85. 問題、ない!

 巨大樹から得たスキルは、ほとんどをルゥルリィに使用した。新規で取得したスキルは四つだ。


 【爆裂果実】は攻撃面で役に立つだろう。これは、例の炸裂する木の実だな。ルゥルリィが使う場合はファイアボールのように手元から射出する形になるようだ。炸裂させるタイミングはルゥルリィがコントロールできる。敵の数が多いときには主力になりそうだな。


 攻守両面で役に立ちそうなのが【樹皮硬化】だ。これは読んで字の如く、樹皮を硬くするだけのパッシブスキル。ドライアドの皮膚も樹皮扱いらしく、おかげで防御力はかなり上がるらしい。しかも、おまけにルゥルリィがよく出す蔦の強度も上がるので、拘束力が高まった。実に優秀なスキルだ。


 優秀と言えば、【植物成長促進】もかなり使える。農業などの植物を育てる行為の前に同名のアーツを使用すると、植物の成長速度を高める効果らしい。それだけならば戦闘には関係のないスキルに思えるが、ドライアドが扱えば極めて強力なスキルとなるようだ。


 まず、パッシブで自身の生命・マナの回復速度が上昇する効果が追加される。おまけに、アーツを使用すると、しばらくの間、植物系スキルが強化されるのだ。ルゥルリィの攻撃手段は基本的に植物系スキルなのでほとんどの攻撃が強化されることになる。


 最後は【根づく】というスキル。アクティブスキルで、同名のアーツを使うことで効果を発揮する。地面についている状態で生命の回復速度が激増し、吹き飛ばし耐性がつくらしい。


 その他については、大半がルゥルリィの習得済みスキルと被っていた。だが、たいていは巨大樹のスキルレベルがルゥルリィのそれと比べて高かったようだ。おかげで習得済みスキルについても幾らか強化された。例えば、【樹魔術】なんかがそうだ。ルゥルリィが時折使う、葉っぱ手裏剣や蔦の壁なんかは【樹魔術】のアーツだな。魔術系統だが、ヒュムには適性がないらしく、俺は習得していない。


「ますた! ルゥ、強くなった!」

「そうだな」

『ルゥルリィばっかりずるくない?』

「いや、強化の機会はお前の方が多いだろ」

「そう! ペルの方がずるい!」

『ぐぬぬ……』


 ルゥルリィはペルフェと比べて取得できるスキルは多くない。その上、有用なスキルは俺が優先して使っていたので、どうしても割を食っていた。だが、巨大樹のスキルを得たことで、少しは不平等も解消されたことだろう。


 今回のスキル取得で、ルゥルリィの耐久面はかなり強化された。【樹皮硬化】による防御強化、【根づき】による回復速度上昇とノックバック耐性、ついでに【植物成長促進】で蔦の防壁も強化されるなら守りはなおさら硬くなる。これならタンクも務まるかもしれないな。今までは敵が多いと宿環に待避せざるをえなかったが、今ならその場に留まって戦うこともできるだろう。


 ネックとなるのは敏捷……というか移動速度か。敏捷の高い俺や、念動で飛べるペルフェに比べるとどうしても劣る。先を急ぎたいときに足並みが揃わないのは面白くない。まあ、そのときは宿環に戻ればいいだけか。


「さて、すまないが、これは俺が使わせてもらうぞ」

「あい!」

『まあ、それはジンヤが使った方が役に立ちそうだしね』


 巨大樹から奪ったスキルの中で、唯一俺自身に使うことに決めたスキルはこれだ。



【吸収力強化】<スキル結晶体 lv24>

吸収特性のあるスキル・アーツ全般の効果を高める

※種族適性により弱体化



 吸収特性というのが何を指しているのか今ひとつはっきりしないが、おそらくはルゥルリィの【吸命蔦】のような生命力を奪うスキルに適用されるのだと思う。となれば、思い浮かぶのがドレイン系のアーツ。エナジードレインやマナドレインにはおそらく適用されるだろう。そして、もしスキルドレインにも効果を及ぼすのなら、恩恵は計り知れない。盗めるスキルが強化されるってことはないだろうが、発動までの時間が短縮されればかなり助かる。


 さて、奪ったスキルは全て使い、ルゥルリィもかなり強化された。だが――……


「ますた! ルゥ、戦う! 魔物は?」


 ルゥルリィの見た目はあいかわらず幼い。なんなら性格はどんどん幼くなっている気がする。アースリルのメースレイアの森で見たドライアドたちはもっと大人のような姿だったし、ルゥルリィも元々はもっと成長した姿だったはずなのだが。


 ペルフェは、力を失ったせいで少女の姿になったと言っていたような気がする。そうだとすれば、とっくに元の姿に戻ってもいいと思うのだが。


「ペルフェ。ルゥルリィが成長しないのはなんでだ?」

『ん? 成長してるでしょ? かなり強くなってるじゃん!』

「いや、そういう意味じゃなくてだな……」


 容姿や性格のことだと説明すると、ペルフェは“ああ”と理解を示す。


『容姿なら契約したときに固定化したんじゃないかな。精霊は変わりやすい存在だけど、契約者がいるとかなり安定するから』

「それじゃあ、ルゥルリィはこのままなのか?」

『そうだけど……何か問題ある?』

「ルゥ、問題、ある?」


 こてんと首を傾げるルゥルリィ。少し不安そうだが、それは自分の容姿が変化しないことにではなく、俺がこの件を問題と感じていることについての不安だろう。ペルフェも問題視している様子はないので、精霊にとって容姿など些細なことのようだ。まあ、能力的には成長しているわけだしな。


「いや、ルゥルリィが気にしないのなら問題はないさ」

「問題、ない!」


 ルゥルリィは腕を腰に当て胸を反らす。何故、威張るようなポーズをとるのかは謎だが、不満はないらしい。ならば、俺としても問題はない。


『で、性格については、ジンヤのせいじゃない?』


 これで話は終わりかと思ったが、まだ続きがあったらしい。ルゥルリィの性格が当初より幼く感じられる点についてだろう。だが、俺には心当たりがない。何の話だ?


「俺のせい? 何でだ?」

『そりゃあ、ジンヤが甘やかすからだよ。だから、ルゥルリィは甘えてるんだ。ずるい! 僕も甘やかしてよ!』

「むぅ! ルゥ、甘えてない! ペルが甘えてる!」

『どこがだよ! 甘えてないっていうなら、もう箒になってあげないよ!』

「ずるい! ペル、ずるい!」


 ペルフェとルゥルリィ。互いに互いが甘えていると言い合う始末。俺から言わせればどっちもどっちだ。


 容姿については問題ないとは言ったが……性格についてはもう少し大人になって欲しいところだな。ペルフェも含めて。


------

ざっくりルゥルリィのステータス。

能力値は自己申告。

スキルレベルは省略


名  前:ルゥルリィ

戦闘職業:ますたのせいれい

格:まだまだ

――――――――――――――

生命:ふつう

マナ:たくさん!

筋力: 少し   魔力: 凄い!

体力: なかなか 精神: ふつう

器用: ふつう  抗力: いい!

敏捷: 少し   幸運: ふつう

スキル:

【▼格闘】【鞭】

【▼鉄拳】【潜伏】

【△樹魔術】【水魔術】

【土魔術】【操砂術】

【毒耐性】【渇水耐性】

【環境強化:森林】

【光合成】【△サボテン擬態】

【△吸命蔦】【爆裂果実】

【樹皮硬化】【植物成長促進】

【根づく】【▼共通語】

特性:

【好奇心】【契約精霊】


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