5の6 お宝とウルズ、この仕事って……

 〔体は大丈夫か隊長?〕

 〔この程度なら問題ない心配しないでくれ〕

「本当にヴァルドール達を倒しやがった」

「化け物だぞあの隊長」

 (面白くない、面白くない私は運命の三女神なのに……)

 蒼空がレイマキシムの発動を止めると、戦いが終わったのを確認したドラス他ソール教団の兵士達は部屋に入って来た。その彼らは口々に蒼空を誉めたりして周囲は戦勝の雰囲気に包まれるが、ウルズだけは隊長に目を合わせずじっと前を見つめる。

 〔嫉妬はよくないぞエミリア〕 

 〔うるさいうるさいうるさい私は不愉快なんだ! ほっといてくれ〕

 ∞如きが、ルーンガードがどうしたと思うがエミリアは口に出さない、気に入らないが彼女は黙っているより他になくその回りで話は進む。

「倒したヴァルドール達は禁術兵器なので全てを統合政府で管理する。文句はないだろうなドラス? 逆らうなら無理にでも回収するぞ」

「文句はない、そうなるだろうと上から言われてるので持って行ってくれ」

「そうかなら遠慮なく持って行かせて貰う」

 ソール教団から荷車を一つ買った蒼空達は、それに倒したヴァルドールの残骸を積み上げるとダリアンに見張りを任せた。

 蒼空達が立っている部屋は第3研究所を守るための迎撃ポイントで、部屋の奥には両開きの分厚いミスリルの両扉がある。

その扉を壊してくれるように蒼空はエミリアに頼むのだが、手加減するように頼んだにも係らず八つ当たりがしたいエミリアは、ライトニングバスター2発を全力で打っ放して扉を破壊してしまう。

「加減しろって言ったろうがエミリア!」

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいーーーーーー」

「何をそんなに怒ってるんだエミリアは?」

「後だ後、触るんじゃないダリアンほっとけ」

 (どうか扉の奥が研究室でありませんように……)

 これ以上壊されては堪らないのでウルズは最後尾へ、ダリアンを一人残し鎧を着て剣を抜いた男達は祈りながら赤く溶けた両扉の奥へと入って行く。

「一応問題はなさそうなんだが」

「穴が開いてるよな……」

 扉の先はコンクリートで造られたT字路で、扉を貫通したエミリアの雷魔法は前にある壁にも大きな穴を開けている。幸いな事にその先はトイレで壊れた配管から水が溢れ出していた、エミリアの直線魔法はトイレも貫通していて不安を感じたが……

「穴の奥にベッドが見えるぞ隊長」

「誰かの部屋か休憩室なんだろうな良かったぁ」とみんな安堵する。

「私は悪くないからな」

 最後尾にいる赤髪の女性エミリアの目は三角だ、誰に向けているのか知らないがじーーーーっと男達を睨みつけていてどうにも居心地が悪い。

「誰かどうにかしてくれよあれ」

「任せたぞドラス隊長」

「俺に出来る分けないだろ! 無責任じゃないか蒼空大佐」

「出番だぞマグレー」

「キャンプファイヤーに火薬を突っ込んでもいいんだな隊長?」

「マグレー1人でエミリアの気が済むなら安いもんだ」

「酷いこと言うなぁ」

「対応に自信のある人は手を挙げてくれ酒を奢ってやるぞ」

「我慢してやるからさっさと行けお前ら!」

「はいはい」

 何故かイライラしている戦乙女を引き連れて、彼女を刺激しないように気を付けつつ男達はトイレとは反対方向の通路を進んでまた扉の前に来た。

「次は俺がやるぞ貴重な施設を壊されては堪らないからな」

「やってくれドラス隊長」

 基軸魔法の使えない蒼空はこういうのが苦手。扉の上に張られたプレートには【研究室・培養室・金庫】の3種類が記されていて、炎魔法を宿した大剣を振って扉を切り裂いた大男に続いて先に進んで行く。


「……ここで何を培養していたんだろうな」

「さぁな」

 液体を入れるらしい装置や何やらが付いた、人が入れそうな程に大きい強化ガラスの筒が部屋の右側へ3つ並んでいる。その中は空っぽで何を作っていたのかは分からず、左側の分厚いガラス窓の奥には制御室だか実験室らしい部屋があった。

