14話 エレリスとライブ

――そしてコンビニから戻った私を待ち構えていたのが例の過激な宗教団体だった。


「うわ、盛り上がってるな。1番目の子達って知らなかったけど人気なんだ。……それにしてもすげー衣装だな。水着じゃん。サンオイルでテカテカだし、アレいいの?マネージャー?」

「全員成人してるからセーフ。でもなんか最近ポロリでバズったみたいね。ニップレスしててギリギリセーフだったみたいだけど……よし、そろそろ終わるわね。頑張りなさい!」

「よしゃあ!!行くぞ!!」

「「おー!!」」

「お、おー」


舞台で踊っていた少女達が歓声を浴びながらはけていくと1度照明が落ち暗くなった。さっきまで暴れていた男性達はザワザワしながら移動し始める。


「なあ、次ってどんなの?」

「知らね、聞いた事ないわ……それよりさ、衣装かなり際どかったよな! あの手の新人アイドルなら付き合えそうじゃね?」

「それな。ていうか飲み物買いに行かね?」


暫くするとあっという間に前列で踊っていた人はいなくなり、前列には新しく10名ほどの人と奥にチラホラと座っている人がいる程度に落ち着いた。2組目の開始が迫り弱々しくも活気が蘇る。


「お前らのファン来てるな。昨日の告知が間に合ったみたいだ。……言っとくけどアズサがいないからダメでした、なんて通用しないからな!なんならアズサなんて必要ないって所わたしに見せてみろ!」

「「……はい。」」

「……っ。」


2人の緊張が伝わる。空気が重い。ここに……いたくない。一瞬音が消え、音楽と舞台に照明が走る。前列から盛り上がる声が聞こえ、唾を飲み込んだ。

ふと視線を感じて振り返ると後ろでは華やかな服を着た女の子達がジッとこちらを見ている。真剣な瞳。耐えられなくなって思わず目線を下にズラした。


恥ずかしい


大会に出場してどんなに強い相手に睨まれてもこんな気持ちは抱かなかった。この空間にいる者は全て自分の意思でここに立ち、強い目標を持って生きている。向こうの私にはそんな意思も目標もなかった。神から強い力を授かったから誰よりも強くなるべきと思っていた。力に甘えて殻に閉じこもって、人と関わらない事を正当化させて逃げていた。


私はきっとあの頃から変わっていない。何一つ自分の意思で進んでいない。


「続いては可愛い顔でひねくれ毒舌歌詞をキャッチーに歌い上げる異才の3人組グループの登場だ!!」


歓声と共に2人が舞台にかけていく。その後ろ姿を眺めながら私は小さな頃の記憶を思い出していた。



――1番古い記憶は孤児院で生活していた記憶。私が捨てられた理由はあまりにも単純で反吐が出るほど不条理なものだった。


「おい、混血。近寄んじゃねーよ!!」

「……。」

「なんだよ。半魔人の分際で文句あんのか!」

「ご、ごめんなさい。」

「ふん、掃除しとけよ」


私の親はデビーク族と人族だったらしい。別に聞いたり調べた訳では無い。普通にしていたら髪で隠れてわからないがこめかみ近くに小さな角があるのだ。そして私は髪を刈り上げられその角を院内で隠す事を禁じられていた。


「人の生とは尊い犠牲の上に成り立っています。そして貴方の角は神に選ばれた生贄の証です。人族の為に全てを捧げる事を誇りなさいエレス《お前》。」

「……はい、ありがとうございます。」


集団生活で共通の敵がいる事は結束に繋がるという院長の持論と魔族の血を持つ私の排除という2つの利点から合理的に決められたルールは外を知らない私にとって当たり前の事だった。私には他にも制限があり、外出の禁止、勉学の禁止、鍛錬の禁止などがあり、詰まるところ雑用係として扱き使われていた。そして私に名前はなく、お前を意味するエレスと皆から呼ばれていた。


「俺の加護は剛拳だってよ!」

「私は知覚だって。なんか微妙。……でも誰かさんみたいにないよりはマシか。あははは」

「……。」


5~7歳くらいの時に自分の加護を理解できる瞬間が訪れる。しかし私は7歳を超えても加護が分からなかった。食事を満足に出来なかったため体の成長が遅かった事が原因かもしれない。加護は1つはほぼ確実に受け取れるが極稀に加護のない子供もいる。しかしそういう子達は加護のない代わりに非常に高い魔力を有するため、各所に重宝される。私もそうなら良かったが魔力は平均より少なかった。扱いは苛烈を極めた。体が未発達で女として扱われなかったのがせめてもの救いだったかも知れない。


