83. 肉斬骨断

 アイテムの性能は把握できたので、軽く戦ってみようか。


「なあ、ペルフェ」

『……なぁに?』


 箒の姿になったことが気に食わないのか、ペルフェは不機嫌そのもの。そのわりにルゥルリィを乗せてぷかぷか浮いているのだから、面倒見は良いらしい。まあ、俺もルゥルリィには強く言えないので何となく気持ちはわかる。


 おっと、それはともかく、変幻自在ツールの話だ。


「変化状態だと“耐久力がゼロになるとツールに戻る”らしいが、そのときツールの耐久力はどうなるんだ?」

『僕の感覚だと耐久力は元のまま……かな?』

「つまり、変化前の耐久力に戻るってことか?」

『たぶん』


 それは面白いな。つまり、変化状態なら壊してもツールを経由して元通りになるということである。


「それなら、肉斬骨断を付与してみてもいいか?」

『んん? ああ、たしかに耐久力がなくなっても元に戻るだけならリスクは小さいね』


 そうなのだ。肉斬骨断は自分に使うにはリスクが高い。思わぬダメージが出て、反動で死んでしまうなんてことになれば笑えないからな。だが、変幻自在ツールの仕様なら壊れても、元のツールに戻るだけ。ほぼリスクなしに、ダメージ増加のメリットを享受できる。


 懸念は、元に戻るとはいえペルフェがダメージを受けることに変わりはないという点。人間で考えれば、あとで傷を治すから怪我をしてくれと言っているのと同じことだ。アーマニアに痛覚があるかは不明だが、自ら進んで負傷したいとは思うまい。


 だが、意外にもあっさりとペルフェは肉斬骨断の付与を了承した。


『だけど、一つだけ条件があるよ』

「なんだ?」

『次はちゃんとした武器にして!』


 箒の罰を終えるという条件付きだったが。


「……まあ、いいだろう」

『やったぁ!』


 お仕置きとしては短時間だったが、こういうことができるとわかっただけでも抑止効果があるはず。それに、どうやら延長タイムが発生しそうだ。


「もう、ほうき、終わり……?」

『もう勘弁してよ~……。戦うときは武器でいたいよ』

「じゃ、ますたが休んでるとき、は?」

『わかったから! そのときは箒になって乗せてあげるから』

「約束!」


 と、戦闘前にルゥルリィに約束させられていたからな。


 さて、それはともかく戦闘だ。相手はその辺で遭遇した石蜥蜴。まずは、肉斬骨断を使わない状態の攻撃を確かめる。箒状態だと長杖分類なので魔法を試そう。


「ペルフェ、まずはそのままファイアボールを放ってみてくれ」

『オッケー!』


 指示を出すと、了承の言葉のすぐあとに箒の先から炎弾が出現した。炎弾は一直線に石蜥蜴へと飛び、その体表を焼く。


『うーん、微妙』

「まあ、武器性能としては低いからな。存在値が貯まっていない今なら、そんなものだろう」


 攻撃は当たったものの、石蜥蜴はピンピンしている。大したダメージを与えられなかったようだ。まあ、それも仕方がない。今のペルフェは武器性能が最低ランク。魔法に関しては有用なスキルを持っていないので、こんなものだろう。


 次に俺が【付与:肉斬骨断】で、ペルフェに【肉斬骨断】を付与する。付与するときにマナを必要とするようだが、消費は10。連発するわけではないので、たいした量じゃない。


『よし、もう一回!』


 再度、ペルフェが火球を放つ。見た目には先ほどと変わらないが、着弾したときの威力は違ったらしい。


「ぎゅいい!?」


 石蜥蜴が苦しげな悲鳴を上げた。明らかにダメージは増えている。最低ランク装備でコークスローの魔物にこれほどのダメージを与えられるのなら、なかなかのダメージ増幅率だ。


「耐久力はどうだ?」

『うーん、結構がっつりと減るね。半壊ってところかな』


 ダメージが増える分、反動ダメージを受けるというのが肉斬骨断の効果だ。ペルフェによれば、今の一撃で半壊状態らしい。二度火球を放てば壊れてしまうというわけだ。


 とはいえ、それは想定内。むしろ、俺が知りたかったのはペルフェの状態だ。耐久力が減ったことで苦痛を覚えるようならば検証は取りやめようと思ったのだが、そんな様子はないな。


「耐久力が減っても平気なのか?」

『あ、それを心配してくれてたの? 大丈夫だよ。ちょっと不快感があるだけで、人間が傷を負うのとは違うんだ』

「そうか。それならいいんだが」


 問題ないというのなら、遠慮なく検証を続けよう。今度はペルフェを装備した状態で、俺が魔術を使う。このとき、肉斬骨断が適用されるか否かの確認だ。


 死にかけの石蜥蜴は始末したあと、別の石蜥蜴を見つけてファイアボールを放った。


「ぎぃああ!?」


 火球を受けた石蜥蜴は悲鳴を上げただけで何もできずに消滅。最低ランクの攻撃性能で放った魔術で一撃死ということは、おそらくダメージは増えている……はず。俺のステータスが高いせいで若干わかりにくくなっているが、さすがに肉斬骨断なしでは一撃では倒せなかったと思う。


『うっ……』


 肉斬骨断が有効だったからには、当然、ペルフェに反動ダメージが入る。それで耐久力がなくなったのか、ペルフェが苦しげな声を上げた。同時に、箒だったはずのペルフェが、一瞬で警棒に似た元のフォルムに戻る。


「ペルフェ! 大丈夫か?」

『ふぅ……大丈夫。ちょっと不思議な感じだけどね。それより、次はちゃんと武器にしてよね!』


 少々心配したが、変幻自在ツールに戻ったペルフェは、特に不調を感じている様子でもない。


「わかった。それなら次は霊亀王の魔鎚にしておくか」

『うん! もう、武器なら何でもいいよ!』


 喜ぶペルフェの声を聞きながら、ツールに変形せよと念じる。変形対象は霊亀王の魔鎚のレプリカだ。特に問題なく変形が完了した。


「破損したら、しばらく変形できないとかいう制約もないらしいな」

『これなら肉斬骨断も使い放題だね!』


 ペルフェの言うとおりだ。


 ただ、肉斬骨断は変幻自在ツールに戻った状態でも付与されたまま。迂闊に、警棒状態で攻撃してしまうと変幻自在ツールが壊れてしまう。壊れた状態ではさすがに変形できないだろうから、それだけは気をつけないといけないな。強力だが、普段は解除しておいた方がいいだろう。

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