「分かっていると思うが蒼空大佐」

「俺達の取り分は15%だ金庫の中から適当なのを選ばせて貰う」

「好きなのは選ばせないぞ、お前達が持って行ける物はこちらで選ぶからな」

「要相談だなそれは」

「その通りだ」

 〔状況次第だがドラスと戦闘の可能性がある、心構えだけはしておいてくれ〕

 〔了解した〕〔分かった〕

「中に何が入っているやら」

 部屋の奥まで行った蒼空達の前には、鍵とダイヤル錠が付いた黄金色に光っている円形の大扉が壁に埋め込まれている。仰々しい作りだがそれだけ重要ななにかを開発していた証拠であり、鍵がなくダイヤル錠の番号も知らない蒼空達は金庫を壊すことにするのだが……

「頼めるかエミリア?」

「金庫ごと中にある物を消せばいいんだな?」

「攻撃魔法で消し去ったら怒るからな! プラズマハイブレードを使って金庫を閉じている鍵の部分だけを焼き切るんだぞ」

「分かってる分かってるただの冗談じゃないか」

「冗談に聞こえないよな」

「何がそんなに気に入らないのやら」

「全部だ全部! 私は特察隊とソール教団の全てが気に入らない!」

「全部だってよどうする隊長?」

「後にしてくれエミリア、文句なら後で幾らでも聞いてやるから」

「約束だぞ蒼空。全くなんで私がこんな泥棒まがいの事を……」 

 頭から湯気を出しつつブツブツと文句を言い、腰の鞘から武器を抜いたヴァルキュリアは稲妻のような高出力の魔力をロングソードに宿らせた。そしてその先端を金庫の端に中ててオリハルコンを溶かしつつ、長剣を奥まで押し込んだ彼女は今度は下に動かしていく。

「鍵を斬ったぞ蒼空」

「扉を開けるんだお前達」

「了解しました」

 魔法剣を解除したウルズが下がると、ドラスに命じられた兵士達が金庫の扉を引いて開けていく。そして金庫の中を見たみんなは一様に「おーーーー此れは凄い宝の山だ」と目を開いて驚くのであった。


 〔宝には絶対に触るなよお前ら〕

 〔なぜだ?〕

 〔見え見えの罠だからだよ、こんな研究所に財宝がある訳ないだろ〕

 〔少し勿体ない気もするのだが……〕

 〔呪われてでも金貨や宝石が欲しいかエミリア?〕

 〔見掛けは立派だが殆どが盗難対策に置かれた紛い物のはずだ、仮に本物だったとしても取り分の少ない俺達には財宝を選ぶ余裕がない〕

 〔あんなに頑張ったのに面白くない話だな〕

 〔そこは大隊長か隊長様に期待しよう。な?〕

 〔程々にしてくれよ〕

「お前達の取り分は15%だからな」

「何度も言うなって」

 金庫の中は2~3人が入れるほどに広かった、床には金貨の詰まった革袋がいくつも置かれていて壁には2段の棚が付いている。その棚には宝石らしき物が付いているネックレスや指輪、金銀で派手に装飾された剣などが幾つも据え置かれていた。

 棚には他にも箱に収められた踝サイズの黒ダイヤ、高そうな絵画らしき物や魔導書らしきものが置かれている。

「何が欲しい蒼空大佐? しっかり考えて選べよ」

「そうだなぁ……」

 ドラス隊長の前に立って金庫に入った蒼空はまず財宝を無視、剣や魔導書らしき物を手に取ろうとしたがそれも止めて、やがて金庫の隅に置かれたある物に気が付くとそれに顔を向けて意識を集中させ始める。

「なんだろうなこれ」

「ただのゴミ箱じゃないのか?」

 〔金庫にゴミ箱だと?〕

 〔怪しいなぁ……〕

 足元へ置くのに丁度いいサイズの円柱型をした箱がそこにある、ゴミを入れやすい回転する上蓋が付いた少し臭う変な箱。上蓋を開けると何かの骨やら腐った肉に果物が入っていて、ゴミ箱から解放されたすえた臭いがムワッと辺りに漂いよい始める。

「開けるんじゃねぇよバカ」

 臭いが堪らないとドラス隊長は金庫の外に飛び出すが、蒼空は逆に笑った。側に居れば疑問に感じただろうがその笑顔は誰も見ておらず、他の物には目をくれない蒼空はゴミ箱だけを持って金庫の外に出てくる。