「強い加護を持つ者であれば女子供は関係ない! 今こそ国家一丸となってこのバルリカ大陸を我がものとするのだ!全ての武力を供出せよ!!」


9歳の時に戦争の余波で孤児院の経営が破綻した。小さな子供は別の施設に大きな子供は戦時下だったため兵として受け入れられた。しかし私は加護もなく貧相な体だった為、完全に路頭に迷った。知恵もなく力もない子供に1人で生きる事は難しい。食うに困って山で木の実を漁っていた時、私に突然その瞬間は訪れた。


知神

思考加速の加護

思考を何倍も加速させて物事を瞬時に考察出来る。また結果的に自身の体感時間を遅らせる事が可能。

無神

不可侵の加護

一定領域内の全ての事象を看破・知覚できる。また魔力を無効化する効果があり自分自身も含まれるが一切の魔法攻撃を受けない。加護は無効化できない。

雷神

紫電の加護

肉体を電気化して光速移動・攻撃が可能。出力次第では完全に電気になれるが長時間の運転は危険。

武神

神眼の加護

魔力、血流、内蔵、筋肉、大気の流れなど全てを見通す目。また左目を瞑ると3秒後の未来が見れる。右目を瞑ると目があった相手の加護を3秒間封じれる。片目の使用は過度な精神疲労を与える。



しかし理解出来てもどうしようも無い。私は何かをする為に必ず誰かの許可か命令がいると刷り込まれていたからだ。いま食事をしてることは死んでしまう為どうしようもなかったから。でも加護を使用する理由は特に無い。そう思いまた木の実を探し始めると草むらから猫が飛び出てきた。初めてみる薄い桃色で可愛い猫は私に飛びついて鳴いた。人の言葉を。


「私はティタ……じゃなくてターニャ。特別に少しだけ鍛えてあげるわ!とりあえず木の実を食べるのはやめなさい。」

「ごくん……猫?た、たーにゃん?」

「まあ呼び方は何でもいいわよ。とにかくまずは……家と服と食事ね。全部魔法で何とかなるか。こっちに来なさい……あなた名前は?」

「……ないよ。みんなはエレスって呼ぶの」

「ふーん、じゃあ私がつけてあげる!貴方は今日から……エレリスよ!」

「エレリス?」

「そう、可憐な百合の花って意味。綺麗な白銀の髪に白い肌。あなたは将来きっと美人になるわよ!私くらいね!」

「……たーにゃん、猫だよ?」

「うっさいわね! 実物は美人なのよ!!」


それからは私の人生で1番楽しかった日々だった。ターニャは加護の使い方から言葉遣い、一般常識、女の子のあれこれと本当に色々教えてくれた。否定しか知らなかった私にとって肯定してくれるターニャはかけがえのない存在だった。しかし、別れは2年後。書き置きだけが家に残されていた。


****


親愛なるエレリスへ


教えられる事は全て教えた。これからは自分の力で生きていきなさい。そして1つ貴方に謝らないといけない事があるわ。私には娘がいたの。でももう会う事は出来ない。貴方を助けたのは娘への罪悪感を紛らわすためだったの。貴方は本当に娘にそっくり。顔が可愛い所とか純粋な所とか我慢しちゃう所とか。本当にごめんなさい。今は貴方ことを娘と同じくらい愛してるわ。でも結局、また娘を1人にするのは我ながら業が深いわね。最後に、貴方に人生の哲学をあげる。私の言葉じゃないけど昔から好きな言葉なの。受け取ってね。


「人間が自分で意味を与えないかぎり、人生には意味がない。」


きっとエレリスなら出来るわ。一応、当分の生活費と服は置いておくので使って下さい。あと寝る前に歯磨きしなさい。髪は毎日梳かしなさい。男は慎重に選びなさい。体は冷やさないようにしなさい。風邪を引かないように気をつけて。ずっと元気で健やかに。強く優しい素敵な女性に。


psもし本当に貴方がどうしようもなくなった時は必ず何とかしてあげる。


たーにゃんより

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