遥か彼方からの来訪せし物

~???side~


「WARNING! WARNING! 魔力炉に決して近づかないでください WARNING! WARNING! 魔力炉に決して近づかないでください WARNING! WARNING! WARNING! 魔力炉に決して近づかないでください WARNING! WARNING!」


ウー!ウー!ウー!ウー!ウー!ウー!ウー!


けたたましいサイレンの音や警告音が鳴り響く中、たくさんの人々が建物の中をせわしなく移動していた。

怒号などが飛び交っていて、相当焦っていることがわかる。その中には、頭や臀部に本来人にはない獣の特徴がある者もいた。




そんな建物の最上階。

とても豪華でありながらも、どこか繊細な意匠が施された執務室らしき部屋に2人の男女がいた。


女が何かを言いかけ口をつぐみ、しばし沈黙のあと男に話しかけた。



「王よ……我が国は危機に瀕しております。どうか指示を」



言動をみるに男は国の王であり、女はその臣下のようだった。

男が重々しく口を開いた。



「……現状はどうなっているのだ」


「はっ! 現在何者かが我が国の超厳重機関に忍び込み。何が目的なのかはわからないのですが。何らかの理由で星が滅亡する時に逃げるための装置を……国のある大陸ごと移動できる超大陸転移装置……方舟メシアを起動したようです」



男は目を見開き怒りに拳を震わせ机を叩いた。

しかし、目を瞑り呼吸を整え一度心を落ち着かせたのか、すぐに冷静に女に再度質問をした。



「警備はどうなっている」


「それが、監視のための映像や巡回している衛兵、そして人口魔道知能すら侵入者の姿を捉えることができなかったようです」


「な!? そんな馬鹿な……衛兵は選りすぐりの者達だぞ!? いや、それよりも。装置は止めることはできるのか」


「いえ……あれは本来、逃げるための装置。本来の目的で使うのであれば止めることなどあり得ないため、停止装置はついていません。しかし、技術者達がなんとか止めようと奮闘しております」



男は椅子に深くもたれ掛かり、長いため息をついた。そして、椅子から立ち上がると窓に近づき外に目をやった。


外の様子は中世のヨーロッパのような建築物が建ち並んでいるが、どことなく違うものがある。

人々が空を飛び、地面を見れば竜が馬車のようなものを引いている。遠くに目をやればどういう原理か巨大なクジラのような生物が空を優雅に泳ぎ。まさに、現実離れした景色である。


しかし、男の目にはそんなものは写っておらず。さらに上、空を見上げていた。


そこには、巨大な幾何学的な模様が幾重にも重なり。遠くから見ればそれが、1つの大陸をドームのようにして覆っていることがわかる。

それは、魔術陣であり1つの極致とも言えるほどに高められた技術によって為された物だった。



「民の様子はどうだ」


「警備隊にすぐさま現状を通達いたしましたので、混乱はしているものの暴動などが起きた様子は無いとのことです」


「……そうか。あの装置を考え出した者は」


「それが、すでに亡くなっているようで……」


「…………この魔術陣が完全に完成するのはいつになる」


「遅くても、これから4日ほど。順調に進んでしまうと、明日にも完成してしまうそうです」



魔術陣とは魔力で特定の形を形成することにより発動するものであり、小さなもものを瞬時に作り出すことは可能であれども。

大陸を覆うほどの大きさとまでなると人間を超越した魔力操作能力。さらに、その中でも遥か上位の存在でないと不可能だろう。


しかし、それは瞬時に作り出すという点に置いてだ。


人間ではなく計算機に魔力を操作させ、長い時間を掛ければ。それは、不可能ではない。


それを実現させたのが、現在大陸1つを包み込む魔術陣を発動した。

超大陸転移装置:方舟メシアなのだ。


だが、その人智の結晶とも呼べるその装置であっても最短で2日掛かる。

いや、この状況に置いては2日ない。と、言うべきか。


その事を理解してるのか、男と女の表情はとても険しく、どこか諦めといった雰囲気が出ていた。


「民に事情を説明し、大陸外の国に避難ができないか頼むしか……それしか方法はない」


「王よ……それではこの国を捨てるということですか?」


「いや、おそらくこの国に残るという者も出てくるだろう。それに、他国に避難ができると決まったわけてはない」


「先の戦争で、遺恨が残っていたりもする。拒否される可能性も十分にあるだろう。例え脅したとしても、放っておけば数日で消える大陸だ。それすらも無視される可能性もある」


「王よ……わかりました。すぐさま会議を開きこれからの指針と、民への現状の説明をして参ります」


「あぁ……」


バタンという扉の閉まる音ともに男はゆっくりと椅子に座り込んだ。


「あぁ……神よ」


「いや、神は我が国が遥か昔に殺してしまったのだ。今さら神に祈るなど傲慢にもほどがあるな」
























「とうとう、この日が来てしまったか……」


男は完成した魔術陣を玉座の間らしき場所から眺めていた。


あれから、3日ほど経ち完全に魔術陣が完成した。

方舟メシアは完全に人が生きることができる次元に移動するまでは絶対に止まることはない。

人口魔道知能がありとあらゆる計算、観測をし続け。数多の次元の中から、人が暮らせる環境が存在する星を見つけるのだ。


男の周りには家臣と思われる人々が跪き王の指示を待っていた。



「魔術大臣……方舟メシアについてわかったことを説明せよ」



男がそう言うと1人の眼鏡をかけた初老の男が前に出てきた。眼鏡の男は一通りの儀礼をしたあと説明を始めた。



「現在、この大陸を包み込んでいる魔術陣を作り出している装置。方舟メシアですが。こちらをご覧ください」



眼鏡の男が胸元から四角い黒い物体を取り出した。それを地面に置くと、目の前に光でできた板が現れ、そこに様々な資料が写し出されていた。



「まず最初に、我が国の研究チームが方舟メシアが起動した日から今日まで止めようと奮闘したのですが。……結果はご覧の有り様です。」


「この装置を考え出した人物は、この国が続いてきた歴代で最も頭が良いとされた人物です。我々のような、ただのエリートごときには何もすることができませんでした……」



玉座に座る男は静かに目を瞑り頷くと、言葉を発した。



「うむ、その点に置いては誠に大義であった。だが今はその事よりも、これからの言事を聞こう」



眼鏡の男が周りの大臣に少々下がるように指示を出し、胸元からさらに3つ四角く黒い物体を取り出した。


男はそれぞれを線で繋いだときに正方形になるように置き、その装置を起動した。



ヴォンッ



低音が鳴り、部屋の明るさが急激に暗くなった。そして、部屋の中心部の少し空中に立体映像が出現した。

それは、大陸を覆うようにして数多もの魔術陣が重なりあいドームを形成している様子だった。


「こちらは我が大陸全体を写した立体映像です。そして、現在のこちらの魔術陣。これらの機能を人口魔道知能で読み込み解析したところ。まず、転移の魔術陣はもちろんのこと外と中からのありとあらゆる衝撃を無効化する魔術陣、空気を作り出す魔術陣、明かりの魔術陣があります。しかし、1つだけこのドームの一番上の中心部に位置する巨大な魔術陣の効果が解明されておりません」


「……おそらく。新たに作り出された魔術陣かと」


「……なるほど」


「ですが、それは一部がという話でして。未解明の魔術陣には既存の魔術陣も組み込まれており。転移と空間に関する魔術が使われておることがわかっております。そのため、おそらく次元を飛び越えるための魔術陣なのではないかと我々の研究チームは判断しております」


「うむ、わかった。皆への説明を感謝する」


「はっ! ありがたき幸せ!」



それからして、家臣が現状の様々の説明を終えた。そして、王が立ち上がり解散を命じた。















翌日、朝日が登ることはなかった。

魔術陣は半透明なので外の様子は確認ができる。普段であれば朝日が登り、太陽が当たり前のように存在するはずだ。

しかし、その人々を照らす太陽が消失した。


いや、太陽が消失したのではない。

太陽が照らしていた大陸が移動したのだ。

方舟メシアは完全に起動した。もう、誰も止めることはできない。


 










