驚きの変化と驚きの繋がり
あれから、また半年ほど経った。
あれからドルフは特に険しい顔になったりはしなかった。
良かったね。
あのまま険しい顔になり続けてたら子供から怖がられそうだし。あ、今でも全然怖がられてるか。
この洞窟の村も世代交代を繰り返して、ドルフと同じ世代の人は皆亡くなってしまった。
今の若い世代はドルフにとって孫の孫の世代だ。ドルフも200年は生きてるからね。長寿仲間だイェイ。
今日は久々に、森に住んでる人達に会いに行く。
いやぁ4年ぶり? 位だよね。
本当は5年ぶりになるはずだったんだろうけど。つくね達に会っちゃったからね。まぁ、4年も5年も大差ないね。
森の民が暮らしてる森が見えてきた。
つくねはドルフと一緒にいたがってたから置いてきた。……最初は私について来たいって言ってたのに。
森の中にできた村を歩いていると見覚えのある男が見えた。
「お、これはこれは。ベルさんお久しぶりですね。このエルスに何か用で?」
驚くほど美形の男が話しかけた来た。
言動も紳士的で穏やかな気分になる。
まぁ、この男こそが8時間ずっとに森の良さをノンストップマシンガントークで話してきた張本人だけど。
『言うほど久しぶりでもないよ。今日は美味しい果物でもないかなって思って来たんだよ。私が連れてきた新しい子にも食べさせて上げたいし』
「ほほほう! それは良い! 是非この森の美味しい果実を食べてもらいたい!」
思った通り食いついた。
この男、エルスは森の良さを布教することに命を懸けてると言っても良いほど森が大好きだ。
エルスはどうすれば相手を不快にさせずに、自分の好きなものを布教できるかを熟知してる。
無理矢理森を好きになれとか言わないし。
だんだんと距離を詰めてジワジワと布教してくからなぁ。
パッと魔力を飛ばしてレーダーのようにして感知してみればこの森に数十人の人がいることがわかる。
皆エルスの甘い言葉に釣られて森に移ってきた人だ。
詐欺師みたいだね。
嘘はついてないから森の民になった人たちは不満なんて無いらしいけど。
「では、こちらへ。僕が4年間厳選した選りすぐりの果実を差し上げますよ!」
『おぉ~エルスがそんなに言うってことは相当美味しいんだね』
「はい! 何て言ったって4年間という長い時間をかけて厳選しましたから!」
なんか、凄く4年ってところを強調してくるなぁ。まぁ、良いや。
ただ、それよりも気になるのが……なんで少し耳が尖ってるの?
『ねぇ、エルス……』
「はい? 何ですか?」
『いや、その。何て言うんだろう。その……その耳どうしたの?』
「耳? あー! これですか! ……確かに何でこうなったんでしょうね?」
えぇ……いや、ええ?
そんなことある? 知らないうちに耳が尖るなんてことがあるの?
「あ、でも。もしかしたら果物を食べ始めてこうなったのかもしれないですね」
果物って何でもありじゃん。
エルスに着いてくるように言われたから大人しく着いていく。
しばらくするとフルーティーな香りが風に乗ってきた。この匂いからして結構甘そうだね。
「この先に果実置き場があります。もう少しすると果実の素晴らしい香りがしてくると思いますよ」
あ、そういえば私の方が嗅覚鋭いんだっけ。
エルスにはなんだか悪いけど。まぁ、黙っておけば良いか。
しばらく進むと石レンガ? で囲まれた部屋を見つけた。中に入ると少し段差があり下がってるようでほんのりヒンヤリとしている。
すごい、天然の冷蔵庫だ。
「では、ベルさん。これをどうぞ」
『これは?』
「よくぞ聞いてくださいました! この果実は見た目としては毒々しく美味しそうには見えないのですが。実際に食してみると口にいれた瞬間に広がるフルーティーな香り。噛むと溢れ出す果汁。この果汁は酸味と甘味のバランスがとても良く、どれだけ食べても飽きがこない味ですよ! まぁ、食べすぎるとお腹を壊すんですけど。自分で試した結果6~8個までなら安全でした。ただ、これ以上食べるとお腹を壊して半日動けなくなります。ベルさんには関係ないかもしれませんがね。まぁ、そんなことは置いといて! この果実、実は皮と一緒に食べるとさらに美味しいんですよ。見た目からは想像できないのですが─────」
ッハ!
意識が飛んでた。
あれから30分ノンストップで話されたから結局1度も食べれてない。
「さぁ、ではどうぞどうぞ!」
『う、うん。……さっきも食べようとしてたんだけどね』
「何か言いました?」
『いや、何でもないよ』
では、いただきま~す!
む、これは……昔食べた果物に似てる!
