神同士の戦いは考えるな、感じろ

唐突に変更された試合形式に示す反応は三者三様だった。

闘志を滾らせる者、なんでこんな目にと嘆く者、阿保じゃないのかと呆れる者。

まぁ···近接戦闘組は闘志を滾らせている者しかいないが。

残りの2通りは遠距離組だけだった。


そしてエンリはというと·······


◇ ◇ ◇


う~んアルル、ちゃんと手加減できるかな?

いや、さすがのアルルでもちゃんと手加減くらいわかるよね。

······わかるよね?


そんなことを考えていると先生が、遠距離組は観戦席に移るように指示を出した。


はぁ···アルルが手加減するように祈ろう。


─────────────

────


ソラ先生がアナウンス生徒全員に聞こえるように説明を始めた。


『皆さん!良いですか、この訓練施設では致命傷は完全に無効化されて致命傷か即死攻撃を浮けた場合は、結界の外に放り出されるので安心してください!』


『それと、先ほど言ったようにこの訓練施設には結界が張られています。結界内部は拡張されて、この後色々と調整するのですが、内部を町のような地形にします!』


その言葉を聞いて近接組はちょっとだけ盛り上がった。


『では!今からそれぞれバラバラに転移するので、転移した後はすぐに試合スタートです!準備は良いですか?』


先生がそう言うと、近接組が雄叫びを上げた。


うん、暑苦しい。


『ではスタートです!』


すると近接組が消えた。

観戦席にあるモニターを見ると、画面が分割されていた。

どうやらそれぞれの生徒を写すようにして表示されているようだ。


えっとアルルは···いた。

すでに何人かは近くにいた人同士で戦っているけど、アルルはまだ誰とも戦ってないみたい。


アルルと戦える人は、アルルの相手をすることが出来る人はいるのかな?



◇ ◇ ◇

~アルルside~


『ではスタートです!』


先生の声と同時に景色が変わった。


辺りを見渡すといくつもの立方体が立ち並び、町のようなものを形成していた。

きちんと扉と窓もあり中も空洞で結構きちんとしているようだ。


「さぁて!あいつを探すか!」


私の頭に思い浮かんでいるのはただ1人、あの最強になると言っていた青年だ。

確か名前は、ベ、べ、え~っとベンツだ!


あの男の「自分はクラスで最強だ」と言っていたことに対して、他の神は怒りを抱いていた。


エンリもあの言葉を聞いて、不機嫌になってたな。

私も確かに思うところはある。

だけど私は·······


─あの男はどれだけ強いのか─


─どれ程自分を楽しませてくれるのか─


─きちんと私と戦えるのか─


あの男に期待しているんだ。

私と互角に戦えるのはエンリだけだ。

だけどそれは魔法を使っての話。

純粋な拳のぶつかり合い、格闘では圧倒的に私の方が強い。私と戦えるという点ならベル姉さんも入るけど。

だけどベル姉さんは互角じゃない。

圧倒的なまでに手加減されてやっと対等に戦えるんだ。


だから今まで生きてきて神になるまでの間、真っ向勝負の拳のぶつかり合いだと、私と真の意味で互角に戦える奴はいなかった。


だからこそ私は期待しているんだ。

あの男は私と戦える、そんな気がする。


あぁ、楽しみだ!


オーラを薄く伸ばしてあいつの位置を探る。


!!


見つけた·····!


あぁダメだ。思わずニヤついてしまう。

いろんな所で戦いが起きているというのに、これからのことを想像すると笑みが止まらない。


「待ってろよ····私が倒す!」


そう言うと同時に一気にその方向に駆け出す。


ガシャン!ボカン!ドゴン!ドガガガガ!


道中にある建物なんて関係ない、全部壊して突き進む。

しばらく進んでいると大通りらしき所に出た。


そのまま進もうとすると、横から拳が迫ってきているのが見えた。

それを見て後ろに急いで下がる。


「誰だお前は」


殴られた方向を見ると筋骨粒々の男が立っていた。


「俺かぁ?俺はベルグさんの部下の1人だ。俺より弱ェお前に名乗る名前なんてねぇよ!」


どうやら相当自分の力に自信があるようだ。


「ふーん···そうか、でも私は急いでるからあまりお前に構う時間はないぞ」


「そうか、じゃあ良かったじゃねぇか。もう急ぐ必要はないぜ?」


「なんでだ?」


「ここで退場するからなぁ!!!」


男はそう言うと殴りかかかってきた。

いったいその自信はどこからやってくるんだ。


見た目か?見た目が少女なのが悪いのかと考える。でも仕方がない、生前のありとあらゆる面が最高潮な時の姿になるんだから。


ん~わからん!