―2か月後―



とある研究所で人々がまた忙しなく動き出していた。



「おい! 我々が漂っているこの空間は何もない空間ではなかったのか!?」


「いや、そのはずだ! 我々が全ての技術を持ってして調査した結果。魔力以外の何も存在しないということが確定しただろう!」


「だけどよ! 人口魔道知能が生命を探知したと言ってるんだぜ!?」


「あぁ……資料を見るに、探知された物体はどうやら大型魔獣ほどの大きさらしい。魔力量もこの空間よりも少し高い」


「ここは次元の狭間というのが我々の予測だったが……違ったのか?」


「いや、次元の狭間にたまたま落ちてきた魔獣の可能性もある。ここは何が起こるのか一切わからないのだ。逆に何が起こってもおかしくはないだろう」


「その物体までの距離は……残り数分もないだと!? 何故それほどまでに近づいていたのに探知が遅れた!」


「だから! 急に現れたんだろってバカ!」


「あれは絶対に魔物とか魔獣だって!」



研究所では疑問が飛び交っていた。

現在のこの大陸が彷徨っているのは次元の狭間であり。普通の生物では生きていくことはできない。

そのため、研究所内ではその正体が魔道具ないし、魔獣や魔物といった高密度の魔力を纏っているものではないのか……と予測が立てられていた。



「あの~」



その時、1人の獣の特徴が体に存在する女性が声をあげた。


「「「なんだ!」」」


「あ、えっと。どうやらすでにこの大陸にぶつかったようです……」


「「「…………」」」


「……その物体の反応は」


「えっと。ロストですね」


「……あとで大臣に報告しておくか」


















それから数ヶ月後。


玉座に座る男の前に1人の男が跪いていた。


方舟メシアが……どうやら生命が生きていける場所を発見したようです」


「そうか……現在の様子はどうなっている」


「現在はさらに様々な魔術陣を展開していて。おそらく、転移に備えてるのではないかと思われます」


「万が一その場所に我々の技術を越える文明が存在した場合……いや、今はよしておこう」



その日、国中が歓喜に湧いた。

国から人々が生きていける新たな次元を発見したと報告されたからだ。

しかし、それと同時に一部の人々には不安が芽生えた。








とある研究所に、あの玉座に座っていた男かいた。男がいる部屋にはモニターや様々な機械が並び、男の周りをたくさんの研究者が忙しなく様々な機械を弄っていた。

機械には魔術陣や文字が浮かび、中央のモニターに浮かぶ数字が刻一刻と減り続けている。



「王よ、万が一に備え大陸の外部に軍を配置し終えました。国民にも外に出ないよう指示をしてあります」


「スラムの民はどうした」


「スラムの民は避難施設に強制的に収容いたしました。不満の声は上がっていますが仕方ないでしょう」


「わかった……下がれ」



豪華な椅子に座っている男が側にいた者に控えるように指示を出した。

男は耳を澄まし研究員達の会話を聞いていた。



「現在、計器に異常は無し。魔術回路や魔術式にも異常はないようです」


「こちらも魔術炉に異常は無し。非常に安定しています」


「こちらは方舟メシアの安全装置を起動しました。転移後は空中に出現する可能性が高いため。浮遊魔術陣や、周囲への被害を押さえる衝撃吸収、防御の魔術陣をいつでも展開できるようにしています」