これに似た果物をエンリちゃんに最初に食べさせたんだよね。
食べた感じ甘みが強くなってる? 昔はもっと酸味が強かった気がする。
近縁種なのか、あの果物か進化したものなのか。
まぁ細かいことは良いか。久しぶりに懐かしいものを味わった。
『うん、美味しいよ。これなら連れてきた子にも食べさせられる』
「そうですか! それは良かった」
『あ、そうだ。保管しとくように言ってたアレはまだある?』
「ええ、この奥にまだありますよ」
おぉ……ちゃんと保管してたんだ。
ついでに様子を確認していこうかな。
『案内してくれる?』
「ええ、こちらです」
奥に進むと入口付近よりもさらに少しだけ温度が下がった。
さてと、どれどれ……
『お~もう良い感じじゃない? 今日の夜に試そうかな』
エルスと意見を交換していると後ろから足音が聞こえてきた。
振り向くとそこにはドルフとつくねがいた。
「よお、お前さん達。楽しそうなことしてるじゃねえか」
「ピ!」
『……ドルフが、洞窟を出てる!? ああああ明日は世界の終わりだぁ!』
「やかましいわ! 儂だって外には出るに決まっとるわ!」
「う~んどっちもうるさいと思うんですけど……お爺さん久しぶりですね」
「ん? おお、エルスか!」
『え? 知り合いなの?』
知らなかった。
ドルフとエルスって知り合いだったんだ。
森の民と洞窟の民って住んでる場所が違うからお互いに知らないって人多いんだよね。
まぁ、さすがに長なだけある。
既に長の権限なんてあってないようなものだけど。
もう既にドルフの知り合いに長を継いで、その子供達が代々長継いでいってる。
「知り合いもなにもなぁ……?」
『?』
「僕たち」
「家族だぞ」
『は?』
は?
『はぁぁぁぁ!? え? なに!? ドルフ子供いないんじゃなかったの!?』
「おう、いないぞ」
は? え、なにどういうこと? 子供がいないのに家族?
『あ、村の皆は家族的な?』
「違うぞ」
『違うの!? え、じゃあ……もしかして!? 子供はいない……つまりお父さん?』
「ちげぇよ!! 変なこと言うな!」
「あはは、正確にはお爺さんとは血が繋がってない家族です」
あーー!! そう言うこと!
ビックリしたぁ。もしかしたらドルフよりも見た目が若いお父さんがいるのかと思った。
まぁ、冷静に考えてみればそれはないか。
「エルスの本当の両親はエルスが赤ん坊の頃に死んじまってな。儂が親の代わりに育てたんだ」
『はぇ~なるどね。……私知らなかったんだけど!?』
「言ってないからな。そもそも言わなくとも問題はないだろ」
『確かに!』
「そんなことより、その後ろのやつ儂にもくれよ」
しょうがないなぁ。まぁ私だけ試しても、しかたがないしね。ドルフならお酒の良さもわかるでしょ。
私は後ろにある樽を2つ浮かせると外に運びだした。
そう、あの部屋の奥に保管していたのはお酒だ。ドルフの技術もあって樽を作成することができたから。せっかくならこの樽でお酒を作ろうってなったんだよね。
もうそろそろ日も暮れてくるし、今日の夜は酒盛りだ!
────────────
────
─
「うぉぉぉぉん! 儂は、儂はぁ!」
えー現在ドルフが泣き上戸。誰か助けて。
いつもドルフと一緒にいるつくねも、ちょっとお酒を飲んじゃって変な躍りをしてる。
カオスだね。
お酒を飲んだのは私とつくねとドルフだけ。
ドルフ樽半分、私が樽1つと半分で飲んだ。
つくねはドルフから貰ってた。
この部屋には私たちしかいないからドルフが絡むのも必然的に私になるってわけ。
誰か来て……(涙)
そう思っていると、ふとドルフが何かを考えるように黙り込んだ。
そして、ポツリと呟いた。
「……なぁ、ベル」
『うをぉ、急にまともにならないでよ。びっくりする。それで何?』
「今まで、たくさんのことをお前さんに教えもらって。たくさんのことを手伝って貰った」
『うん、そうだね。鉄の他の鉱石も加工してみたいって言って私に採らせにいったりね』
「それについてはすまん……まぁ、すまんのだが。また1つ、いや……これで最後だ。儂の最後の頼みを聞いてくれねぇか」
『いいけど、何?』
「新しい金槌を作ろうと思うんだがな。その金槌を作るために、新しい合金を探したいんだ。その手伝いをしてくれるか?」
『なんだ、そんなこと? いつもやってることだし別にいいけど?』
「そうか……ありがとな」
『急にどうしたの、しおらしい。いつものドルフみたいに豪快に笑いなよ』
「ふっ、そうだな。酒を飲んでるのに辛気臭かったら酒がもったいねぇ! ガハハハ! ベル! あと1樽飲むぞ! ガハハハハハ!」
ドルフはスッキリしたかのような顔をするといつものように笑いだした。
今日は変だなぁ。
まぁいっか! うへへへ! 飲むぞぉ!
次の日エルスにガッツリ怒られたし、ドルフも酒臭いせいでつくねから距離を取られてた。
「急がねば……」
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オオオオオオオオオキミ(誰だ)
近況ノートにつくねのイラスト置いてます
ヒヨコバージョンと成鳥(落書き)があります。
ヒヨコバージョンの方のリンク貼っておきますね。
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