第159話 波乱万丈(緒恋視点)


 バンが走り続けること30分。

 窓はしっかりと隠されている為、何処に向かっていたのかは分からないが、僅かな隙間から見える景色的に、駐車場だと思われる場所で止まった。


 「よし!お前ら、もう良いぞ!・・・お疲れさん。」


 「ッンン!!!ンンッ!!ンッ!!」


 運転手の男が、そう言い放つと、横に座った居た中年男二人が私に襲い掛かって来た。

 上着は脱がされ、髪や足に顔を近付けて来るのを、何とか手足で押し返そうとするが、力では勝てない。


 「すまんな。もう金は貰ってるから、どうしようも無いんだ。」


 私が襲われている姿を横目に、そう言っているのが聞こえ、現状を整理出来ていない頭で理解する。


 ”この誘拐は、あの男が依頼した物”だと


 あの男は、自分の娘を金で売ったのだ。

 体から力が抜けていくのが分かる。

 もう諦めよう。


 お母さんが死んで。

 父親には裏切られ。

 果てには、中年男の慰み者。




 もう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死のうかな・・・・・・・。





 頬を伝う涙を感じながら、お母さんとの思い出が頭をよぎった瞬間、バンの扉が開かれ、眩しい光が顔にかかる。

 顔を、開いた扉の方に向けると、赤色の光と人の影がたくさん見えた。


 「確保!!!おい!さっさと降りるんだ!!」


 「未希!!未希!!大丈夫か!!!おい!!!」


 体に覆いかぶさっていた重みが無くなると同時に、誰かが私を揺さぶっているのが分かる。

 大体、20代くらいだろうか?どうして、私の名前を知ってるの?


 「大丈夫だ!!大丈夫だからな!!本当にごめんな!!私がもう少し早く訪ねていれば!!」


 その人は、私を抱きしめると、優しく背中をさすってくれているのが分かった。

 一瞬、触られる時、緊張状態になってしまったが、不思議と背中をさすられている間に、リラックス出来ていることに気が付くと、意識を失ったしまった。




 「よく頑張ったね。おやすみ。」



―――――――――――――――――――――――――――――――――



 これが、私と高太郎さんが出会ったきっかけであり、人生の分岐点だった。


 後から聞いた話では、お母さんが亡くなる前に、同じ学校の友達で中の良かった高太郎さんに、『未希に何かあったらお願いね?』と言うメッセージが送られて来たらしい。

 そして、お母さんが亡くなった後、メッセージの約束を守る為に元父親に連絡を取っていたのだが、ある日から連絡が付かない状態になり、心配になって家を訪ねてみると、家の二階から出てくる私の姿を発見した。

 勿論、家を出てからすぐに声を掛けようと思っていたのだが、私の歩く速度が思っていたよりも速かったらしく、駅に着いて頃には見失ってしたようだった。

 慌てて、近くのタクシーを使い、私を探していたところ、歩いている私が連れ去れているのを目撃。その後、タクシーで後ろを追いかけながら、警察に通報したことで、私は助かったのだと言う。







 これも全て、お母さんの御蔭なのかな?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る