第13話 ファンミだよ! 全員集合!

 GW最終日の日曜日。

 気象予報士が『もう私にも予測できません』と言うほど異常な猛暑が今日も仙台を襲っていた。

 そのニュースを見ながら俺の家で朝食(コンビニ弁当)を食べていた小沢は『じゃ俺でも出来るじゃん』とか言ってたがそれについてはノーコメントで。

 ……ところで昨夜のことだが結局小沢はリビングのソファーに隔離して寝かし付けたので貞操の危機は免れた。

 だがどうやら寝相が悪いらしく、起きる時には玄関のドアに居たとか。

 世界一寝相が悪い人選手権1位を取れると思う。

 頭ひっくり返ってたとかそういうレベルじゃない。

 全くどうやって中学の修学旅行を乗り越えたのやら。

 きっとガ○バーみたいに締め付けられたんだろうな。

 ……小沢の話はいいんだ、今日の話をしよう。

 俺と小沢、凪、白鳥の4人は仙台駅に11時集合。

 その目的は今を時めく人気急上昇YouTuber、あつあつステーキのファンミーティング。

 大学のサークル仲間と意気投合して集まった5人組で活動。

 登録者は俺たちの目標である100万人を超えていて、それでいながら結成からまだ1年半。

 歴としては後輩なのに立場的には先輩という何とも言えない立ち位置に居る。

 そんなあつあつステーキから成功の秘訣を探ろうと、俺たちはこのイベントに参加することになったのだ。

 俺はシンプルに、凪と白鳥はカジュアルに、そして小沢はなにを警戒してるのか全身黒にサングラス、黒い帽子。

 有名人でもそんなに隠さねぇよ、というかむしろ目立ってるわ。

「よしのんのライブ見たばっかだしなー、見劣りしそー」

 あえて周りに聞こえるように比較的大きな声で凪は喋る。

 こういうやつが居るから民度が悪いとか批判されるんだろうな。

 ほら見ろ、隣にいる白鳥がゴミを見る目で凪を蔑んだ。


「ここか……」

 仙台駅から徒歩10分。

 背後には高層ビルが立ち並ぶ中、こじんまりとしたスペースに建っている雑居ビル。

 その地下1階でファンたちは熱狂的な空気に包まれるという。

「登録者100万人越えでもこんな狭いところでやるんだな」

「まあ最初のファンミってことだし、倍率とかも見てこれから調整していくんだろ」

 会場の外にはすでに長蛇の列が出来ていた。

 その数100人ほど。

 ただ100万人の登録者がいることを考えると、この数は微々たるものになるだろう。

 と考えると倍率はやはりとんでもなかったのではないかと思われる。

 ここに来ているのは選ばれし100人ってことなのだろうな。

 そのうちの4人がファンじゃなくてすみません……。

「結構女子居るんだな」

「ああ、しかも爆弾抱えてそうなのもちらほら」

 凪は基本的に一言余計なのは置いておくとして、確かに中には地雷系のファッションをした女子やガチ恋勢らしき人もちらほら居る。

 YouTubeの動画を見る限りそのような感じには見受けられなかったが、ライト勢はGWで旅行や帰省に行ったりしているのだろう。

 それに同性も認める顔の整ったイケメンが居ることもあり、結果的に全ての障壁を乗り越えて来た上澄みがここに居るというわけだ。

 これ以上の解説は求めてないのに凪は話を続ける。

「いいか、後ろにはビル街、奥には住宅地が広がってるんだぞ。なのに騒がしいわ写真はカシャカシャ……、先が思いやられる」

「あんたもおとといこんな感じだったけど」

「いちいち揚げ足取んな」

 なんだと、と口喧嘩がエスカレートして道路の真ん中で取っ組み合いが始まり、慌てて二人の間に割り込む。

 君らも大概だと思うよ。

「列も動き出したし並ぼう」

「はぁ〜い」

 喧嘩を中断させられ、不満そうに返事をする2人。

 まあ喧嘩をするほど仲がうんぬんかんぬんとか言うし。

 まあ本当に仲良かったら喧嘩が起きる前にうんぬんかんぬん。

 ……とにかく。

 会場が開場し(狙ってないよ?)、列はどんどん短くなっている。

 こんなところで油を売っている場合じゃない。

 ファンミ開始までの15分で物販を素早く見回らなきゃならない。

 小沢の言っていた『100万人にたどり着ける道』を見つけるためにも。

 少しでも成功者から秘訣を学んで糧にしなければ。

 手に力が入り、握っていたチケットが僅かに折れ曲がった。

 