「まさかとは思うが蒼空大佐」

「俺達の取り分はこれだけでいい他は好きに持って行ってくれ」

「そんなゴミだけで本当にいいのか?」

「ヴァルドールを回収できたし俺達には此れで十分なんだ、帰るぞお前ら」

 言うが早いか蒼空隊長は踵を返して歩き出す。テレムで部下達へ冷静さを装いつつ付いてくるように指示をし、交代しながら荷車を引きつつ迷宮から抜け出したら、ブルホースに荷車を繋ぎ急いで第一特察隊は本部へ帰還した。


 ———7月25日 月曜日の朝方。

 行きは時速150㎞で空を飛べたが帰りは無理。荷車を引きながら高速移動はできないので途中にキャンプ休憩を入れたりしつつ、夜通し3倍近くもの長い時間を掛けながら第一特察隊は本部まで帰って来る。

「何をやってるんだバカ者ーーーーーと私は怒りたい所だが……」

「怒らずにそこで見ていて下さい大隊長」

 分厚い石壁に囲まれた本部の1階、生ごみを机へ広げる訳にはいかないので床に麻布を敷いた蒼空はそこへゴミ箱の中身を空けた。

「なぜ外で処理をして来なかったんだ蒼空大佐、ここまで走って来たのだろう?」

「……なんとなくです」

「掃除はお前がやるんだぞ、1階に臭いがしなくなるまでしっかりとな」

「了解しました」

 白バラのカチューシャに長袖の可愛い服を着たクロフェン大隊長、立って距離を置きつつ鼻を摘まみながら文句を言う金髪エルフの隣には、同じようにしたエミリアにマグレーとダリアンが並んでいる。

「余り言いたくはないのだが蒼空」

「俺にも言いたい事がある」

「木を隠すなら森の中、宝を隠すならゴミの中だが分からないのかお前ら?」

「使い方を間違ってるぞ隊長」

「統合政府から派遣する第3研究所の調査隊を手配しないといけないし、上やソール教団の利害関係を調整するのは大変なんだ。私に苦労を掛けつつ激しい戦闘をして得られた物がただのゴミでしたなんて事は……」

「文句を言わずに黙って見ていて下さい!」

「分かった静かに見ている」

 嫌そうな顔をする上司や部下に見守られつつ、皮手袋とマスクを付けた蒼空は生ごみに手を入れると分別を開始しやがて幾つかの物を発見した。

「若しかしてソウルコアかそれ?」

「だろうな」

 生ごみの汁やら付着物をふき取りつつ蒼空が持っているのは、中に青白い炎が灯らせた掌に収まる小さくて丸い宝石。ヴァルキュリアのエミリアとか蒼空にも同じような物があるのでこれは直ぐに分かった。

「それだけでも大収穫だ」

「これは何かな?」

 2つ目はミスリルの水筒、邪を払いのける効果のある筒の中身を皿に開けてみると弾力性のある、半透明で金色なゼリーのような液体が中から出てきた。

「動いたぞ隊長!」

「中身はスライムか……」

 這い回られると困るので皿に空けた液体を水筒に戻してしっかり蓋をし、最後は革袋に入っていた羊皮紙で作られた手帳を開いていく。

「何が書いてあるんだ?」

「大変だ完成していたとは……」

 小説サイズで50P以上、暗号になった細かな文字とか複雑な計算式に魔法陣やら書き込まれた手帳を、読み始めた蒼空は急に無口になると真剣な表情になった。

「それに何が書いてあるんだ答えろ蒼空大佐」

「これ等はHMGS、ヒューマノイドゴッドスライムの魂と体だ。つまり自我を持った超絶的に強い人型スライムの事で、ヴァルキュリアやヴァルドールに代わる全く新しいタイプの魔導兵器になる」

「なんだと」

「すげぇお宝じゃねぇか」

「私は旧型なんだな数千年も生きてるし……」

「これ専用になる装備が別の研究所で開発中と書いてあるな、ゴミ箱の内側にも何か書いてあるが奴らに渡さなくてよかった。悪いが此れらはルーンガードとして主神オーディンの神罰案件に指定し極秘扱いとさせて貰う、全て俺が管理するから統合政府に報告したり外部に話すのは禁止にするぞ」

