同一

しちこ

 同一

「なぁ、なんでお前って俺の真似ばっかすんの?」

「沙久こそ、俺の真似しないでよ。知ってんだぞ。この前俺が買ったパーカー、お前も買っただろ。」

「してない、パーカーは俺の趣味。」

「趣味がこんなに被るわけないだろ!部屋だって同じ!全部一緒で違う部屋にしてる意味ないじゃん!お前が全部真似してるんだろ!」

「そんなこと言うけどさぁ。」

 わざとらしく怒ってみせる沙久はまるで子どもが怒るような、そんな怒り方。ぷりぷりと音が鳴りそうなそんな感じ。だからこそわかる、これは本気で怒っていない。

「じゃあなんで、お前って俺と同じところ怪我してんの?」

 これ。そう、指をさした先は沙久の手の指。正確には人差し指。そこにはシンプルな絆創膏がくるりと巻かれており、ガーゼ部分には血が滲んでいる。

 そして沙久をさす俺の人差し指。そこにも絆創膏がくるりと巻かれ、沙久と同じガーゼ部分には血が滲んでいる。

「俺は昨日、たまたま包丁で切ったんだ。料理の最中にさ。……けどお前のそれは?少なくとも昨日の夜、寝る前はしてなかったよな?」

 おやすみを言い合った後も、部屋は別なくせになんだかんだ同じ布団にくるまって、朝のおはようも一番の関係だ。お互いの身体のことなんか知り尽くしていてもおかしくないだろう。

 俺は確かに見ていたのだ。昨日の夜、おやすみと言った時には絆創膏なんかしていなかったと。

 同じものばかりの俺たちが違う部分。結局俺たちは同一ではないと妙な気分になったのを覚えてるいる。

 なのにだ、コイツはあろうことか傷まで同じにしてきやがった。

 沙久は尚のこと、ヘラヘラと笑っている。俺の指摘に意を介さずに毒気のない笑みで俺を見やる。

「俺のこれは夜中トイレ行く時にこけてさ、それでなにか鋭いものに当たって切っちゃったんだよねー。」

 分かりやすい嘘をつきながらもうっかり、なんて言ってやはり笑ってみせる沙久に俺は呆れたようにため息を一つ、ついてみせた。

「……気を付けろよホンット。」

「理久こそ!あまり怪我しちゃダメだよ?俺もお前も、痛いのは嫌なんだから。」

 俺は頷いてみせた。そうすれば沙久は満足げに鼻を鳴らしてみせる。



 俺もお前も、ね。本当によく言う。否定したいが否定できない。けど、痛いのは全人類嫌いだろう。

 そうやって言い訳じみた事を考えているが、沙久が言いたいのはそう言う事じゃないのは俺だって分かってる。

 俺たちはお互い、どちらかが傷付けば同じところを片方も傷付ける。同じにする。

 沙久が片腕を折れば、俺も片腕を折る。故意に折るのだ。


 そうして同じに近付いていく。


 別に真似をしたい訳じゃない、少なくとも俺は違う。そうするのが当たり前になってしまっているだけなんだ。

 ガキの頃から、なんなら赤ん坊の頃から俺たちは一緒に過ごしている。性格、髪色、それから表情以外は全部がお揃いの俺たちは、気付けば同じような物を好んでいたり嫌っていたりしていた。その延長線上に、怪我まで一緒というのがあるだけ。

 勘違いしないでほしいが全部が全部一緒というのは俺にとって、嫌なことではない。むしろ唯一無二を感じられて安心すら覚えるのだ。当然と思えることは安心に繋がる。

 だから定期的にお揃いを確認する。怪我をした際には尚更。

「……おい、そのアザなんだよ。」

 沙久の右手首。そこに青いアザができてるのを俺は見逃さなかった。

 それはできて数時間、といった所だろう。沙久は小さく「えっ、」と声を出し、アザの確認をした。

「あー、多分これさっき机にぶつけた時にできたんだ。さっきまでは何にもなかったのになぁ。」

「……ふーん。」

 机にぶつけて、ね。

「俺もお前も痛いのは嫌、なんだろ?」

「うん、痛いのは嫌だ。」

 へらりと笑う沙久はやはり毒気のない笑みを浮かべている。いつも通り、代わり映えのしない沙久の笑み。

 それに俺は鼻を鳴らしてから沙久に背を向け、その場を去った。

 

 さて、この後は夕飯作り。料理が壊滅的にできない沙久に変わって俺が率先してやっている仕事だ。

 話し合いの場であったリビングを出て、廊下を少し歩けば自室の扉はすぐそこにある。

 俺はドアノブに手を掛け、そしてガチャリと開きするりと部屋へ侵入した。

「……終わったら買い出し行かねぇと。食材ないわ。」

 俺はそう呟きながら、自らの部屋にある机の前へと向かう。そして躊躇いもなく、容赦もなく机の淵を目掛け、腕を強く振り下ろしたのだ。

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同一 しちこ @sitiko

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