「日常」が変わった日

「ねえ、秘密の話なんだけど」

 

 その台詞が聞こえたのは、私が体育館倉庫で蹲っている時のことだった。顔を上げて見れば、クラスでも人気者の彼女が、倉庫の入口に立っている。

 

「……何の用?」

 

 彼女は、所謂クラスのカースト上位に居る割に私をいじめてこない、珍しい存在だった。だから、私も特に気にせずそう返した。そうすれば、彼女はいつも教室でそうしているように「ははっ」と笑った。

 

「言うねえ」

「……別に」

 

 ふいと彼女から目を逸らして、また自分の膝を抱えて蹲る。そんな私を見てか、彼女は思い出したように言った。

 

「そう、それでここに来た理由だけど」

 

 蹲って、俯いたまま聞く。私の視界は、制服のスカートに隠された自分の膝でいっぱいだった。

 

「君に、話があったんだ」

 

 話? 私に何の話があるって言うんだ。いじめなんてものとは縁遠い、常に教室で笑って立っているあなたと、毎日いじめられて、最終的にいつもここに逃げ込んでくる私で、どんな話をする。

 

「私、いじめって嫌いでさ」

 

 どの口が言う。そんなあなただって、私が陰口を叩かれているのを、筆箱や教科書を隠されているのを、黙ってみていたくせに。

 

「なんて言うの? 自分より弱い立場の子を大人数で囲んでどうでもいいことネチネチ言うの、見てると馬鹿らしく思っちゃうんだよね」

 

 だから何だ。そんな馬鹿らしい行為の対象になっている私は、それだけ愚かだって言いたいのか。

 

「だからさ、私と手を組まない?」

「……え?」

 

 予想外の言葉が続いて、思わず顔を上げた。彼女はいつの間にか、私のすぐそばまで来て居た。

 

「明日、私と一緒に登校して、一緒に教室に入ろう。それで、朝礼が始まるまで一緒にお喋りして、昼休みには一緒にお弁当を食べよう」

「でも、」

「なぁに、私のことをいじめようなんて連中、そうそう居ないさ。……それに」

 

 彼女が座り込んで、私の顔を、目をじっと見る。普段ならすぐ逸らしてしまうそれも、どうしてかこの時ばかりは目を離すことが出来なかった。

 数秒間、もしかしたらもっと、私たちは見つめ合っていた。

 

「……いいの?」

 

 そう、確認を取るように言う。声が泣きそうに震えていることに、音に出して自分の耳に入ってから気付いた。


「そんな目して生きるのは、勿体ないだろう?」


 言いながら頷いたその瞳が、あんまり優しくて泣いてしまった。



――――

診断メーカー、こんなお話いかがですか(https://shindanmaker.com/804548)より。

「ねえ、秘密の話なんだけど」という台詞で始まり「黙って頷いたその瞳があんまり優しくて泣いてしまった」で終わります。

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