難攻不落-2

 はぁ、はぁと息が切れる。それに、ああまだまだ訓練不足だな、走り込みを増やした方がいいかもしれないなと考えた。

 少しずつ走るスピードを緩めていって、最後には壁に寄りかかる形になって足を止める。ふう、と息を吐いて、ずるずる地面へしゃがみこんだ。

 

 あいつが今日、夜番明けだとたまたま聞いて。久しぶりに会えるかな、とか、夜番明けなら好物でも差し入れてやろうかな、とか。

 浮ついた気持ちであいつを探したら、なにやら綺麗なお姉さんと腕を組んでいた。あれを見たときの、私の気持ちと言ったら。

 

 ……きっと、あいつはそんなの欠片もわかっていないのだろうけど。

 

「なんで変なとこばっかり鋭くて、大事な所は鈍いんだ、あの馬鹿」

 

 ぽつりと、誰にも聞こえないような声で毒づいた。『何に怒ってるんだよ』、そう言われたあの時、心底驚いた。……それから、少し嬉しかった。

 いつでも仏頂面で、表情が分かりにくいと言われる私なのに、あいつは何でもないように私の心の底を当てて見せる。それは、訓練生時代からそうだった。

 

 ……なのに、私があいつを想っているという、ただそれだけには気付いてくれない。

 

「……さっさと気付け、馬鹿」


――――

文字書きワードパレット(https://www.pixiv.net/artworks/87972644)より、09番『難攻不落』「気配」「お楽しみ」「好きにしろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る