6話 エレリスと妖精ハレイ

とりあえず、号泣する妖精を瓶や袋が散乱した机に座らせて服を着ることにした。妖精とはいえ全裸は恥ずかしい。比較的綺麗なタオルで体を拭き、多分洗ってあるだろう干されている下着を身につける。着るのに手間取ったが上の下着に特殊な加工?がされていて着けると胸が半分以下になった。これ凄いよ!胸を潰されてる感じもしないし、あちらの世界の下着より断然着心地がいい! 欲しい!!


「……いや、そもそも元の体に胸を小さくする機能要らなかったか。あはは…」

「………?」


下着のおかげで足元をしっかり確認できる馴染み深い景色にホッとしつつ、適当に汚れてない無地の半袖シャツと不思議なタオル地の短パンをはいて完成!服を探す時に色んな服で覆い隠されていた姿見を発見していたので確認する。うん……まあ防御力はゼロだけど動きやすいし悪くないんじゃないかな!


「エレリス様……」

「あっ、もう平気なの? た、確かハレイちゃんだっけ?」

「――ッ!! ううぅ、…ハレイはお姉ちゃん以外に名前で呼ばれたの初めてです!! とっても嬉しいです!!」

「そうなんだ…」

「はい!!」


宙に浮く淀みのない澄んだ濃い青い瞳に空色の髪、そして背中には半透明の羽。私の名前を呼んでいる事からこの世界の存在ではないのだろう。それに……私と同じ友達のいない境遇に親近感を覚える。凄くいい子そうだし…仲良く出来るかも。


「……その、さっきは本当にごめんねハレイちゃん。」

「――もういいですよ! ハレイはすっかり元気になりました!! えっと……あっ体で表現するならこんな感じです!パワア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」

「ぶっあははは、何それ声デカいよ!」

「ふふーん、これは異世界の元気な人の真似です!ヤア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ーッ!!!」

「あはははは、ひーひーお腹痛いからヤメテ…」


こうして妖精のハレイと無事仲良くなれた。お友達とはまだ呼べないかもだけど……上手くやっていけそうだ。それと聞いたら私のサポートとしてやって来たらしく、神王様から頂いた加護のおかげでこの異世界の言葉と文字が解り、知識を自由に頭の中で閲覧出来るらしい。ちなみにさっき大声はこの世界のカリスマ筋肉芸人の真似で本人曰く「パッと見て1番笑顔が素敵だったから選びました!ヤア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ーッ!!!」との事だった。ハレイは本当に可愛くて面白くて良い子です。ありがとう神様!


「――なるほどね。つまり私は死んでこの同じく亡くなったマトバ アズサって子と魂が入れ替わって蘇生したと……そして、この世界は魔法や加護が存在しない私の望んだ平和な世界って訳ね。」

「はい、でも加護は魂を依代にした概念自体に干渉する力で魔力や魔法がなくても発動できます! 私が加護を使っているのが証拠です!ちなみにエレリス様も魂は変わりないのできっと加護は健在ですよ!」

「そうなの、全然知らなかったよ!ハレイは物知りなんだね!」

「てへへ、私、本ばかり読んでいたのであっちの世界の事は大抵わかります! あっ面白い話だと加護には魂で受け入れられる許容量があって、人間は最高でも4つらしいです!でも人間の各種族にはそれぞれ四柱の神がいて、結果与える加護は最高でも四つだからピッタリなんですよ! でもある統計資料によると加護1つが1000人中999人でほとんど人がこれに該当、2つが1万人に1人でごく稀、3つが100万人に1人で奇跡、そして4つが1億人に1人で伝説らしいです!さらに伝承だと――」


「うん、そうなんだ…」


ハレイから現状を確認していたのだが、途中から凄い早口で聞き取れなかった。でもていうことは私の加護って使えるんだ。……あっ本当に使えそう。ん?それにこれって――


ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピーーンポーーーン


思考を遮るけたたましい音が室内に鳴り響く。音の発信源はどうやら外に繋がる扉だ。驚きながらも自然とそちらに目を向けると今度はより直接的な音に変わる。


ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン


「ひぇ! エ、エレリスしゃま…!」

「大丈夫だよ。」


ドアを激しく叩く音にハレイが怖がって私の背中に隠れる。まあ私は怖くはない。これでも世界一だった女だ。身体能力は著しく下がっているし、魔力はないし、装備も紙だが一体一で負けることはないだろう。それにいざとなれば加護もある。使えば最悪、相手を殺しかねないが致し方ない。


「ХЕИХИЙХЁИЗМФЗФЬЛРЩИЛРШЗРФЗМХ!!」


外で何か叫んでいるが聞き取れない。声からして160cmくらいの10代後半女性……かな。ダメだ。この耳じゃこれが限界。武器の有無や周りに仲間がいるか、本人の力量なんて到底わからない。仕方ない、ここは加護を――


