神と邂逅した者達


~集落の長side~


私が儀式の準備をしていると息子ガラが広場にやってきた。


「お父さん、僕も儀式の準備手伝うよ」


「おぉ! ガラ······お前が儀式を手伝うようになったのか! 昔は雪狼様のこともわからないほど小さかったのに。子供の成長は早いなぁ」


「お父さん······僕はもう子供じゃないよ。それに、あの時はまだ僕は子供だったから雪狼様のことを知らなくて当たり前でしょ。今はきちんと雪狼様の凄さを知っているよ。雪狼様よりも素晴らしき存在はいないんだから!」


「私からしたらお前はまだ子供さ、何はともあれ雪狼様の素晴らしさを知ったお前に儀式の準備を手伝ってもらうことにするよ」


ガラも大きくなったな。そろそろ長の座も交代か······


~ガラside~

儀式の日の夜、儀式の広場に村の人達が全員集まった。僕のお父さんが広場の前の祭壇に上って祈りの言葉を言い始めた。


「我らの神雪狼様にこの言葉を捧げる! 我らは雪狼様の忠実な信者であり、雪狼様を崇めるものである! 雪狼様を絶対の存在とし我らの一同子孫まで雪狼様を信仰すると誓う!」


お父さんがそう言うと僕も含め村の皆で同じ言葉を繰り返す。


「「「我らの神雪狼様にこの言葉を捧げる! 我らは雪狼様の崇める者であり、雪狼様の忠実な信者である! 雪狼様を絶対の存在とし我ら一同子孫まで雪狼様を信仰すると誓う!」」」


村の皆が同じことを繰り返すとお父さんは鳥の死体を持ち雪狼様の像がある祭壇の前まで行き鳥の死体の首を手刀で切り落とした。お父さんがまた言葉を唱えた。


「雪狼様どうか我ら一族に安寧を!」


「「「雪狼様どうか我ら一族に安寧を!」」」


本来ならそこで儀式は終わり皆各々祈りを捧げ家に帰るといった流れだった。


そう、本来なら


しかし今日の儀式はそうならなかった。

皆が言葉を唱え終わったあと、いつも通り各々祈ろうとした。

僕も皆に合わせて祈ろうとした······が、とあることに僕は気づいて絶句した。他の皆もだんだんと気づいたようだ。

村の誰かがポツリと言葉を漏らした。





「……雪が、降っている…………?」




そう本来ならずっと後に降るはずの雪が降ってきたのだ。明らかにあり得ない現象に誰も彼も言葉を失った。

すると、灯りのための炎がフッと消えた。辺りは真っ暗になり頼れるのはうっすらと光る月明かりのみ。僕たちは誰一人動かなかった······いや動けなかった。今までに感じたことの無いほどの重圧が突如として村全体を包み込んだからだ。ふと何かの気配を感じて僕は祭壇を見た、そこにあったのは黒いだった。月明かりがあるから本来ならうっすらと輪郭や姿が見えるのだがそこにあったのはとしか言いようがないものだった。他の皆もそれに気がついたようで全員その穴を見ていた。

すると穴からうっすらと光が出てきた。光が出てきたのと同時に何かの前足が出てきた。そしてその穴から姿を見せたのは白銀の毛が月明かりによってキラキラと反射しこの世の者とは思えないほど美しく、愛らしく格好良くもあり、どこか儚げな印象もあり、それでいて圧倒的な存在感を放つ巨大な狼だった。


「……ゆ、雪……お、おかみ様…………」


村の者は直感でこの狼は雪狼様だとわかった。

雪狼様が足を地面に着ける度に着けたところから草花が生えそれが一瞬にして凍るという理解できない現象が起きていた。

雪狼様はしばらく歩き祭壇の前に来るとこちらを向いて座った。



『やあ、私を崇める者達よ今日は君たちに伝えたいことがあって、ここに来た』


!?


突如頭の中に雪狼様の意志が流れ込んできた。

それに対して僕たちが混乱していると、僕のお父さんが雪狼様の前に出た。


「雪狼様! 私はあなた様の姿を目にすることができて、今感動のあまり涙が溢れてきそうです! 我らに伝えることとはなんでございましょうか!」


お父さん······雪狼様を見ることができて嬉しいのはわかるけど雪狼様が少し引いてない?


