見え始めた別れの兆し

あれから色々と調べた結果、あることが分かった。

それは私の炎とつくねが出す炎の違いだ。

結論を言うと魔力が"ある"か"ない"かだった。

試しに魔法で火を出して、更に火の魔力濃度を高めてみた結果。


めっっっちゃ簡単に溶けた。


私はさっきまで魔素をそのまま炎のエネルギーに変えて使ってたから。炎に火の魔力が一切含まれてなかったんだよね。


つくねが出した炎は、私が炎に込めた魔力よりも更に濃い火の魔力が込められてた。

さすが火特化なことだけある。


いやまぁ、そもそもアダマンタイトが特殊すぎたんだけどね。溶かすのに魔力が必要なんて分かんないでしょ。

もしかしてファンタジー鉱石は全部魔力が必要なの?

そうなると加工がだいぶ面倒くさいなぁ。


その加工するのはドルフだけどね。哀れドルフ。いや、ドルフのことだし逆に喜ぶかも知れない。鍛冶狂いの裸エプロンの変態だし。


まぁ、そんなドルフはというと……つくね事態を火の元として鍛冶をしてる。

つくねはすっかりドルフと打ち解けてた。

やっぱりつくね図太いでしょ。

鋼の心持ってるよ。

鋼が大好きなドルフとお似合いだね。



「ピ!」



わぁ凄い。つくねが燃え盛ってるよ。

役に立ちたいからなのか自ら燃えなくても。

……あ、成鳥の時は元から燃えてたか。

知らない人が見たら、ヒヨコを生きたまま焼いてるように見えるんじゃないかな。


カンッ!


