差ってやつだ
クソみたいな貴族制が維持出来るのにはこういった背景があるんだろう
「さて私は禁書を ふっふっふ」
体が透けてるから本が本棚に収められた状態でも見えないかと試行錯誤していると
シスターがぶつぶつ言いながら別室に移動していく
禁書 か
興味深いな
シスターの後を付いていくと
教会の隣にある倉庫についた
倉庫とは言っても木で作られた小さな小屋だ
一部木が剥がれてるしすんごいボロい
中に入ると本が少しと祭具が置かれている
聖水を入れる器に十字架と燭台
「ふふふふっ
フヒャヒャ!」
シスターがしちゃいけない顔と声をしながら
予備の祭壇から本を取り出す
禁書ってのは一体何なんだ...
「ヒヒッ ニヒヒ」
シスターが修道服をたくし上げて自慰行為をおっ始めた
「ん あっ おおっ はぁ」
「BL本かよ!!!!!」
俺は盛大なツッコミを入れながら倉庫から飛び出す
クッソ!!
やられた完全に外方の魔術とかすんごいやつだと思ったのに...
だが納得だな
現代ならまだしもこの時代に同性愛が許されるわけがない
毒づきつつも俺は街を見回る
どこにヒントが落ちてるかも分からない
もうあのシスターに期待するのやめよう
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