「――ッ!…でんわにでろや…アズサ…舐めてんのかお前。って言ってますエレリス様!」

「え、ハレイ言ってる意味わかるの??」

「あっはい、これ異世界の言葉ですから。あの……ちょっと、その……頬っぺを失礼します!えい!」


ハレイはそう言うと私の頬に軽くキスしてきた。一瞬何が起きたのかわからなかったが、顔を赤くさせ口を押えるハレイを見て全てを悟った。そして顔が熱くなる感覚と同時に視界が歪む程の目眩に見舞われる。


「アズサ、アプリでここにいるのは分かってんだよ! テメェ昨日しょうもないチャット送りやがってまた二日酔いだろ!!起きろコラ!!」


すると今まで聞き取れなかったドアの向こうの言葉がすんなりと理解出来る。


「――言葉がわかる!!」

「こ、これがハレイの元々の加護なんです。キスした人に自分の加護を貸してあげる力。ずっとこの加護だけだったので皆に馬鹿にされてきましたが、2つ目の加護を貰えてやっと使うことが出来ました!……エレリス様、ハレイはもう役立たずじゃないでしょうか?」

「そ、そんなの当たり前でしょ!! ハレイがいて助かったよ!本当にありがとね!」

「てへへ、よかったです…!」


ハレイの加護は単体ではまったく意味を持たない力。だけど彼女らしい力だった。貸している間はハレイに加護はなくなる。なんて優しくて気高い力だ。そう……こっちの言葉でいうなら、エモすぎてハレイちゃんしか勝たん!一生好きぴ!!って感じかな? ……うん、それに加護がなくなってもハレイちゃんとはあちらの言葉で今まで通り会話が出来るし、不便は無いと思う。何よりこの言葉や異世界の知識を閲覧できる力は強力だ。


「エレリス様、ハレイの加護 祝福は1日しか持ちません。それに加護を紛いなりにも追加する事は魂に負荷がかかります。何ともありませんか?」

「大丈夫だよ。これで加護が5…いや6つ?あるけど何ともないよ!」

「ふぅ…そうですか。良かったです!――え"え"え"! ?6つの加護!!? ど、どういう事ですか??」

「いや、さっきも言おうと思ったんだけど――いや、それは後で話そう。まずはあっちを何とかしないとね。」


「アズサちゃーん、怒らないからお話しましょー。あれ? このハガキ美容院替えたの? 」

「――カエデ、そんなもんじゃコイツ起きないって、お"い!!! 起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろお!!!」

「ひぇええ!エレリス様…」


さっきと同い歳くらいの違う声と共にドアの下にある郵便受け?から白い手が伸びていて、ガサガサと下に溜まった郵便を漁り、腕を振り回していた。早く何とかしないとハレイがまた泣いちゃう!


覚悟を決めてドアの前に移動し、頭に流れる異世界の言葉で声をかけた。


「あ、あのどちら様でしょうか?」

「――ッ!! 何いってんだお前?……いや、そんな事よりとにかく開けろ。もう時間がないんだよ!はーやーく開けろ!!」

「アイちゃん、怒鳴ったら可哀想だよ。アズサちゃーん、大丈夫だから出ておいでー」

「えっと…わ、わかりましたから静かにして下さい。」


とりあえず玄関にあったピンク色の穴の空いた靴を履き、少し手間取ったが鍵を開けてドアを開くと腕が勢いよく伸びてきて肩を掴まれた。そしてそのまま外に引き摺り出される。


「ア・ズ・サぁぁ!! とにかく今すぐ仕事行くぞ!連帯責任取らされたら許さねーからな!!服は……とりあえず私のこれ羽織っとけ!」

「うわっ、仕事? ちょっ、ちょっと離してくださいよ!」

「はあ?何言ってんのお前??ったく、スマホも出ないし割と心配したんだからな。まじで死んでるかと……くんくん……っていうかお前、風呂入ってんな? やっぱり居留守しとったか!!おりゃおりゃおりゃあ!!」

「えっ、いや、ごめんなさい…ちょっ痛い痛い!」

「許さん。マジ何いい匂いさせてんのお前?香りでリラックスさせんな。」

「スンスン……あっこの匂いは!……ふふふ、ついに使ってくれたんだね!なるほど、これでようやく……」

「ふ、2人とも……引っ張らないで」


どうやら仕事の同僚?上司?らしい。加護を使って撃退しようかとも思ったがマトバ アズサの関係者なら従う他ないだろう。あと正直、今まで人に面と向かって怒られたり、気安く絡まれたりした事がなかったのでちょっと嬉しかったりした。それに痛いなんて感覚も久しぶりで新鮮だった。……異世界、ちょっと楽しいかも。


「エレリス様ぁぁ!! 待ってくださーい!!ハレイを置いてかないでぇぇ!!うあああん!!」

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