「よそ見してんじゃねぇ!!!」


とりあえずこのうるさい男···



ぶん殴るか。


私は殴ってきた男の拳を掻い潜るように避けると、目の前に腹に向かって軽くパンチした。


ドガァァァァァン!!!バガガガ!ドゴォン!


あ、軽く殴っただけなのに吹っ飛んだ。


男は叫ぶ間もなく建物がある方向へ吹っ飛んでいき、いくつもの建物を破壊しながら遠くの方で止まったようだ。


·······反応も消えたな。

なんだったんだ?本当に。


まぁ、良いやさっさと目的のベンツだかカンツだかの所に向かうか!

気配でわかるけど、すでに誰かと戦ってるしな!

あいつを倒すのは私だ!



◇ ◇ ◇

~ベルグside~


俺は目の前の男のことを考える。


己が最強なのは間違いないという絶対的な自信は揺るがないが、それでも自分に食らいついてくるその男のことが不思議でたまらなかった。


「そろそろ諦めろよォ!オラァ!!」


「くっ····自身で最強とのたまうだけはあるっ!」


「そりゃそうだろ!!俺は最強なんだからなァ!」


「だがっ!このアーレウスの誇りにかけて貴様を倒さねばなっ!!」


端から見れば目で追うことができないほどの攻防。

一進一退を繰り返しながら戦っているが、良く見ると渋いおじさんの姿をした神、アーレウスの方が押されているのがわかる。

すでにアーレウスの体はボロボロだった。


あ~めんどくせぇ。


「·······飽きた」


「何···?」


「だから、言ってんだろ?飽ーきーたって。」


「貴様っ!ふざけているのか!」


「あ"?別に?逆に俺に感謝しろよ。わざわざ雑魚のお前に構ってやってんだからよォ!」


「っ!!!次で決める!!!」


「ほーん。まぁ、がんばれよ。無理だと思うけどな!」


俺は目の前の男のことを鼻で笑ってやった。

アホじゃねぇのか?

明らかに俺の方が強いってわかるのに、なんで向かってくる?

まぁ良いや。

さっさと殺すか。


「っふー····今までこの剣技を受けて生きていたものはいなかった。だが貴様も殺せるとは思っていない。王国が生まれし時から紡がれて磨かれてきた絶技。そして、その剣技は受け継いだ者の名へと変わる。現在のこの剣技の名前はアーレウス流神滅剣技。ふっ、神になった私が神滅とはな。だがしかし!神になったからこそこの剣技は真の意味で神滅となった!」


「?何急に長々と喋ってんだ?」


「いや、何。ちょっとした忠告だ。この剣技を今までの攻撃と同じと思うんじゃないぞ?」



アーレウス流神滅剣 神薙かんなぎ


瞬きをした瞬間、目の前に剣が迫っていた。


まさにその剣は神を殺すための剣。

その速さはまさに神速。

神を殺すための速度、力、技術それら全てを合わせた神滅の剣。


そして、アーレウスは確信する。

(切れる!!)


ベルグの首に剣先が残り数ミリに迫りアーレウスは勝ちを確信した。

だが、その刹那─


ドコォォォン!!!


アーレウスが吹っ飛んだ。


「はぁ····期待して損した。弱ェ·····」


折角神を滅するとかいう剣技を受けれるってことで期待したのに。

確かにあれは神を斬ることができるだろうな。

だが、あれで斬れるのは雑魚だけだ。

期待はずれだったな。


止めを刺しに行くか。

まだ生きてるみたいだしな。

めんどくせェ。


ベルグが止めを刺し行こうとした瞬間。




ドガァァァァァン!!!ガガガガ!!




ベルグとアーレウスを含む一帯が吹っ飛んだ。


吹き飛ばされながらも爆発した地点を見やる。

するとそこに人影が見えた。

その人影が動いてこちらを向いた。


「フハハ!楽しそうだなぁぁぁお前!!私も混ぜろ!!カンツだかパンツだか忘れたけど!!」


なんだァ?あの女。


·····まぁ良い。

雑魚がいくら来ようが関係ない。

さっさと殺そう。


あの女からは何の気配も感じない。

なんならさっき戦ってたアーレウスとか言う奴の方が全然強い。


まぁあのアーレウスも雑魚だったが、あの女は超雑魚だな。


女の前に移動すると殴り付けた。

死んだな。

ふと、女の顔を見ると俺の拳が顔の目の前に迫っているのに俺と目を合わせ。


笑っていた。


そして、気がつくと。



俺が吹っ飛んでいた。











は?




あいつ、何をした?