ドルフがアダマンタイトを加工し始めた。

私はこの景色とドルフが奏でる音が好きだ。

最初はあたりまえだけど、慣れてなくて叩く力も早さもまばらだったから音も目茶苦茶だった。

でも、私と一緒に鍛冶をしていくなかでしっかりと成長をしていった。

音の感覚は一定になって、音の大きさも一定の大きさになった。

そうなると今度はいつ、どのタイミングで力を強くするのかがわかってきて、その姿がまるで音楽を奏でてるように私は見えた。


ドルフは一度集中すると周りが見えなくなる。技術が上がるだけその傾向は強くなって。

今では話しかけても、触っても気づかないくらいだ。


でも、その金属を真っ直ぐと見つめる視線が鍛冶に対しての情熱をそのまま写してるように綺麗だった。

最早、この部屋全体がドルフと一体化しているかのような感覚を覚えるほどに。

とても幻想的で今まで生きて見てきた絶景に並ぶほど、私はこの光景が好きだ。



『フフッ……何そのつくねの踊り』



ふと視線をつくねに向けると変な踊りをしていた。

つくねもこの部屋に響く音が気に入ったのか、ドルフが叩く音をリズムに変な踊りを踊ってる。

やっぱりドルフは凄いよ。

私がいない間でもずっと鍛冶をし続けてるし、その長い長い研鑽の成果は、きっとこれから先誰にも追い付けないだろうね。


ドルフは気づいていないかもしれないけど。

ドルフは今、無意識に魔法を使ってる。

自身の魔力を鎚を通して金属に染み込ませるように、叩く度に魔力が練り込まれていってる。


私は、1度も魔力の練り方や放出の仕方といった使い方を教えたことがない。

つまり、完全な独学で……というよりかは本能で魔力を使ってるってことになる。

きっと鍛冶を続けてるうちに、なんとなく上手くできる感覚を掴んだんだろうね。


ドルフのこれは才能とか、そういうのじゃない。長い長い努力の結果として魔力の操作が身に付いたってだけのはなし。

だけど、それは相当真剣に楽しみながら、だけどそれを努力と思わなかったドルフだからこそ辿り着けたと言える。

もし他の人が同じ時間努力したとしても。

ドルフのように楽しんで真剣に鍛冶に向き合って、朝起きて寝るときまで鍛冶の事を考えとかないと不可能だね。


こう考えると、やっぱりドルフって鍛冶狂いの変態じゃん。



「ベル、水出してくれ」


『はいはーい』



ドルフに言われた通り水を出すとさっきまで打ってた熱々のアダマンタイトをその中に突っ込んだ。

ちなみにこれもドルフが独学で見つけた方法。

私もこれを見たとき、そういえばそんな製法があった気がするって思い出したよ。


水に入れたあとに、またドルフはアダマンタイトを熱し始めた。



「こいつは俺も始めて扱う金属だ。鉄ならこれで強くなるんだがな。さてさてコイツはどうか……」



鉄……ね。まぁ今の時代に鋼と鉄の違いもわからないか。

ちなみにドルフがこの製法で作るときの金属は、正真正銘鋼だ。

これもドルフの努力のけ(ry


もう名誉鍛冶変態の称号をあげようか真剣に検討してる。

さすがに玉鋼とかは作り出してないからセーフにしてあげよっか。

玉鋼も作り出したら……もう知らない。



「ベル、一応完成したぞ。それと、少し余ったからな。これはつくね、お前さんにやろう」



ドルフはそういうと手に1つの武器と小さな輪っかを持っていた。

ドルフはつくねに近づくと足に輪っかを嵌めた。

所謂足輪である。人間がお洒落のためにつけるのはアンクレットとか言ったりする。はず。



「ベル、ほら受けとれ」



ドルフはそういうと武器を手渡してきた。

その武器は大きさとして30cmくらいかな? 所謂短剣と呼ばれるタイプの剣だった。

ちなみに渡した材料は1m位の大きさだ。

そう、1mほどの大きさだった鉱石が30cm、しかも横幅はさらに細くなっている短剣になったんだ。

質量保存の法則どこ行ったって突っ込まれそうだね。



「いやはや、驚いたぞ叩けば叩くほど重くなって小さくなるんだからな」



まぁ、そう言うことだね。

アダマンタイトだけが特別なのか他のファンタジー鉱石もなのかはわからないけど。

見てた感じドルフが使ってる鍛冶魔法みたいなのも影響ありそうだね。

今まで見たこと無い魔力の動きしてたし。


まぁ、それは置いとくとして。

この短剣、見た目に反して目茶苦茶重い。私やドルフは全然余裕だけど。ただの人が持ち上げようとしても持ち上がらないと思う。

バーベル上げとかしてる人ならワンチャン? ……ないか。



「つくね、おいで。さっきはありがとうな」


「ピ!」



ドルフとつくねの会話って何かに似てる……あ、孫とおじいちゃんだ。

ドルフ完全に孫に対する可愛がり方してるじゃん。つくねも嬉しそうだし、まぁいっか。



『ドルフまだ鍛冶続ける?』


「ハッ! 何を言うか。丁度腕が暖まってきたところだ。こっからが本番だ!」


「ピ!」


『いや、つくねは物理的に暖まってるじゃん……ってつくねもここにいるの?』


「ピィ!」



あらら、つくねもすっかりドルフのことが好きになったらしい。妬けちゃうね。

しょうがないなぁ。私も何か用があるわけでも無いし。これから暇だしね。



『じゃあ私もしばらくここにいることにするよ』


「そうか。つくね、鍛冶が気に入ったか。ガハハ! それじゃあ一緒に作るか!」


「ピピピィ!」



私は2人が仲良さそうに鍛冶をしているところを、鍛冶の音を聴きながら見つめ続けた。




────────────────

────────

──


今日も今日とてカンカンと洞窟内に金属音が響く。つくねとドルフが邂逅して、大体半年は経ったんじゃないかな?


つくねは相も変わらず、ドルフと仲良く鍛冶をしてる。

本当にドルフによく懐いたね。

完全に雰囲気が孫娘とおじいちゃんだし。

それでいて対等みたいな。


ちなみに私に対しては、一応私の方が立場が上らしく。でもたまに私に対して自慢げに接して来ることがある。

ちなみに、大抵自分ができるようになったことを自慢しに来る。

この前は1人で重い鉄塊を運んだことを自慢してきた。まるで、こんなこともできないの? というように。

つくねも、私が運べることくらいはわかってるから私もなにも思わない。

ちなみにドルフ相手だとめっちゃ誉めてほしそうにしてる。可愛いかよ。その可愛さを私にも見せてよ。


さてと、ドルフ達がいる鍛冶部屋に到着した。



『ドルフ~来たよー!』



私が部屋に入ると最初に目に写ったのが、真剣な表情で自分の腕と掌を見つめて手をグーパーしているドルフだった。

側には心配そうなつくねがいた。



『どうしたの? 険しい顔をさらに険しくさせちゃって。つくね泣くよ?』


「む……ベルか。いや、なんでもない。それに険しくなんぞしていない! やかましいわ!」


「ピィ……?」


『本当に大丈夫? つくねが心配そうにしてるけど』


「なんでも……いや、まぁ先ほど鎚を落としてしまってな。それを心配されただけだ。安心しろ別になんともない」



まだ少し顔が険しいけど、本人にそう言われたらしょうがない。今日も元気に鍛冶をやってこう。



『じゃあ今日はどうする?』


「そうだな、今日は久々に新しい鎚でも作るか」


「ピ!」



ドルフといると、こういう気楽な会話ができるから楽しい。つくねもこの雰囲気を好いている。








願わくば、こんな日々が少しでも、少しでも多く……長く続いてほしい。

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