第3話To the Dark with moon light
コンコン
「すいません ステラレッドステっ スティアーナ・ベルフェガーダ・ドレスティアさんのお宅ですか?
早乙女 楽郎と申します」
噛んでしまった
こっちの世界の住人はやたらと名前が長い人がいるのである しかも発音が難しい
「はーい 何の御用で」
胸までかかる長く乱れたブロンドの髪に切れ長の目、うっすらと入ったほうれい線
100cmはあるであろう大きな腰周りに薄っすらと薔薇の香りに加え
魔女のコスプレのような濃藍色のローブ
「好きです!!!」
「え!?」
何言ってるんだ 俺は!!
ステラさん困惑しきって顔がひきつってるよ
「間違えた 俺と一緒に冒険してくれませんか!!」
「お断りします」
うっ めっちゃタイプな女性に振られると精神的に来るものがあるな
つらいです はい
「それに私は自分より年下で 鍛えてて 身長が同じぐらいで
毎日沐浴か体を布で拭いてるような清潔感があって 髪は黒で チャラチャラしてなくて
真面目で 夢があって ちゃんと怒るけどちょっと優しい人じゃなきゃ嫌なのよ」
「そうなんですねー」
条件多いな
それに何か恋人っぽくないそれ?
だが一瞬でこれだけの条件をさらっと言える辺り かなり頭がキレる?タイプ
ますます好きになりそうだよ
もうフラレてるけど
いやちょっと待てよ
「俺はその条件 全部満たしてますけど」
「う 嘘よ ありえないわ
それにあなたどうして私の家が分かったの
もしかしてストーカー?」
「違います 俺はリーンヴェルトさんに」
「リーンヴェルトっ!!!
あの女!」
ステラの表情が一変し、鬼のような形相に変わる
怒ってる顔も素敵だ
「早く帰りなさい」
ギンッ!
ステラさんの眼力だけでピクリとも体が動かなくなる
なんだ これは
熟女の魅力とかそういう類のものじゃない
何かが俺の体に確実に作用して止めている感じだ
「動け ないんですけど・・・」
「ふん」
バタンッ
ステラさんが扉を閉めた瞬間
一瞬にして体の拘束が解かれ体が動くようになる
「これは一体 何なんだ」
魔法ってやつか、街中でそれっぽいコスプレしてた人はいたが
まさかな
それに魔法があったとして俺には一切の対抗手段がない
「はぁ 今日は銀貨3枚で泊まれる宿を探すか」
夜空を見上げながら歩く
この世界は電灯が少ないせいか割りと星が見えるのがせめてもの救いだな
ステラの家
「何なの いきなり好きって」
ステラは手で胸に当てて天井を見上げる
「本当にいるとは思わなかった
私は」
宿屋・サック
何とか宿屋を探せたが宿代が高い
文明が中途半端に進んでるせいかインフレがかなり進んでいる
銀貨1枚でも街で最低辺の宿屋に1泊できるぐらいだ
宿主には誰が来ても絶対に扉を開けないようにとか言われるし 何なのこれ
「つめたっ!!」
水桶はあったので川から水を引っ張ってきて体を洗う
案の定 痛いほど水が冷たい
ガスも電気もないんだから当たり前だが
あったかいシャワーが浴びたいぜ
それに宿の飯も黒パンに油っこいシチューだけだ
食えるだけありがたいが元の世界の米と味噌汁が恋しくなるよ
一通り体を洗って部屋に戻る
殺風景だな
ベッドが隅に置かれているだけで
机も椅子もない
本当に素泊まり用の宿だ
ベッドに横になっていると
眠くなってきた
ほぼ1日中走って歩いてたからな
コンコンッ!
扉を叩く音がする
「はい 誰ですか」
「隣の部屋の者なんですが
眠れなくて少し一緒にいてほしいのです」
小さい少女の声だ
1人で泊まってるのか?
