第156話 神鮫 未希(緒恋視点)

午後7時


 【お母さん!!!お母さん!!!お願い!!目を覚ましてよ!!】


 【うるせぇ!!!あいつみたいな目をしやがって!!!さっさと出て行け!!】


 【ほら見てよ!ちゃんと契約書にも書かれているでじょ?だから合法なんだよ?合法!!】




 「ッッ⁉ハァッ!!!、ハァッ!、ハァ、もう嫌!!」


 横にある枕を壁に投げつけ、ベッドの上で蹲る。

 事件が起きた日に見てしまった、あの男の顔が頭から離れてくれない。







 今では考えられない事だけど、お母さんが病気になるまでは、とても仲の良い家族だったと思う。

 ただ、その病気がすい臓がんだと分かり、状況が一変。お母さんは日に日に弱っていき、父は仕事と家事の両立と私の学校関連の物で大忙し、学生の私に出来る事は少なかった。

 そんな日々を送っていたある日、家に帰ると父が暗い顔をして、リビングのテーブルに座っていた。そんな父に声を変えようとした時――


 「・・・・・・・すまん。」


 父はその一言しか言わなかった。


 それから二カ月後、様々な手を尽くしたが、お母さんは帰らぬ人となってしまった。

 事前にお医者さんからは説明を受けていたけれど、本当に治療成功率が50%だなんて認識が出来ていなかったから、私は泣き続けた。

 当たり前が無くなってしまった喪失感と何も出来なかった無力感、これから如何すれば良いのか分からない、何もしたくないと言う無気力状態に陥ってしまった。そんな時、寂しさがピークに達してお母さんの荷物を整理していると、複数枚の手紙を見つけた。


 手紙には、お母さんの謝罪の言葉から始まって、『もし治療が上手くいったら、家族旅行の計画を立てよう!!』とか、『また一緒に買い物に付き合ってね?』のような内容が大量に書かれていた。そして最後には、もし治療が上手くいかなかった時の為に書かれた、愛と謝罪の言葉がズラリと書かれていた。

 途中から、涙を流しながら手紙を読んでいた私は、お母さんが亡くなった後、生気が無くなったような姿だった父にも、この手紙を読ませる為に、一階のリビングへと急いで向う。


 階段を降り、リビングの扉を開けるとそこには―――――


 テーブルや床に散らばった酒瓶や弁当のプラスチック容器が散らばっていた。さらに、ソファーの上には女性用下着が脱ぎ散らかされたまま置かれていて、風呂場の方から話声が聞こえて来た。


 目の前の現状に理解が追い付かないままで居ると、風呂場の方から、女性の方に腕を組みながらリビングに向かって来る、自分の父の姿が見えた。


 「おっ!丁度良いな!この人が次の母親だから、挨拶しろ!!」


 

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