第37話 嫌われ者

午後4時


 「あー、荷物重てぇ!!調子に乗って買い過ぎた!!」


 服を買い終わった後も、街中をブラブラしながら店を眺めては生活に必要そうな物や配信で使えそうな物を買っていった。特に気になったのは、ボイスチェンジャーだ。

 配信者の中にはボイスチェンジャーを活用し、面白い場面を量産している人達がいる。そのような場面を作っていくと、切り抜き動画などで大々的に取り上げられる事が多く、上手く使えばチャンネル登録者を増やすことが出来るのだ。

 今回俺は、3万ほどのボイスチェンジャーを試しに買い、視聴者と一緒に企画として試してみたいと思っている。流石に雑談だけだと、視聴者に飽きられてしまうかもしれないしな。


 アパートに向かって歩いていると、子供達の声が聞こえてくる。


 「あっ、もうそんな時間か。」


 俺が住んでいるアパート周辺には、幼稚園や保育園、小学校が多くあり、この時間帯になると帰宅する親子や学校帰りの子供が多く見られる。また、結構大きめの公演もいくつかあるので、遊んでいる子供を見ることが多い。


 「もうちょっと時間潰しとけば良かったなー。」


 タイミングの悪さに後悔していると、子供連れの人達の声が近づいてきた。その為、俺は少々下を向き顔を隠しながら歩く。


 「今日の夜ご飯何を食べよっかー!ハンバーグにする?それとっ?!っ・・・、ちょっとこっち行こっか!」


 そう言うと脇道に逸れていった。そんなに怯えなくても良いのにな。

親子が去っていった方を気にしながら歩いていると、前からママさん達がやってきた。


 「それでねぇ!うちの子も『 バスケットボール部に入りたい』って言ってるんだけど、お金どのくらいかかるのかしら?」


 「そうねぇ、大体5万円くらいじゃないかしら?確かそれぐらいの値段だった気がするわよ?」


 「良いわねぇ!うちの子も何に部活やらないのかしら?」


 と、3人で横に並び、大きな声で話しながら歩いてくる。もう少し声のボリュームを下げて欲しいな。

 先程と同じように下を向きながら、ママさん達の横を通り過ぎようとした時、真ん中のママさんに気付かれた。


 「っ?!ちょっと?!あの人、例の犯罪者じゃない?顔が髪に隠れてちゃんと見えなかったけど、この辺りにあんな風貌の人はあまり見ないから、絶対そうよ!!」


 「嘘?!なんで出歩いてるの?怖いんだけど!」


 「警察も監視くらい付ければ良いのに!これじゃあ、いつ襲われるか分かったものでは無いわよ!」


 「そうよ!そうよ!黙って刑務所に入れれば良いのに!」


 「せめて、子供達が集まりそうな場所には近付かないで欲しいわ!!心配でしょうがないじゃないの!!」


 後ろの方で好き勝手言っている。

 というか、多分自分達は声を潜めて発言していると思っているのだろうが、元々の声がデカすぎて全然抑えられていない。てか、子供達が集まる場所に近付けないなら、俺、家から出られなくね?アパートの前、登下校でめちゃくちゃ使われてるけど?朝、大家さんが子供達と挨拶を交わしている場面をよく見るんよな。


 その後もアパートに着くまで、俺の顔を見て脇道に逸れたり、通り過ぎてから陰口を言われ続けた。


 「この感じ久しぶりだな!未だに俺の顔を覚えてる人が沢山居るんだなぁら。」


 呑気なことを考えながら部屋に入った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る