俺は、何をされた?


いや!わかっている。

俺が何をされたのか。見えていた。

確実に目で捉えた。

俺は確かにあの女を殴った。

そして、俺の拳があいつの顔面に触れようとした瞬間。

あいつは体をを反らして、わざと攻撃を受ける部分を肩に変えやがった!

さらにあいつは肩を後ろに反らして衝撃を利用し、回転して裏拳を俺に当ててきた。

その全ての一連の流れは確かに見えた。

だが、反応できなかった。


あり得ない···!

あいつからは何も感じなかった!

あの女が、なぜ!なんでそんなことが出来る!


ドゴォン!


「やっと地面に着いたか。ずいぶんと飛ばされたな」


次は油断しねェ!

俺の全てを使ってあいつを殺す!


飛ばされて出来た一直線の道を駆け戻っていく。

すると奥の方から女が向かってきているのが見えた。


「出し惜しみはしねぇ」


力を込めると俺の周りに100を越える武器が円環状に現れた。


女はその様子に目を見開いた。


「ハハハ!驚いたか!!これは俺の権能!

【全ての武器への適正】!!俺は武器を操り司る神だ!この武器は全て神器!俺を吹っ飛ばしたお前も無事ではすまねぇよ!!死ねェ!!」


俺は近くにある戦斧を掴むと女に切りかかった。


「ほほほう、面白そうだな!かかってこい!」


その言葉を皮切りに凄まじい戦いが始まった。


戦斧が頬を掠め血が零れ。拳が腕を打ち抜き骨を折り。戦斧が壊れれば槍に持ち変えて。

拳を受け止められたのなら蹴りを放ち。

さすがは神と言うべきか、骨折程度ならすぐに再生をする。

何度も何度も傷つき再生し、すぐに腕が切り飛ばされ、逆に腕を捻りもぎ取りまた再生する。


だが止まらない戦っている2人は最高の気分だった。


片や生まれたときから神であり天才と呼ばれ全てを吸収し全員からちやほやされ、上位の神からも好かれ、挫折を知らず同世代に誰も負けてこなかった孤独で傲慢な最強。


片や生まれたときから同世代に自分より戦いに関して優れたものはおらず、自分よりも年上の子供を殴り倒し。やっとで会えたエンリとも互角に戦いはするものの、それは近接戦闘ではなく魔法を使ったもので、逆に神狼と戦えば手加減をされずっと退屈してきた。

恵まれながらも相手に恵まれなかった、人類から神に到った最強。


期待している


今まで期待してきてその期待に応えてくれたものは誰もいなかった。


期待してしまっている。


期待して今まで何度裏切られたか。


だが、期待したい·······応えてほしい!

いや、


─この相手なら─

─この相手ならば─


期待しても良い!!!


広角が上がるのを感じる。

あの女を見れば同じように笑っているのが見える。


俺ァ決めた!!全身全霊でぶつかってやる!!


全ての武器に神経を注ぐ、そして100を越える武器を相手に全方位からぶつけた。


直感だがあいつは恐らくだが権能が使える。

あの教師小さい奴が言っていたことを思い出す。


─いいですか!入学した皆さんに最初にする授業は権能の扱いです。

皆さん権能というのは神ならば、誰であろうと使える能力です。

ですが使えるようになるまでには時間がかかる人もいればすぐに使える人もいます。

まぁ、すぐに使える人は天才と言われるような人達ですけどね。─


もちろん俺はすぐに使えるようになった、天才だからな。

だからこそ、わかる。あいつは権能が使えるようになっている。

あいつは俺と同じ戦いにおいての、感覚においての天才だと。

予測だがあいつの権能は目に関するものだと思う。

そうじゃなきゃ俺の猛攻を目で追って交わせた意味がわからない。

それならば、目で追えないほどの。

圧倒的な物量で潰せば良い。

そして全方向から武器が向かっているあいつは、恐らくだが対応できずに死ぬ。


俺の、勝ちだ。

そう思ったときあいつが余裕があるような態度で喋った。


「私はまだ·······負けないぞ?」


その瞬間あいつは武器の高密度に密集している所に突っ込んでいった。


ふん、バカめ自棄になったか。

やっぱり期待したのは···間違いだったのか。


「私はなぁ!まだ本気を出してないだよ!!お前良いなぁ!良いぞぉ!これなら本気を出せる!!」


そう言うとあいつは人1人通れないような、ほんの数ミリしかないというくらいまで密度の高い武器の波を。


すり抜けた。


そう、打ち返すわけでもなく、破壊するわけでもなく。

すり抜けた。

しかも人としてあり得ないような挙動で。

関節が曲がらないような方向に曲がり、頭がまるで中身が存在しないかのように歪み、手足がグニャリと骨がない軟体動物のように曲がり、こちら側に通り抜けてきたのだ。



「んな!?」


何が起こった?!


◇ ◇ ◇

~アルルside~


いったい何を驚いてるのか。

まぁ、どうせ私の権能が目か何かだと思ってたんだろうな。


アルルはもともと人間の頃から目が良かった。

だからこそ、エンリの攻撃を避けることができた。

だからこそ、今この場にいる。

目が良かったお陰で何度も命拾いをした。

そして神になったお陰でさらにその目の良さは強化されている。


まぁ、隠すことでもないから教えてやるか。


「お前もわざわざ私に教えてくれたからな。私も教えてやるよ!私の権能は【信じられないほどの柔軟性】っていう能力だ!そして、私は格闘を、身体を司る神だ!」



「そうか、そうなのか·······フハ·····クク、ククク、クハハハハハハ!!フハハハハ!そうか!そう来なくてはなぁァァ!!お前ェ名前はなんだ!!」


「私の名前はアルルだ!!」


「そうか、俺ァはベルグだ!!次で決着を着ける!!」


「良いなぁ!!私もそう言うのは好きだぞ!全力を出せ!!」


「バカが!誰が手を抜くか!」


2人は笑う。

どうしようもないほど、今この瞬間が幸せだからだ。

これほどまでに対等に戦える者はいなかった。

その事実がどうしようもなく、今のこの幸福感を増幅させていた。


「【権能解放:合成刀身招来】!!」


ベルグがそう言うと辺りに散らばっていた武器類が手元に集まっていき、光の玉に吸収されていく。

そしてその光の玉が刀身を形成していき、一振の剣が現れた。


「"【神狼神衣しんろうかむい】"!!」


この技は昔作った"【神狼降ろし】衣"の完成した形態だ。

あの技より見た目は変わってないが、さらに威力が上がっている。


ベルグと目が合う。


それが戦いの再開を表すかのように2人とも同じタイミングで飛び出した。


ドゴォ!


走るために地面を蹴っただけで地面が割れて地形が目茶苦茶になる。


「死ねェェ!!!アルル!!」

「お前がなぁぁ!!」


上段から剣が振り下ろされてきたので、それを腕で受け止めながらも滑らせ内側に潜り込む。


だが、自身で最強と名乗るだけの強さをベルグも持っている。

滑った剣を今度は下から切り上げるようにしてアルルの死角から襲う。

それにより脇腹を斬られる。

だが問題ない。


腕に全てのオーラを集約させる。


この一撃に、この一回の攻撃に全ての力を込める。

ベルグの目を見ると驚愕した表情を見せる。

何故ならば力を込めた腕が巨大になったからだ。

まさしくそれは神狼の爪。

ベルグに向けて良い放つ。


「私の勝ちだ!!」


神狼爪気フェンリルクロー


ベルグは圧倒的なまでの爆発力に飲まれ、消えた。

そして、目一杯広げていた結界内の町の半分を消し飛ばした。



『し、勝者はアルルさんです!にしてもやりすぎですよぉ!!』



─────────────────

─────


その後、遠距離組もバトルロワイヤル形式で戦ったがエンリ一人で暴れたせいで全員に協力されて囲まれた。

だが、当たり前といえば当たり前なのだがボコボコにして勝った。


「エンリ!!お疲れ!!」


「アルルもね。」


自分が本気の近接戦闘で互角に戦える相手を見つけることができて、アルルは幸せだった。


ふと、ベル姉さんのことを考える。

姉さんは·····楽しいのだろうか。

良く戦ってくれていたが、戦ってる最中あの眼に私が写ることはなかった。

どこか遠くを見るかのような。

姉さんと戦いのことを話すときも、はっきりとではないけど自分が最強であるかのようなことを言っていた。


人が見れば傲慢だと思うだろうけど。


でも本当に少しだけ、いつも戦う時どこか飽き飽きしてるかのような眼をしていた。

私に出来ることはない。

どれだけ強くなろうとも、あの姉さんに勝てる気がしない。

私が出来ることは戦いで互角に戦える人が見つかるのを祈ることくらいだ。

まぁ、エンリと出会って毎日が楽しかったから。

あの姉さんを好きになってくれる人か好きな人ができれば良いのか?


なんにせよ楽しかったなぁ!




────────────────────────────

うをぉぉぉぉおおおオオキャミーだぁ!


戦闘描写たのちぃぃぃ!!

ひたすら戦闘描写を書いては消してしてたんで遅れました!

次はベルの旅だぜぃ!


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