そんな中、1人の研究員が大きな声をあげた。



「な!? 魔力の流れが加速した!? まずい! この魔力の流れだと、おそらく転移まで残り10分もないと思われます!」



その言葉に部屋が騒がしくなった。


研究者達は始めに魔力の流れの速さを確認し、そこから逆算し転移までの時間を割り出していた。

それまでの魔力の流れだと転移には30分ほど掛かると計算結果が出ていた。


10分。


その事を考慮し、さらに時間を掛け様々な調整をするつもりだった研究者達にとって。

それはあまりにも短い時間であった。



「落ち着け! 今はただ、我々にできる限りの事をするのだ!」


「この早さだと……魔力の隠蔽は少々難しいな。転移時に莫大な魔力が周囲に拡散される可能性があるが。高度な文明が存在しないことを祈ろう」


「あぁ。もし、高度な文明が存在した場合は攻撃として受け取られる可能性もあるからな」






数分して。

研究者達は落ち着きを取り戻して、各々が計器とモニターを確認していた。



そして、カウントダウンが始まった。



「残り10秒!」



目を瞑る者、衝撃に備えようと体を抱え込む者、しかと転移するその瞬間を目に焼き付けようと外を写すモニターを凝視する者。

皆がそれぞれ三者三様の反応を示した。



「残り5秒!」



街にはアナウンスによりカウントが流されていた。家族で身を寄せ合う者達、怖くないと虚勢を張る者もいる。



「4!」



豪華な椅子に座る男はしっかりと目を見開き。カウントタウンの様子と共に窓から見える国内を見渡していた。



「3!」



上空に目をやると数多の魔術陣一つ一つが歯車のように噛み合いが回転をし。

中心部の魔術陣が外周から徐々に内側にかけて回転を始めていた。



「2!」



魔術陣は急速に翡翠色の光を増していき。

今や魔術陣の形すらわからないほど輝いていた。



「1!」



カウントダウンが終了した瞬間。

魔術陣によりできたドームが、より一際明るく輝いた。



光が収まるとそこには、青空が広がっていた。



「転移完了しました!」


「状況は!」


「海です! 我々は今、海の上にいます!」


「安全装置起動! 浮遊系統の魔術陣を全展開しました!」


「大陸が海に着水ときにより発生した津波を防御魔術陣と衝撃吸収の魔術陣で相殺そうさいしました!」




研究者達が慌ただしく動き回る中、豪華な椅子に座っている男が魔術陣を展開した。


「全軍に通達する。飛竜部隊と飛翔部隊は周囲の状況を把握し、通達せよ! 陸軍は警備隊と協力し、村などで被害が無いか確認し報告せよ!」



その言葉と同時に大陸内に配置された様々な軍が行動を始めた。



男が立ち上がると研究者達が行動を止め、男に注目をした。



「我が偉大な国の研究者よ。我らが1万年の歴史を持つ我が国に、被害を及ぼすような存在がいないか直ちに周囲を探れ!」


「王よ! 不敬をお許し願うとともにご報告がございます!」


「ふむ、許す。申してみよ」


「隠蔽魔力による探知を行ったところ。高度な文明を持った存在を確認できませんでした。そして……それと同時に魔力文明を持った存在すら確認することができませんでした」


「何?」


「人のような反応は探知したのですが。おそらくこの世界は、文明が発達していない世界なのではないかと思われます!」


「なるほど」



男は研究者達に元の仕事に取りかかるように言うと顎に手を当て、何かを考えるかのように黙り込んだ。

そして、ふと男が口を開いた。それは自分にしか聞こえないほど小さく、独り言だと言うことがわかる。



「1万年続く我が偉大な国……私は王だ。私がこの状況をなんとかせねば。この国を……この大陸を落とす存在がいる可能性は……? 神……いるのか? ここは文明が発達していない世界……いや、止めよう王が弱気では駄目だ。例え、神がこの国を攻撃してきたとしても我々は決して諦めぬぞ。この








アトランティスは!         」





――――――――――――――――――――





《超魔道国大陸アトランティス》


とある世界で世界の頂点に君臨した国。

卓越した魔術の技術により古来から戦に勝ち続け、技術を吸収し続けたことにより。他の国の追随を許さないほどに魔術の技術が発達した。


とある天才が発明した大陸ごと他の世界へ逃げる装置方舟メシアが何者かにより起動され転移をしてしまう。

人種は戦争に勝ち、国を取り込み続けたことで様々で。獣の特徴が体にある人種も存在する。


国の歴史に神を殺したという記録が残っている。





どうもオオキャミーです。

この話だけで2話分くらいの文字数使ってます。や~っと出したかったアトランティスが出せて自分は満足です。


……………いやまだだ!! まだ中世があるじゃねぇか! 俺は終わらないぞぉぉ!!!


あ、そういえば自分デジタルのイラストができるようになったんですよね。てなわけで置いておきます。


エンリちゃーん(神様バージョン)

https://kakuyomu.jp/users/oukyami/news/16818023213976271650


アルルちゃーん(神様バージョン)

https://kakuyomu.jp/users/oukyami/news/16818023214117484642


そろそろ次の章にいけるかな? いけるよね?

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