『うぉぉ······そうだね君達に伝えたいことは二つある。一つ目、君達は私の力によって圧倒的な力を持っているね』


「はい。あなた様のお力のおかげで我らはこれまでこうして命の危機に脅かされること無く生きていくことができております」


『そんな力を持っている君達に勝てる生き物はほとんどいないだろう。でもその力によって慢心しないで欲しい。この世界には君達以外の人間がいる』


「我ら以外の人ですか······。考えたこともありませんでした」


『君達はいずれここを離れるかもしれない、ここから離れることによって別の人とも出会うだろう。君達はその人達よりも圧倒的に強い、だからといってその人達を支配しようなんて考えないで欲しい。それにその力を与えたのは私だから、いつでも君達の力を取り上げることもできるって思っておいてね。もし別の人達を支配しようなんてしたら絶対に許さないからね』


「はっ! わかりました! もし別の人々と出会ったとしても我々はその人々を決して支配などいたしません!」


『うん、それで良い。二つ目、君達にはあまり他の人達に目立たないようにしてもらいたい。さっき言ったように君達は他の人達よりも圧倒的に強い。人というのは自分と違うものがあったら攻撃したり遠ざけようとする。だから君達には他の人々にその力をできるだけ隠して生きてもらいたい。わかった?』


「わかりました。我ら一族はこの力が他の者にバレぬようにいたします!」


『よし、ありがとう私の言うことを聞いてくれて。儀式の途中で来ちゃったからお詫びとして君達にはこれをあげる』


そう言って雪狼様はどこからともなく熊の死骸を4匹も取り出した。


「こ、これはこんなにもよろしいのでしょうか!? この儀式は雪狼様のための儀式なので、別に我々は雪狼様が途中で来てくださったのはむしろ嬉しいことなのですが······」


『そう? まぁでも貰っておいてよ。私はもう帰るから。じゃあ私が言ったことを忘れないでよね。それと私は雪狼じゃなくて神狼フェンリルだから』


そう言うと雪狼様は穴の中へと消えていった。


___________________________________

_____________________

__________

_____


雪狼様が消えてしばらく村の皆は僕やお父さんも含めてボーッとしていた。あれは夢だったんじゃないかと思ったけど地面にある凍った草花があれが夢じゃないと物語っていた。


「お父さん、雪狼様が言ってたことって本当なのかな……」

しばらくして僕はお父さんに話しかけた。


「あぁ、雪狼様がああ言ったのなら本当のことなんだろう。雪狼様……いや神狼フェンリル様とお呼びした方がいいのだろうな。神狼フェンリル様はきっと争いが嫌いなんだろう。我々に他の人々を支配しないように言ったのも力を隠すように言われたのもおそらく、我々が無駄に戦わなくて良いようにと思われて我らに伝えに来たのだろう。なんてお優しいお方なんだ!しかし人というのはどうしても争うもの、我々は争わなくてもおそらく外の世界の人々は戦いあうだろう。……我々がしなければいけないのは神狼フェンリル様が争いで悲しまないように人々の戦いを止めることではないか?」


お父さんは急にそんなことを言い始めた。


「お父さん……?」


「ガラよ、お前もそう思うだろ? 人々が争うのは神狼フェンリル様が悲しむ。そんなのは絶対に止めなければならない。あのお方は世界の人々を支配するなとおっしゃった。ならば我々は支配しないように他の人々を裏から操れば良いのだ決して争わないように。そうすれば神狼フェンリル様が悲しむことはなくなる!」


僕はそうすべきなのかを考えた。


「…………うん、確かに……うん! そうしよう! そうすれば神狼フェンリル様は悲しむことが無くなる! それに争いを無くしたら僕たちは神狼フェンリル様に誉められるかもしれない!」


「そうだろう! そうだろう! 我々は! 神狼フェンリル様の為に世界を影から操るぞ!」


「「「うおおおおおお!!!!」」」


「全ては神狼フェンリル様の為に!!」


「「「全ては神狼フェンリル様の為に!!!」」」


こうして僕らの村は外の世界に行くために村全体で協力をした。僕らは絶対に神狼フェンリル様を悲しませない!




全ては神狼フェンリル様の為に!








____________________________________________


これからの話を書くためにちょっと歴史を調べたりしているので更新が遅くなるかもしれませんご了承ください。頑張ります。


ちなみにこの村の人達は全体的に知能が高いです。知能が高いんですけどベルのことになると結構おバカさんです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る