5の5 ソール教団とグロナム研究所2

 ———初めこそ互角に戦えていた第一特察隊だったが、時間が経つにつれて段々と戦況が悪化し彼らは不利になってきた。

 〔自慢のスピードはどうしたダリアン! もっとこう……〕

 〔こいつらツエーーーーーーーーー〕

 〔困ったなぁ〕

「援護が薄いぞ蒼空もっと魔弾を撃つんだ!」

「どれだけ撃っても防がれるんだよ! こいつらは多分……」

「私達を作ったのはアース神族の最高研究機関です、当然ながらルーンガードの戦闘パターンは粗全てを把握して研究し尽されています」

「有名税とか面倒くさい連中だ」

 一度に3発ずつ撃っていた魔弾を5発へ(持てない分は魔力で制御して装填)、仲間と連携しつつ火炎弾や氷弾など手数で押し切れるだろうと、蒼空は踏んでいたが後方から援護射撃をする敵2体にその殆どが迎撃され続けている。

「俺の真似をしやがってーーーーーーーーー」

「失礼な、戦闘パターンを解析したと言い直して下さい」

 同じ二刀流の量産機と斬り合っているダリアンは粗互角、スピードこそダリアンが上だが人形に死角はなく、背後から切り付けても関節のない人形は無理に動かず、剣を持った腕と顔を後ろに回すだけで楽に対処。

 量産機は切り込んで来るダリアンをただ待てばよくて、土系魔法はオリハルコンの装備やや盾から発生するMシールドに簡単で防がれる。

 距離を開くと量産機はライトニングバスターを撃つので更に面倒だ。ヴァルドール達は雷系で統一されているがその威力はウルズの全力と遜色がなく、隊長が逸らしてくれるとはいえミスリル製の安物しか装備してない特察隊には脅威になる。

 〔ちゃんと援護しろよマグレー!〕

 〔くそこのっこのやろ、こんにゃろめ〕

 ソードロッドに炎の魔法剣を作って斬り合うマグレーは、量産型を相手に防戦一方ととてもじゃないが援護をする余裕などない。

 力は相手の方が上なので杖を両手持ちにして、踏ん張らないとサンダーソードに押し負けて斬られてしまうのだ。しかも量産機は片手持ちで剣を振るい、空いたもう片方の手で攻撃魔法を使ってくるという厄介さである。

 高位魔導士の彼らがこうなのだからそれ以下の、ドラス隊長や兵士達がどれほど苦戦させられたのかという話。

「この程度の実力で私達に挑むなど身の程を知るのです」

「人形の癖にーーーーーーーーー」

「ぶっ壊してやらぁ」

 〔エミリアーーーーーー〕

 〔エミリア様ーーーーーーーーー〕

 〔エミリアが頼りなんだ頑張ってくれ〕

 〔気色の悪い期待をするな役立たず共め! このーーーーーーーー〕

 マグレー、ダリアンは共に量産機を1機ずつ抑えるだけで限界だ。残り3体のうち1機はエミリアと斬り合い、2機は後ろに下がって遠距離射撃に専念する。

「このままでは死人が出ますよルーンガード様、尻尾を巻いて逃げないのですか?」

「俺達を甘く見ると後悔するぞ!」

「そうですか」

 蒼空の戦い方を知っていた女性型機の戦略勝ちなのか? 次々に飛来する魔弾をライトニングバスターから出力を落としたハイレーザーを乱射して迎撃し、女性型機達は隊長に仕事をさせずに封じ続けている。

 〘唯一、勝ち目のありそうなエミリアが目前の量産機を倒して、その次を望めば援護射撃が減るので勝機が見えてくるのだがそう簡単な話ではない〙。

 (あれは明らかな経験不足だな両手で長剣を使うのも良くない……)

「だりゃーーー」と全身鎧を着ているエミリアはロングソードを振り下ろす、ミスリル製なので不安だが攻撃には稲妻に匹敵するありったけの雷魔力を込めていた。

「力押しでは勝てませんよ諦めなさい」

「私をバカにするなぁーーーーーーー」(翼さえ、翼さえあればもっと……)

 エミリアの長剣に対して量産型の標準剣、距離を詰めて斬り合うと振り遅れるし流されたり崩されたりと、【量産機の癖してその剣筋は超一流だった】。自分の得意な中距離に下がろうとすると今度は盾を頼りに切り込んでくる。

 至近距離の相手を殴ったり投げたりしたいが、ノーボーンなので効果なし。テクニックというか牽制や罠的なのが嫌いだし、実践経験の少ないエミリアは対応力が低くて剣術は相手の方が上とではどうすれば量産機に勝てるのか?

「くそっこいつめ、これでもか……」

 (無理だろうなぁ)と蒼空はヴァルキュリアの戦いを後ろから眺めていた。

 エミリアは最強技の一つになる【プラズマハイブレード】を使用中、何のことはない恥ずかしい話だが斬り合いでは勝てそうにないので、彼女は上段から振り下ろした魔法剣で力任せに敵を叩き斬ろうとしているのだ。

「このぉーーーーーーーーー」

 盾を使ってもよかったがさすがに片手では受けられないので、量産型ヴァルドールは剣を水平にして両手持ちにすると魔力を全開にして受け止める。(ヴァルドールの剣がせめてミスリルだったらなぁ……)と蒼空は思った。

