第160話 再片(緒恋視点)


 高太郎さんに助けて貰ってからは、とても楽しい日々が続いた。勿論、時には苦しい事だってあったけど、いつも高太郎さんが助けてくれていた。

 ただ、高太郎さんに進められて学校に復帰した時は、誘拐された時の噂が流れてしまって、いじめにも発展してしまったのが、申し訳なかった。


 事件後、私は男性が怖くなってしまった。特に、父親や誘拐された時の犯人に似た姿の人はもっと怖い。

 見るだけで、声を聞くだけで鳥肌が立ってしまう。

 私だって、いつかこのトラウマを克服しなければ、前に進めないことは分かってる。分かっているのに、どうしたら良いのか分からない。

 スペースオペラライバーの顔合わせの時だって、城東さんと腹一さんの顔を見ただけで、犯人の顔がフラッシュバックしてしまい、足がすくみ鳥肌が止まらなくなってしまった。本当は、ちゃんと挨拶したかったのにな。


 どうしてか、高太郎さんに対しては拒否反応が出ないから、何か解決法があるのかもって思ってる。


 「喉・・・・乾いたなぁ・・・・」


 昔のことを思い出し、涙を流してしまったせいか喉が渇いてしまった。

 重い体を動かしてベッドから降りると、キッチンにある冷蔵庫の扉を開け、中からスポーツドリンクを取り出す。

 冷蔵庫の中を見れば、碌な食料は入っていない。


 「そう言えば、いつから食べていないんだっけ?」


 ここ最近、部屋に籠りきりのまま食欲も沸かず、食べても軽いお菓子ばかりだったせいで、胃の中が気持ち悪いことに気付いた。


 「部屋から、出たく、無いなぁ。」


 自分が居れば、周りを不幸にしてしまう。奈落さんだって、怪我をせずに済んだのに。

 そんな思いが、ずっと心の中から消えない。


 「ふぅぅ、考え過ぎも駄目だって言ってたよね。取り敢えず、コンビニにでも行けば、何か変わるかな?いや、その前に外の天気を見ないとね。この時間に外出は控えた方が良いだろうけど、リフレッシュの為だと思えば大丈夫だし。」



 自分なりに、この重くなってしまった気持ちを解決しようと、行動してしまったのが悪かった。

 いや、どちらにしろ、この不幸からは免れなかったのかもしれない。


 外の天気を調べる為に、バルコニー側のカーテンを開けた時、信じられないものを見てしまった。それは―――――


 「ハァッ!ハァッ!おっ!!丁度良いところに出て来やがって!!!てめぇ!!今すぐ殺してやる!!!」


 ベランダの柵をよじ登って来る、の姿があった。


 「ヒッ!ッ!キャーーーーーーーーーーーー!!!!」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る