見るからに最底辺っぽい宿なのに
ありえないだろ
「はいはい」
扉を開けると
「じゃっじゃじゃーん」
「奴隷1人ゲット」
大男2人が首輪のついた少女をナイフで脅しながら立っていた
「な」
扉をとっさに閉めようとしたが足を扉の間に突っ込まれ強引に開けられる
「誰か」
「エウリュアレの目」
男が何かを唱えた瞬間に俺の口が石のように止まる
「かっ あっ」
声が出せない
何だ 何をしたんだ
「おいおい そんなもん使うまでもねぇだろ」
大男が剣を鞘を抜かないまま振り上げる
「これで十分だろ!!!」
「!!!んっ」
視界が赤黒く染まった
「っ!」
頭と首のあたりに激痛が走り目が覚めた
ボロボロでささくれた椅子の上に座っているのが分かる
手は椅子に縄で結ばれているが、足は動かせる
下を見ると地面に血痕が残っている
拷問でもあったのか
嫌な予感が頭をよぎる
紡績か何かの道具が置かれていが廃屋だな
最近は一切使ってないらしくホコリまみれだ
地面にはくっきりと5~6人分の足跡が残っている
「目醒めたか」
大男が闇に佇んでいた
全く気づかなかった
どんな仕掛けだよ
「お前 魔術が一切使えないのか
面白いな 異世界人ってやつか」
「・・・誰だよ
こんなことして警察 いや治安維持の兵隊がいるなら黙ってないだろ」
「警察? なんだそりゃ 治安維持の兵隊か
そりゃ俺のことだ」
「どういうことだよ!!!」
「リーンヴェルトの嬢ちゃんにはいつも世話になってるからな
お前みたいなそこそこ鍛えてて弱い奴を奴隷にして
手数料を嬢ちゃんに渡す
ビジネスだよ ビジネス」
「っ!?」
リーンヴェルト あの人が
「これ 銀貨の左側に傷が入ってるの見えるだろ
これを持ってる奴がターゲットなのさ」
「あの時かっ!」
レイラって女に声かけられてた時から既にターゲットになってたのかよ!!
レイラが俺に声をかけて相方の大男が俺をぶっ飛ばし、弱いことを確認する
恐らく魔術ってのを使えないことを確認したんだろう
次にリーンヴェルトが俺にターゲットの確認用の銀貨を渡す
銀貨3枚以下で泊まれる宿は街の中だとサックしかないから
あいつらはそこで俺を待ち構えていて宿屋の主人から部屋を特定して拘束か
すごい仕組みだな
もはや感心するぜ
売るものがなけりゃ人間を売り飛ばせばいいって腐りきった商売根性も
そこまでいけば清々しいな クソが
「察しのいいやつだな
合ってる
最初からだ
だが今なら俺に拳で勝てたらお前を見逃してやってもいい」
「人の手縛っといてよく言うな
でかいのは図体だけか」
「言うじゃねぇか」
ドゴッッ!!!
体が数m水平に吹っ飛んだような感覚の後に壁に激突する
「がっ はぁっ おえっっ
てめぇ」
頭と首の激痛に横原の激痛が加わる
左半身がべこっと凹んだ感覚があった
人間の形は保てているのが不思議なぐらいの衝撃だ
「魔術っての使いやがったな
でかい図体してるなら拳で戦いやがれ」
「へへへ 図体すら小せえ奴に何が出来る」
そうだ 圧倒的な体格差がある
俺には魔術ってのも、すごい剣も、防具もない
それでも
「あんたをぶっ倒す」
せっかくこっちの世界で第2の生を受けたんだ
奴隷にされてたまるかよ
俺はこの世界で
「おもしれぇな いいぜ
拳だけで相手してやるよ」
俺の両足で椅子の足をホールドし
男が拳を振り下ろす瞬間に合わせて椅子の背もたれを男の顔面にぶつける
「ぶがっ」
「熟女ハーレムを作るっ!!!」
男が顔を抑えて後ずさる
「なめやがって」
椅子の骨組みがくだけてようやく立ち上がれた
両手は縛られてはいるが、それでも幾分かはマシになったぞ
「・・・あんたが今1人なのは仲間に見放されたからか」
「てめぇ」
数歩ずつ紡績機の方へと後ずさる
「もう生きては返さんっ!!!」
男が飛び掛かってくる
速いがそれでも
身を地面すれすれにかがめて男の足に体当たりする
「なっ!」
男はバランスを崩し紡績機に顔面から突っ込んでいく
今だ!!!
男が突っ込んで激しい金属音を上げると同時に
全力で建物の外へと駆け出す
「勝った!!」
勝利ではないが逃げ切ったぞ
「っし!!!」
拳を握りながら走る
体中から変な高揚感が湧き出してくる
「さっさととんずらしt ぶっ!!」
視界が急に上を向いて直後に全身に激痛が走る
「っう!!!」
「誰がとんずらしていいって言った?」
数人の男が横に立っていた
男の1人の手から謎の光を立ち上っていた
「まさかこんなクソ奴隷に魔術を使わされると花」
「魔術!?
何だよ!!!
何なんだよ!!!お前らは!!!」
「くくっ 知らねぇのか
安心しろよ
たっぷり体に教えてやるからなぁ!!!」
男の手から発する光がフラッシュのように一瞬強まり
「かっ!!」
次の瞬間
俺の体は夜空に舞っていた
月が蒼く輝いてた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます