第157話 クソ親に成り下がる(緒恋視点)
父の言っている意味が分からなかった。その前に、目の前の男が、本当に自分の父親なのかさえ、疑問が沸いてしまった。
お母さんが亡くなってからは、お互いに面と向かって話す事すら減ってしまった事には気付いていたが、何時からこんな状態になってしまったのだろう。
「え?・・・え?・・何を言ってるの?それに、その人は誰なの?」
頭が真っ白になっているのが良く分かる。
さっきまでの悲しみや、手紙を読んでからの寂しさ、目の前の父だった者への怒りの感情が、私の中で渦巻きながら、目の前の惨状が間違えだと思いたいと願ってしまう。
「見たら分かるだろ?お前の母親だよ!母親!いやー、最近、近所の人達からの視線も気になって来たし、しょうがないだろ?お前だって、あいつが死んでから引きこもってばっかだったし、別に良いだろ?」
ふざけんな!!!
そう、目の前の男に怒鳴りたいのに声が出ない。
気付くと、手の爪が食い込むぐらい握り締め、自分が必死に怒りを抑えているようだ。
どうして?
怒りをぶつけることが出来ないことにも苛立ちながら、元父親の男を睨みつけるが、まったく私の視線に気付かない。それどころか―――
「そうだお前、俺はこの前仕事がクビになったから、俺の代わりに働け!それで、この家に金を入れといてくれよ?あーっと、反論はするんじゃねぇぞ?今までお前を養って来たのは、俺の方だからな!!ちなみに、学校には既に退学届を出してあるから、どうしようとも無駄だぞ?」
肩に回した腕で女性を引き寄せ、イチャイチャしている姿を見ると、この前まで見ていた自分の父親の姿とは、到底似つかない。
そんな事を考えていると、いつの間にか男の頬をビンタしていた。目からは、涙が止まらない。ついさっきも、涙を大量に流したばかりなのに。
「ッ!!なんっ!!!!んっ!!!うぅっ!!」
何か言いたいのに、涙が止まらなくて言葉が出ない。
どうして、現実から逃げてしまったのか。
どうして、私に相談をしてくれなかったのか。
どうして、お母さんが亡くなってすぐに、女性を家に連れて来るなんで行動が取れるのか。
どうして⁉あんたにとって、お母さんは大事な存在ではなかったのか!!!!
そんな思いを言い表せないでいると、次の瞬間、私のお腹に強い衝撃が走った。
後ろに吹き飛ばされ、背中から打ち付けると同時に、強い痛みが体に走る。痛みを我慢しながら顔を上げると、怒りの表情でこちらを見ている男の顔が見える。
「チッ、あんまり傷つけると面倒なんだよなぁ。今夜、買い手も来るってのに!そう言えば、あれってどうなってるって?」
何かをブツブツ言っているのは分かるが、よく聞き取れない。
どうやら、隣に居る女性にも関係があるらしく、相談しているようだ。
それを見た私は、お腹に響く強い痛みを堪えながら、必死に自分の部屋にまで戻り鍵をかけ、大きめのバッグに自分の荷物とお母さんの大事にしていた物を入れていく。
「逃げようっ!逃げないとっ!!」
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