90. 摘出完了

 何故、俺がスキルを奪えることを知っていたのか。考えられるとしたら、コマタたちと共闘して二体のボス格を倒したときに気づかれたというところか。何度かコマタたちの前でスキルドレインを使っているからな。


 コマタには弱体化させると説明したし、巨石ゴーレムからはパッシブ的な強化スキルしか奪っていない。うまく弱体化スキルだと勘違いしてくれたと思っていたが、そうではなかったようだ。看破スキルでも持っているのか、それとも砂嵐恐竜との戦いを見られていたのか。いずれにせよ、察する機会はあったわけだ。


 スキルドレインについては仕方がない。コークスロー周辺には人が少ない狩り場というのがないのだ。かといって、人目を恐れて使わないのではメリットが十分に得られない。それならば、ファントムにはスキルを奪う能力があると知られるくらいなら許容範囲だろう。


 まあ、コマタたちには俺がファントムだと知られているので、そういう意味では問題はあるのだが。向こうの用件と引き換えに口止めを約束させることはできる……はずだ。


「何故、スキルを抜き取る必要がある? 呪いスキルでもつけられたか?」


 抜き取って欲しいというスキル。もし、シャスカの症状が昨日の男と同じものならば、それは【凶魔の贄】のことだろう。だが、全くの無関係ということも考えて、あえて惚けて尋ねた。


「ええ、そうね。呪いのようなものだと思うわ。詳しいことはわからないのだけど、シャスカがおかしくなったのは、あのスキルが原因だと思うの」

「【凶魔の贄】ってスキルだよ」


 リーザの言葉を補足する形で、ソーナが具体的なスキル名を口にする。やはり、シャスカは【凶魔の贄】を獲得していたらしい。


「やはりか」

「知ってるの!?」

「昨夜、街の外でうろついていた男が同じスキルを持っていた」


 昨日の出来事をかいつまんで説明する。


 例のヒュムの探索者はセイヤというらしい。元コマタパーティーの一員で、リーザやソーナとはそれなりに親交があるようだ。シャスカだけでなく、他の知人までもが異常行動をとったと聞き、二人は暗い顔をしている。


「……それでセイヤさんは?」

「明らかに行動が不審だった。原因を調べる途中で、そのスキルに気がついたんでな。試しに抜き取ってみたんだ。遠くから確認した限りでは、正気に戻ったように見えたぞ」

「抜き取った! てことは、シャスカも?」

「ああ、問題ないだろう」


 請け負うと、二人は顔を見合わせた後、同時に頭を下げた。


「お願いします! 力を貸してください!」

「シャスカを助けたいんだ」

「ああ、わかった。案内してくれ」


 もともと、こちらから接触しようと思っていたのだ。何の問題もない。それに、ここまで一度も“黙っていてやるから協力しろ”と言わなかったところに好感が持てる。こちらとしても気持ち良く協力できるというものだ。


 幾つか聞きたいこともあるが、まずはシャスカのスキルを取り去るのが先か。その方が話も早いだろう。




 二人に案内された先は、宿屋ではなく、わりと立派な建物だった。庭まであって、何故か小さな子供が数人遊んでいる。いや、遊んでいるにしては少々雰囲気が暗いが。


「うちは孤児院を兼ねてるから。さ、こっちよ」


 俺の視線に気づいたのか、リーザが簡潔に補足する。と、すれば子供たちが暗いのは、シャスカの状態が原因か。詳細について知っているかどうかは不明だが、大人の様子から何かを察しているのかもしれない。


 道すがら聞いたが、スキルの影響が強まっているのか、シャスカの状態は悪いらしい。夜どころか昼間もふらふらと移動するようになっているそうだ。今は部屋に閉じ込めて誰かを監視に置いているような状況らしい。


「ボス、連れてきたよ!」


 目的の部屋に着くなり、ノックすらせずにソーナが飛び込む。中は普通の個室らしい。ベッドと雑多な家具にスペースの大部分を取られているため、かなり手狭に見える。


「おお、ソーナ。リーザもおかえり。話をつけてくれたか」

「ええ」


 出迎えたのはコマタだ。部屋の主であろうシャスカはベッドで横になっている。おそらくは暴れないように眠らせてあるのだろう。


「ファントム……いや、ジンヤか。よく来てくれたニャ」

「ああ。だが、詳しい話は後だ。まずはスキルを抜き取ってしまおう」

「おお! そうだな。頼む……」


 スキルドレインで原因を取り除くだけなので、手っ取り早くすませた方が良いだろう。コマタが場所をあけたので、ベッドの前に進み、シャスカの様子を窺う。まずは、スキル看破だ。


「たしかに例のスキルがあるな。レベルは15。かなり高くなっている」


 昨日、セイヤという男から抜き取った【凶魔の贄】はレベル3だった。それに比べるとかなりレベルが上がっている。それだけ影響が強くなっているはずだ。昼間も不審な行動を取るようになったのはそのためだろう。


「……今のは? 目が光っていたようだが」


 コマタが訝しげに尋ねてくる。どうやらスキル看破を知らないらしい。ということは、俺のスキルドレインに気がついたのは別の要因みたいだな。まあ、それはいいか。


「スキルを確認した。普段は人に使うことはないが、目的のスキルをピンポイントで取り除くには事前に確認しておく必要がある」

「そうか。それで、どうにかできそうかニャ?」

「たぶんな」


 不安そうなコマタたちに頷いてやってから、シャスカの頭へと触れた。【凶魔の贄】を抜き出すべく、スキルドレインを使う。


「……ぬ」

「どうした!?」


 セイヤに対して使ったときは、瞬時と言っても構わないほど、すぐにアーツが発動した。だが、今回は少し時間がかかっている。それで思わず声が出てしまったのだ。そのせいで、コマタたちの不安がらせてしまった。


「いや、大丈夫だ」


 だが、少し遅れて俺の手の中にスキル結晶体が出現した。少々抵抗があったが、問題なく抜き取れたらしい。確認のためにスキル看破をしてみても、シャスカの所持スキルに【凶魔の贄】の名前はない。


「問題ない。無事、取り除けたようだ」


 成功を告げると、コマタたちから歓声が上がる。聞きつけてきたのか、子供たちや他のメンバーも現れた。互いに抱き合って、喜びを分かち合っている。


 できれば、色々と話を聞きたいところだが……さすがに、今、声を掛けるのは無粋か。

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