第82話 証拠

 「個人的なことで悪いんだが、さっきの話で気になる事があったから聞いて良いか?」


 「えっ?何ですか?」


 「本当に、貯金の半分以上も使っても良いのか?『貯金』とは言っているが、財産のほとんどみたいなもんだろ?親戚の奴等を警戒しているのは何となく分かるけど、これからのやりたい事とかに使わなくても良いのか?」


 「あぁ、その事なら大丈夫ですよ。元々、俺のお金って訳でも無いし、父さんと母さんの実家を直した方が、喜んでくれるだろうし。」


 「俊隆がそれで良いならそうさせて貰うが、後で後悔するなよ?w」


 弁護士としてでは無く、一人の保護者の視点から気を使ってくれたのだろう。


 「それで、証拠品が出たってのは本当なんですか?」


 昨日、台風の影響で面談自体が取り止めになってしまったが、伸二さんとの連絡は取ることが出来た。その時に、伸二さんから『事件に関係するかもしれない証拠が発見された』と情報が入った。はっきり言うと、遺産相続の件よりもこの話の方が興味が沸いた。


 「勿論、本当だ!この前の取り調べで『証拠の隠滅に使われる道具』について話しているのを覚えているか?」


 確か、目の前で警察官が捕まった後に担当した警察官の男から、ガソリンと包丁の指紋や痕跡が消えているせいで、俺への疑いが強くなったと初めて聞かされた時だったはず。


 「まぁ、何となく覚えてます。」


 「その時に話した、ガソリンなどの液体成分を分解する薬剤。これが、空の状態で発見されたんだ!しかも、発見された場所が隆弘の勤めていた職場だったから驚いた!!」


 警察官から取り調べの内容を教えて貰った時に、圧倒的不利な立場の俺を助ける為にはこれしかないと思ったらしく、証拠隠滅に使われたと思われる薬剤を販売している場所や、使用している会社に何件も伺ったようだ。その中で、違和感を発見したのが父さんの勤めていた会社だったらしい。

 会社の従業員によると、機械の点検を行っていた所、歯車部分に油が固まってしまったらしく、不具合が生じている物があったようだ。その人は、油の除去剤を取りに倉庫へ向かい、いつも使っている薬剤を取りだそうとした時、中身が空っぽの状態だったと言う。

 その時は、『前に使った奴が空の状態で放置していたのだろう』と思い、気にせず新しい薬剤を取り出して使ったらしいのだが、改めて考えると、一度に少量の薬剤しか使わないにも関わらず、そんなに早いペースで無くなる物なのかと違和感を感じるようになったらしい。

 その時に発見された薬剤の容器は、奇跡的に処分に出される前に回収することが出来、指紋が無いか検査中のようだ。

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