 「オリジナルTシャツにアクキー、スマホカバーねぇ……」

「結構使いやすいものにしてあるんだな」

 オリジナルTシャツは自身をデフォルメしたキャラクターや文字が描かれているわけでもなく、背中に小さくロゴとそのチャンネルのサインがデザインされている。

 アクリルキーホルダー、通称アクキーもリュックに着けることもできるだろうし、スマホカバーも同様。

 日常的に身に着けることができる優れものたちだった。

「ほぉ……」

 口うるさい厄介オタクである凪でも感嘆の声を漏らしてることからもこのグッズの質の良さが伺える。

 ファンではないが、記念にタオルを購入することにした。

 ここまで来てお金を落とさないのも申し訳ないし、何より思い出に残るものがないと寂しいと思ったから。


 人混みでキャパが一杯一杯な狭い通路を潜り抜け、物販も一通り見回り終わった俺たちはファンミーティングが行われるホールの中に入り、開始を待つ。

「やべ、ポップコーン買い忘れた」

「安心しろ小沢、ここは映画館じゃない」

 そんな軽いボケに何となくツッコミをしていると、場内アナウンスが流れる。

『場内での携帯電話、スマートフォン等の携帯端末の使用は原則禁止です。撮影、録画、録音などの行為はお控えいただきますようご理解ご協力を──』

 同じく物販でグッズを買い揃えてきたファンも集まり、熱が篭る。

 間もなく開演だ。

「おい、もう始まるぞ。スマホしまえよ?」

「ちょっと待て、よしのんのゲリラ配信始まったからあと4時間は待て」

 それなのにコイツは……。

「その時には終わってんだよ。ほら、しまえって」

「い、いや、せめてイヤホンだけでも! おい、おいってぇぇ!!」

「こんなオタクにならなくてよかったわマジ」

 そんなしょうもない話をする間に。

『お待たせいたしました。ただいまより、あつあつステーキ100万人記念ファンミーティングを開演いたします!』

 そのアナウンスを合図に本日の主役――あつあつステーキのメンバー5人が姿を現す。

「どうも~!」

「こんにちは~!!」

 会場はファンの暖かな拍手に包まれる。

「100万人おめでとー!!」

 熱狂的なファンからの声援にも丁寧にメンバーは対応していく。

「あ、そこのうちわ持ってる子ありがとう! いやー、ここまで速く100万人いくと思わなかったよね~」

「そうだね、もともと目標にはしていたことだけどまさか1年半とはね……」

「ここまで応援してくれたみんなのおかげだね、サンキュー!!」

 拳を握った手を上に勢い良く掲げ、とびきりの笑顔。

 それに合わせてファンも『おめでとーっ!』と声を揃える。

 序盤からボルテージは最高。

 その勢いに乗って5人は目配せ。

「んじゃ、記念ってことで……、オリ曲行ってみよー!!」

「聞いてください、『幕開けはシャトーブリアン』!」


 「はいじゃあそこにあるでっかいサイコロを振ろうか」

「よいしょ! さぁ~てサイコロが転がり転がり……。はい、出ました、最近やらかしたこと!」

「最近やらかしたことかぁ、なんだろう……」

「コーラ開けっぱなしで炭酸抜けてたとか?」

「それじゃちょっとパンチ弱くない?」

「そっか、確かになぁ〜」

「う〜ん……、やらかしたこと、やらかしたこと……」

「あ、お前アレあるじゃん」

「えなになに」

「ほら、産業革命体力テストの後の飲み会で」

「あ~、あったあった! あれマジでヒヤヒヤしてさ!」


 「はい、次の企画は~! でけでけでけでけでけでけでけでけで〜ん、──じゃ~ん、借り物シャトルラン!」

「借り物シャトルラン、ってなに?」

「俺たちは打ち合わせの時点で知ってるでしょ!」

「あは、そうでした」

「ワザとらし〜w」


 「さあテンポが速くなってきたぞ! 次のお題は今月誕生日の人!」

「誰かー! 今月誕生日の人ー!」

「お、そこで手を上げてるぞ! さあでももう時間が無いぞ?」

「え、ウソ、コケたし! ざんね~ん! 記録は13回!」


「はい回すよ~、――出ました、番号は14!」

「ビンゴ出ました!」

「お~! すごい! まさかの7回でビンゴ! 豪運だねぇ!」

「っということで、一等賞にはこのサイン付きアルバムをプレゼント!」

「やったぁ!」

「おめでとう~」

 

 


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