「そんな勝手が許される訳ないだろ!」

「許されるのだウルズ! 蒼空には権限があるのだ、奴が特察隊にいて最前線に立つ理由でもある。出来るのだがタダと言う訳にはいかんな……」

「幾らならいい?」

「この場にいる全員に1人500万Rずつ、それだけ払うなら私の責任でこの話は管理する情報を外に漏らさないと約束しようじゃないか」

「いいだろう情報を漏らしたら命はないからな忘れるなよお前ら」

「臨時ボーナスだぞダリアン」

「これで母ちゃんに怒られなくて済む」

「どうかしたのかエミリア?」

「別に……」

「お前らエミリアに何かしたんじゃないだろうな?」

「何もしてないぞ」

「俺達は無実です!」

「そうだーーそうだーーーー」

 怒れるような雰囲気じゃない、気分を下げると負けた気がするし、旧型とか言われて役立たずとか(言われてない)、あんな連中にーーーーーーと運命の三女神・アース神族の最高神官はモヤモヤした気持ちを抱えている。

 なんとなく想像がつく男達と困ってしまうエルフの少女擬き、自分達に顔を合わせようとせず居辛そうな戦乙女を、皆は時間が解決するだろうと放置する事にした。そして生ごみを片付けたり消臭剤を撒いたりして掃除を終えたら例に流れになる。

「よしこれで片付いたな依頼の完遂ご苦労だった第一特察隊では……」

「喜べみんな! 次の依頼か任務が貰えるぞーーーーーー」

「やったーーーーーーーー」

「ばんざいーーーーーーーーー」

 (こいつらは……、この職場・仕事って……、フレイヤ様……)

                 了

 ———後日談ウルズのとある日の夜。

 地下都市スヴァルトの地面から数えて4階にある3LDK、入り口に警備兵がいて家具もセットと少し高めの賃貸マンション。金貨の詰まった袋があるし特察隊は給料が高いからと、欲張って借りた部屋のベッドに風呂上がりのウルズは倒れ込んだ。

 彼女は性格に似合わず淡い色とか可愛い物が好きであり、白の下着の上から桜色のネグリジェを着ているウルズはベッドに入って布団を被る。

 ……それから数十分後。

「う~~~駄目だ眠れないーーーーーー」とウルズは布団を蹴飛ばして起きた。

「何故なんだフレイヤ様! どうして私がこんな目に遭わなければならない! 色魔にワーウルフ・始末屋と一緒に戦うなんてーーーーーーーー」

 キーーーーーーーーーーーっと赤く染めさせられた長髪を、ウルズは搔きむしりながらウロウロと寝室を歩き回って行く。

「地下生活なんて嫌だ! 最高神官を一般兵と同じに扱うな! 白バラ隊の隊長如きがこの私に命令して説教までするとか! たかが人形如きがこの私に向かって旧型だ! 弱いのが当たり前だとーーーーーーーーーーーーーー」

 深夜に騒がないで欲しいが大声を出しても現実は変わらない。

「運命の三女神が天空都市国家群(アースガルド)から、地上世界(ミッドガルド)所か地下追放都市(スヴァルトヘイム)まで堕とされるなんて前代未聞の大恥じゃないか! ∞の癖に! キメラの癖に! あの男共めーーーーー」

 そしてウキャーーーーーーーーーーキレたプライドの高い戦女神は、物を投げたり剣を振り回したりとか暴れ始めて堪りかねると盛大に打っ放す。

 ドゴーーーーンと地下都市に轟音が鳴り響き、テロリストの爆破だ! と大慌てで警備兵やスヴァルトの衛兵達が飛んで来ると、ウルズは彼らと乱闘騒ぎを起こしてなぎ倒し治安組織に拘束されてしまうのである。

 (逮捕までされてしまうなんてうううう……)

 ウルズは急遽呼び出された大隊長・隊長と並んで、マンションの住人やら衛兵の皆さんに平謝り。そして目出度くマンションから追い出された戦女神は、巨額の賠償金を請求されその借金を返すために特察隊で真面目に働くことになるのだった。

 (なんて最悪な人生だ、私的にはラグナロクより最悪だぞ。フレイヤ様! 私はヴァルハラに帰りたいんです助けて下さいーーーーーーーーーーーーーーーー)

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る