第155話 対応
午前10時
「それで、どんな感じでしたか?」
目の前で難しい顔をしている高太郎さんからは、昨日の話し合いで良い結果を得られなかったのだろうと、容易に想像がつく。
実は昨日、俺が復帰配信をしている間に緒恋さんと高太郎さんは、今回犯行に及んだ、緒恋さんの元父親(面倒だから緒恋父と言わせて貰おう)と話し合いの場を設けていたらしく、色々と肩を付けようとしていたようだ。
「残念ながら、相手の方は聞く耳を持ってくれなくてね。『俺の子供に何しようが、お前らには関係がねぇだろ!』『部外者が家族の問題に首を突っ込んで来るんじゃねぇよ!!』って、感じでね。しかも、今居る留置所での不満が溜まりに溜まり、余程のストレスだったのか、椅子やテーブルを壊したり、『今回の事件も、未希のせいで、こうなったんだ!!!』と騒いでいたり、あまりにも話し合いが出来る状態ではなかったよ。」
溜息を吐きながら、椅子に深く座りこむ高太郎さんを見るからに、話し合いは不可能だと判断したんだろう。
それにしても、事件を起こした原因が緒恋さんにあるって言うのは、流石にふざけ過ぎだろう。今回の事件で緒恋さんは、一番の被害者だろうにな。
聞いたところによると、緒恋さんの両親が離婚する前は、ごくごく普通の仲の良い家庭だったらしく、周囲からの評価も良かったそうだ。しかし、緒恋さんが高校生になった頃、母親の方に重い病気が見つかった。すい臓がんだ。
すい臓がんは、癌の中でも発見や治療が難しく、癌が見つかった時には約2㎝もの大きさで、生存率は約50%。ここに、さらなる不幸が舞い降りる。
丁度この頃、日本には大規模な感染症ウイルスが蔓延してしまった為に、数多くの会社が倒産してしまう事態が起きてしまった。その時に、緒恋父が働いていた会社も倒産。母親の医療費等を支払いながらも、新たな就職先を探さなければいけないと言う、不幸が重なってしまった。
後の事は、俺が踏み入れて良いのか分からなかった為、詳しいことは知らないが、あの反応を見ると、本当に大変だったのだろう。
「緒恋さんは大丈夫ですかね?最近、ほとんど部屋に籠りきりみたいですし、様子を見に行った人の話では、顔色もずっと悪いらしいですけど。」
「そうだねぇ。私の方も、どう接したら良いのか測りかねているんだけどね。そろそろ、何か行動を起こした方が良いのかもしれない!」
緒恋さんの過去に何があったのかは分からないが、いつも真面目に仕事をしている緒恋さんが、一度も配信が出来ないくらい体調を崩しているのなら、何か出来れば良いのだけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます