カフェオレとアイスコーヒー、おいしいデザートと、それから。
その日は、最近結婚目前の彼氏と別れたという友人とご飯を食べに行っていた。ほどほどにおしゃれで、ほどほどに混雑していて、ほどほどにゆっくりできるお気に入りのカフェ。そこで、お互い好きなものを注文して食べて、デザートと食後のドリンクが来てからが本番だ。
「だってさあ、もう四年だよ。四年も付き合ってたのに、『やっぱ違う気がするから』なんてフワっとした理由でフラれることある!?」
やや声を荒げて言う友人を、まあまあと宥める。
「ほんとびっくりだよね。どうしてあの人、別れるなんて言ったんだろう」
当たり障りのない同意を返してから、ふと浮かんだ疑問を口にした。
友人と彼は、お互い自立出来ている二人だった。二人ともしっかりしていて、将来についてもきちんと考えていて、だから二人で支え合えたらなんだってできるんじゃないかな、なんて私は思っていたのに、こんな結末になるとは私も予想外だった。
「知らないよそんなの、私が知りたいって」
不貞腐れたような表情で言う友人に、「そりゃそうだよね、ごめん」と返してからカフェオレを一口飲んだ。
「ほんと、何が不満だったんだろうなー、今後どうするかとかも、ちゃんと話し合ってたのに。そりゃ、どっちかがどっちかのために妥協したりとか、多少のことを諦めたりとかはしたよ?でもそれだって、ちゃんと話し合って納得した上でのことだったんだけど」
そこまで言ってから、彼女は項垂れた。
「そう思ってたのは、私だけだったのかなあ……」
その声色があまりにも沈んでいて、項垂れているせいで前髪に隠れて見えない表情が不安で、何か言わないと、と口を開いた。
「結局、愛って依存だからさ」
口から出てきたその言葉は、嫌にしっくり来て、言った後で「ああそうだったのか」と自分の発言に納得してしまった。
「だから、人を愛することを知って、それで自分が変わってしまったと思ったんじゃないの、あの人は」
続けて言った内容も、あまり考えずに言った割には、なるほどそうかもと納得できそうなものだった。友人は、私の言葉の続きを待っているのか、じっとこちらを見ている。ほぼ直感で出てきた言葉の理由を、自分の中で探しながら言葉を発していく。
「だから、ええと……あの人は、夢とか、自分の将来とか、ちゃんとしてる人だったじゃん?」
「そうだね」
「だから、人を愛することが……つまり、依存することが、怖かったんじゃないかなって」
自分でも良く分からないなりにどうにかまとめたそれは、友人としては納得のいくものだったらしい。友人は、「ふうん」と相槌を打ちながら、アイスコーヒーを一口飲んだ。そうして、ふうと長く息を吐いた。
「じゃあさ、つまり」
「うん」
「あいつは愛っていうものを知らない、知れたはずなのに逃げた臆病者ってことだよね」
友人の言った内容があんまりにも辛辣で、思わず笑ってしまう。
「誰もそこまで言ってないよ」
「でもそういうことでしょ?」
再び彼女が私を見据える。その目は、もう沈んでなんていなかった。
「あいつはただの臆病者で、まあこれは認めがたいけど私に男を見る目が無かった。ただそれだけ」
もう残り少ないアイスコーヒーを、呷るように飲んでそのグラスをテーブルに置く。やや勢いのあるそれは、正直に言ってしまえば居酒屋でビールを飲むおっさんのそれだった。けれど、ああ、彼女らしい。
「あんなの早く思い出にして、新しい人生歩んでいかなきゃ」
そう言って笑う彼女の表情は活気に満ちていて。ああ、だから私はこの友人が好きなんだと、そう思った。
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