存在意義

 ああ、なんて馬鹿らしいんだろう。


 あの頃は、そんなことをよく考えていた気がする。確か、同期に対して。


 特に意味もなくたむろして、日常の崩壊に気づかずにほぼ今まで通りの日常を送る彼ら彼女らに、不満と怒りを貯めていた。……それは、もしかしたらその中になじめない自分に対してかもしれないけど、それはさておき。


 あの頃、会社の研修室でほぼ毎日顔を合わせていた彼ら彼女らは、今どうしているのだろう、なんて。過去に思いを馳せていた私の思考を、爆発音が切り裂いた。続けて、何かのうめき声、怒声、銃声が聞こえ始める。


「かかったか」


 なんて、小さく呟いて、すっかり手に馴染んだ銃を担ぎ外へ出た。

 屋外へ出れば、少し先の方で見張り番をしていた数名が既に交戦していた。その相手は、所謂ゾンビ。


「おい、早く来い!! 突破されるぞ!!」


 その一人が叫んで、私を呼ぶ。……ああ、そうだ。ここでは私も立派な戦力となる。だから。


「おっけえ、すぐ行く!!」


 叫び返して、前線へと駆けた。


 もしかしたら、あの中にあの頃の同期がいるかもしれないなあ、と頭の端で考える。


 そのまま、スコープを覗いて、今まさに仲間へ遅いかかろうとしていた化け物を撃ち殺した。

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