12話 梓と雷霆姫《ライトニング》の降臨
「チッ!デビークの癖にしぶといな。いい加減に諦めてそこを通せ!!」
「はあ、はあ、ここは……絶対に通さない!!」
「相手は弱ってる! 押し切れるぞ!!」
「「うおおおお!!!」」
町の兵士、冒険者、そして町長はボロボロだが大きなダメージは少なかった。逆に魔族は連携の取れた防御陣系に苦戦し、また集団対一体のみの戦闘は遠距離攻撃とカウンターでじわじわと重い累積ダメージが加算されていた。全員がこのまま責め込めば勝てると確信した時、魔族が語り始めた。
「……なぁ、どうだ。ここの占領を諦めてやる代わりに俺たちと手を組まないか? お前達デビーク族は未だに迫害されているんだろう?一緒に憎き人族を討ち滅ぼそうじゃないか!」
「……。」
「金や武器は好きなだけくれてやる。悪い話じゃないだろ?」
「あんな事言ってますが、町長ど、どうしますか?」
「……。」
正直、魔族の話は魅力的だ。町が守れるしこれからの冬を前に金は不可欠だ、人族に一矢報いることも出来る。ただ何の確証もない。それに相手は悪魔の加護を受けた魔族だ。そして何より結局、魔族側に寝返ったとして人種である私達はあちらでも爪弾きにされることが分かりきっている。交渉する価値もない。……それより会話の中に何か違和感が。
「……話にならない!負けそうだからって策が稚拙だぞ魔族。」
「そうかい。残念だねぇ。でも……時間は稼げたな。俺たちの勝ちだ!!」
「俺たちだと!――なに!?」
港から巨大なの飛沫が上がり、似た顔だが体が2倍近く大きい魔族が現れた。
「おいおいデスマンボウ、デビークに何やられてんの?弱っちいな全くよ。」
「すみません、デスシャーク先輩。こいつらしぶとくて――」
「黙れよ雑魚が。さすがすぐ死ぬ事で有名な最弱の魚だぜ。まあ勝てそうだったデビークには申し訳ないけどこの俺が来たからには瞬殺、虐殺は決定事項だ!!悪魔の加護
次の瞬間、魔族の体を覆っていた鱗が伸び始め一つ一つが鋭利な剣に変わっていく。そして肩慣らしとばかりに腕を地面に叩きつけると凹んだ地面に無数の穴が空いていた。
「シャークククク、全身で呼吸出来るようになりたいヤツはこっちに来いよ!」
「か、勝てっこない」
「もうおしまいだ。」
「……来ないならこっちから行くぜ。デビークの三枚おろしだ!!!シャアアアアア!!」
「……ここまでか。ジャスミーすまん。」
町長が死を覚悟して目を閉じる。しかし、その瞬間は訪れなかった。
何かが砕ける鈍い音と鉄と鉄がぶつかった様な甲高い音が響き、目を開くとパジャマ姿の女が素手で魔族の攻撃を受けていた。拳と拳をぶつける形で。
「ギャシャアアアアアア!? 俺の手がアアア!!!」
よく見ると魔族の拳は砕かれ血が吹き出し、折れた鋭利な鱗が地面に突き刺さっている。一方のパジャマの女は無傷だが心底驚いた顔で自分の手を確認していた。
「よくも俺様の手を……き、貴様は何者だああ!!!!」
私は、いや町に住む者は全員わかったと思う。顔を見た事ないものもこのタイミングで現れた人族の恐ろしく強い女をみて1人しか思い浮かばないはずだ。……そうだ。魔族、聞いて驚け! お前達の運命はここで終わりだ!!なぜならここにいるのは世界最強のあの――
「БффзАエБЙリЁБЖЬτξιトニпфрзここに参上!!」
「「ん、んん? なんて??」」
――町に到着する少し前、急に爆走を始めたクインに特にやることもないので話し掛ける私。ちなみに体を動かしている感覚はあるし自由はきかないが五感は通常どおりに活動している。なんていうか完全にオートメーション化していて夢をみている様な不思議な感覚だ。疲労感がない事がより違和感を高めている要因に思える。
「なんでこんなに速く走れるの?」
『えっと……魔力を……足に込めてる』
「ふーん、私も出来るようになる?」
『すぐ……出来るように……なるわよ……この速度まで出すのは……時間が掛かると思うけどね』
「もしかして喋るの辛いの?」
『辛いわよ!! 黙ってて!!あ……もう着くわよ!……戦闘してる……このまま行くわ!!あいつ殴るわよ!!おりゃああ!!』
「えっ!ちょっと、何何何!!?ハリセンボンの妖怪!?――おぎゃあああ!!」
そのままヌルッと戦闘に突っ込み相手の拳に拳を合わせる離れ技を炸裂させるクイン。痛みはないが拳を砕く感覚がリアルに伝わり鳥肌が立った。あとハリセンボンマンの鋭い針が手に吸い込まれていき、完全に手に穴が空いたと思ったが、針が折れて吹っ飛んだらしい。クインも焦ったのか確認してたのが可愛かった。
そしてこの場に立って気がついた事はこの状態だと言葉がわかるという新事実。耳は一旦クインの感覚として通っているため私にも聞こえるみたいだ。憑依の仕組みが謎すぎる。
「―私はエレリス・ライトニング」
「―エレリス・ライトニングここに参上!!」
ハリセンボンマンの理想的な名乗りのフリに思わず言葉を口に出したがどうやらクインも喋りたかったみたいでモロ被りした。そしてこれも発見だったがこの様に意志を持った行動が被ると混線して正常に機能しないらしい。例えば殴った時に咄嗟に反応した動き、反射行動などは主導権がハッキリしていないと反映されない気がする。……まだ使ったばかりだしこれから確かめていこう。
