87. 怪しいスキル
「とりあえず縛るか」
睡眠の状態異常はダメージを受けるとすぐに解除されてしまうが、そうでなければ比較的長時間継続する。とはいえ、朝になるまで続くほどではないし、仮にコイツをどこかに運ぶならば何かの拍子に目覚めてしまう可能性がある。であれば、目を覚ました時に暴れられないように拘束しておいた方が良いだろう。
「ルゥが縛る?」
小首を傾げてルゥルリィが尋ねる。その傍らでは二本の蔦がゆらゆらと揺れていた。あれで縛り上げようというのだろう。
「いや、やめておこう」
ルゥルリィの蔦は拘束にも使えるが、対象の生命を吸収するという効果がついている。吸収能力は抑えることもできるが、完全に無効化することはできないらしい。うっかり吸い過ぎてしまっては困るので、もう少し穏便な方法を取りたいところだ。
「縛るものと言えばロープだが……」
俺の目の前には、ぷかりと浮かぶペルフェがいる。今は槌となっているが、基本的にはどんな姿にもなれるはずだ。ロープは試していなかったが、さて。
『え? ちょ、何で僕を見るの? 嫌だからね!』
俺の視線に気がついたペルフェが騒ぎ出す。俺の思惑に気がついたらしい。まあ、言葉に出していたからな。気づくか。
「静かにしろ。コイツが起きたら、どうする」
『いや、僕の声は聞こえてないからね! 全然問題ないから! 断固抗議するよ!』
おっと、そうだった。となれば、苦情は止まらないか。
「仕方がない。わかったよ」
『もう、勘弁してよね!』
「そうだな」
ペルフェが何かやらかしたというならともかく、今回はそうではない。ロープにするのは諦めよう。
「ますた、どうするの?」
「これを使おう」
ルゥルリィの問いに答えながら、インベントリから取りだしたのは――――ロープだ。
『って、ロープ、持ってるんじゃん!? なんで、僕をロープにしようとしたの!』
「ロープに変形した場合、どういう扱いになるのか気になったからだが?」
単なる知的好奇心だ。さすがに、本気でペルフェを使って男を縛ろうと思ったわけではない。武器として使えなくなると不便だからな。
ちなみに、原則としてダンジョン産のアイテム以外はインベントリに収納することができないが、わりと例外となるアイテムは多い。このロープもそうだが、職人お手製の武器や魔物寄せの香なんかの消費アイテムも収納できる。どうやら、インベントリに収納できるアイテムは御使い公認の特殊なスキルを持つ職人が作っているらしい。その分、少し値段が高いが、利便性を考えれば誤差のようなものだ。
このことを知ったとき、公認スキルを持った料理人を探したが……残念ながら出会えていない。もし、見かけたら食料の買いだめをしたんだがな。
まあ、それはともかく、手持ちのロープで手足を縛ることができた。探索者の筋力を考えると引きちぎられそうなものだが、素材が特殊なのか、このロープも頑丈だ。おそらく、問題なかろう。
「おい、起きろ」
「うぅ……」
ぺしりと軽く男の頬を叩く。正気に戻っていることを期待して、ひとまず起こしてみることにしたのだ。コイツをこのままここに置いておくわけにはいかないので、街まで連れて行かなければならない。正気に戻って、歩いて帰ってくれるならその方が良いからな。
とはいえ、それほど都合よくはいかないようだ。
「なんだ、ファントムか? おや、これはいったいどういう……」
半ば予想していたものの、男の様子は依然おかしなままだ。暴れこそしなかったものの、明らかに反応がおかしい。不気味な笑顔を浮かべたまま、危機感もなく自分の手足を確認しているのだ。正気に戻ったのなら、記憶の有無に関わらず、俺を罵るくらいのことはするだろうに。
「仕方がない。また、眠らせておくか。ルゥルリィ」
「あい」
ルゥルリィに頼んで、再び眠らせる。
「状態異常とも思えんし、どうすればいいんだ」
シャスカと同じ症状だとすれば、朝になれば正気に戻るはずだが、さすがにそこまでは付き合いきれない。となると、コークスローのどこかに転がしておくしかないか。
手間を考えると憂鬱だ。そんなとき、ペルフェが小さく呟いた。
『うーん。状態異常じゃないとすると……呪いとか?』
呪いか。悪くない着眼点かもしれない。
特にシャスカの場合、状態異常にしては継続時間が長すぎる。繰り返し同じ状態異常に陥っている可能性も否定はできないが、永続化していると考えた方が妥当だ。そして、永続化するマイナス効果として代表的なものが呪いである。
俺の知る呪いといえば【呪い:生命の蝕み】によって強制取得させられる【生命の蝕み】だ。あれは、スキルを所持している限りスリップダメージを永続的に受けるという効果だった。同じように、この男も呪いによって、混乱のようなマイナス効果を受けているのかもしれない。
だとすれば、話は簡単だ。スキル看破とスキルドレインがあれば、呪いスキルを除去することができる。
「敵対していない探索者にはなるべく使わないようにしていたが……まあ、非常事態だ。悪く思うなよ」
聞こえてはいないだろうが、一応断りを入れてから、スキル看破を発動する。すぐに、スキルリストが頭の中に浮かんだ。魔物に比べると多いが、俺の所持スキルと比べればかなり少ない。まあ、俺の場合、スキル結晶体で取得したものの、ほとんど使ってないスキルもあるからな。一般的にはこんなものなのだろう。
「さて、呪いスキルは……と」
スキルリストを上から順に流していく。果たして、リストの最後にそれらしいスキルがあった。
呪いではない。いや、もしかすると呪いなのかもしれない。いずれにせよ、あからさまに怪しいそのスキルは【凶魔の贄】という名前だった。
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