「エレリス様、お助け頂きありがとうございます。」
ハリセンボンマンが呻きながら転がっているのを眺めていると、なんかボロボロのおじさんが話し掛けてきた。もしかしてこの人がお父さんか??……クレン、この人がお父さんか聞いてくれる?『え?まあ、いいわよ!』
「あなたは私のお父さん?」
「えっ……いや、あなたのお父さんではありません。」
ちょいちょいちょい!! お父さんか聞いてって言ったけど、違うってそれ!! エレリスさんが痛い子だと思われちゃうってクイン!『私だって変だと思ったわよ!でも場を和ませる為にアズサが激しくボケたのかと思ったの!』私そんな空気読めないボケしないよ!あの子のお父さんか聞いて欲しかったの!『あの子? あー家に来た女の子ね!確か名前は……ジャ、ジャスコ?』ショッピングモールじゃん。ジャスミーね。
「間違えました。あなたジャスミーのお父さん?」
「は、はいそうです。娘がどうかしましたか?」
よし、これで任務はとりあえず達成したも同然!『アズサ、なんて返したらいいの?』あー何でもいいよ。ジャスミーの感想でも言っといて。
「可愛いくて気に入ったわ。2番目にしてあげてもいいわよ!」
「それは……一体どういう?」
おりゃりゃりゃりゃああ!!!何言ってんのクインちゃん!!『な、何よ、お友達になりたいと思ったのよ!……あーなるほどね。ふふふ、心配しなくてもアズサがぶっちぎりの1番よ!!ヤキモチなんて可愛いわね!』いや、そういう事じゃないんだけど。すごく嬉しいけど……何これ。くっ上手に怒れない。
「呑気にお話とは……このデスシャークを舐めるのも大概にしろよ。」
忘れてた。ていうかコイツ鮫だったんだ。ハリセンボンマンだと思ってた。じゃあなんでトゲトゲしてんの?もしかして異世界の鮫ってこんな感じなの??
「ううん、こっちでも鮫はあんなハリセンボンみたいじゃないわよ。特殊なおデキか寄生虫持ちじゃない?ばっちいわね。……あっ口に出てた。」
「この俺がハリセンボン、と、特殊なおデキか寄生虫持ちぃ……ばっちいだとおおおお!!!! コロス!絶対にコロス!!」
クインちゃん!めっちゃ怒ってるじゃん!!正直、今のは半分くらい私のせいかもだけど『そうよ!アズサも悪いわよ!一緒に謝りましょ!流石に寄生虫持ちは言い過ぎよ!!』いや、そこら辺はクインのアドリブだから!それに仮に寄生虫持ちだとしたら持ちすぎでしょ。それだと――
「ふふふ、それは確かに寄生しすぎてどっちが寄生虫かわからないわね。……あっしまった。慣れないわこれ。」
「この俺の方が寄生虫だと……!!!シャアアアアアアアアアアアアアアク!!俺の最強魔法
私でもわかる力の波動。二足歩行が四足歩行になりワニっぽい見た目になった。次第に口に青い光が溜まり始める。これは発射するまでにやっつけるべきだな。クインやれる?『うーん、体力がギリギリかも。何か食べ物ない?』そんなこと言われても……うぅお腹空いてると思うと凄い脱力感が急に、やばい。
「はあ、間に合った……エレリス様!!これを受け取ってください!!」
「あっジャスミー!…こ、これは!あむあむ」
ジャムお〇さん並のタイミングでジャスミーから投げ込まれた物は分厚いサンドイッチだった。これは絶対美味いやつ!!『何これ美味しそう!!』卵の『美味い!!』薄切りされた鳥『妖精界にはないギトギト感が最高ね!……ジャンクってやつだわ!』……まあそんな感じ。ていうかジャスミーはよく私達の状況わかったな。しかもパンだし、もしかしてジャムお〇さんの加護?『アズサ、元気100倍で力が漲ってきたからやってみたい大技いくわよ!!それに私……やっぱりこの町の人ちょっと嫌いなのよね』えっ何?どういう事?
――エレリスが両手を前でクロスさせ目を閉じると大気が震え、手元に膨大な熱量の稲妻が走る。そして魔法によって生成された金属粒子が手元で小さな星型に変形し圧縮された電撃を帯び魔力によって亜光速で射出される。
「
対してデスシャークの口に溜まった青い光が圧縮され握り拳くらいの大きさに変わると閃光が飛んだ。
「
その刹那、音が消え世界が白黒になった瞬間、爆音と共に全てが終わっていた。海と空が途中まで割れている。というか港が一部消滅した。衝撃波で殆どの家の窓ガラスは弾け飛び、地面の一部は熱でガラス化している。海には熱や感電によって魚が浮かんでいるし、何よりもデスシャークは跡形も無く消え、デスマンボウは黒焦げで海に浮かんでいる。
「ふふん、どうよ?……ねぇお父さん。すこしは反省した?ふふ(小声)」
「え、あっはい……///////」
「お、お父さんなんて気が早いです。エレリス様……///////」
見るも無惨な港に不釣合いな可憐な笑顔で佇む猫パジャマ美女。そしてこの瞬間、ここイーテラに世界最強にしてあざとく小悪魔的な可愛さで大陸を席巻するエレリス・ライトニングが誕生してしまった。
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