「なんだと」

 押し戻される、一度は膝を屈するまで押し込んだ量産機が、フルパワーを出した最上位のヴァルキュリアを相手に少しずつだが立ち上がろうとしている。

 〔嘘だろおい……〕

 〔負けるなエミリア!〕

 〔お前しかいないんだぞ頑張れ!〕

「人任せにすんじゃない! これならどうだーーーーーーーーーーー」

 さすがヴァルドール、さすがグロナム製、量産機でありながらエミリア以上の出力がある機体は完全に立ち上がると長剣を払い除けて、エミリアは次の攻撃へ備えるために後退せらずを余儀なくされるのだった。

「旧型のヴァルキュリアが最新鋭機に勝てる通りがありません」

「旧型だと!」

「早く諦めて撤退するのです、私達にヴァルキュリアを斬らせないで下さい」

「よくも、よくもそんな台詞を許さんぞ貴様……」(駄目だなこれは)

 旧型と呼ばれたのがよほど癪に触ったのか、肩を震わせるウルズは鎧越しでもハッキリ分かる程に猛り狂っていた。このまま放置すると戦乙女はあの女性型機に突撃してしまいそうなので、隊長は一度仕切りなおすことにする。

「タイムだタイム! 一時撤退ーーーーーーーーーー」

「逃げるのですか? 出口はあちらですよ」

「ふざけるなーーーーーーーーーーーー」

 幾ら怒ってはいてもそこは戦乙女、戦場での撤退命令は絶対だというのを彼女は理解しているので唇を噛みしめながら命令に従った。


「噂に違わない大した腕だなお前達」

「殴っていいかドラス?」

「嫌味じゃないぞ、あのヴァルドール達を相手に傷を負わず互角に戦えたんだ。それは誇ってもいいと思うんだがもう限界か?」

「限界なんかじゃない」

「限界だ、ヴァルドールがあれ程の高性能だとは思わなかった。あんな物の量産を計画していたとは恐ろしい話もあったもんだな」

「確かにな」

「せめてオリハルコンの武器があればなぁ」

「装備が色々と足りなくて金もない」

「宝剣ライディクと翼があれば私は絶対に負けないのに」

「俺達の戦力は現状で6~7割りといった所か、仕方がないな……」

「いいのか隊長?」

「しょうがないだろったく」

 マボウに構えた煙弾を四方八方へ撃ちまくり、周囲を煙塗れにしながら蒼空達は入り口から迷宮の終点まで逃げ出して行った。そこでHEPを飲んだり剣の状態を確認したりとか少し休憩を入れたりもして第一特察隊は再戦をする。


「何度やっても無駄ですよ早く諦めるのです彼方達」

 部屋の奥に並びなおしたヴァルドール達に疲労感はない、仮面から声を出している女性型の機体は冷たい氷のように淡々と指摘をしてるだけ。

 入り口から入って直ぐに蒼空達は戦闘態勢に入るが、彼らはかなり変わった隊列を取っている。

「正気ですか隊長さん?」

「正気さ俺一人でお前達を全て倒そうって言うぐらいにな」

 蒼空1人が前に出てその他の3人は後ろに並んで隊長の指示を待つ。

 〔何をするつもりなんだ蒼空は?〕

 〔見てりゃ分かるビックリするぞウルズ〕

「古の神、全能なるオーディンの名の下に解き放つ……」

 〔光極の魔導炉(レイマキシマム)を使っても大丈夫なのか隊長?〕

 〔どういう意味だ?〕

 〔大戦時に壊されてな応急処置でどうにか保たせてるんだ〕

 〔魔導炉が壊れた状態で戦ってるのかお前?〕

 〔半壊だぞ3つある動力炉のうち一つが全壊して、二つ目が半壊、普段は残りの一つだけで戦っている。戦力差を埋めるために半壊した二つ目を動かすんだ〕

 〔大丈夫なんだろうなそれ〕

 〔短時間なら問題ない〕

 《蒼空は右膝を床につけると心臓に手を当てて神に誓いを立てていく。

 普段使いの1つ目はウルズと同レベルのものだが、2つ目と3つ目の魔導炉は主神オーディンが作った特別製だ。この2つは余りにも強過ぎるので本来は【神の許可を得ないと使ってはいけない物になる】。》

「我は神の僕にしてその意志を代行する者……」

 〔オーディン様を勝手に名乗るとはな〕

 〔オーディン様は生死不明だし統合政府として動くから問題ないだろ〕

「我が力、我が命の全てをもって神に逆らう者へ裁きの鉄槌を下さん」

「私達に神の裁きとはふざけていますね」

「なんて魔法力だ……」

 膝をついた状態から立ち上がった蒼空は先程までとは別人に見えた、人がそんな簡単に変わる訳ないが少なくともウルズの瞳には違う人に見えたのだ。

 《ミスリルの軽鎧、仮面に黒のフードローブ、体格は女性にしては高いエミリアと同じぐらいと前にいる男に特別さは感じないが……(純粋な魔法力だけでも私の数倍はある、心なしか手足が太くなって筋力も増した感じだな、これで半壊以下だと言うのか蒼空 隼人お前はいったい何者なんだルーンガードって……)》

 少し混乱したエミリアだが(後でフレイヤ様に聞いてみよう)と、今は流すことにして目前の戦いへ集中することにする。

 〔俺達の隊長はすげぇだろエミリア〕

 〔そうだな〕

「思った程ではありませんがそれで全力ですか?」

「思った程ではない?」

「私のデータが正しければもっとけた違い、それこそ主神に迫れる程に強いとなっているのですが彼方は手加減をしているのですか?」

「そういう事にしておいてくれ」

「……まぁいいでしょう」

「素直に道を開けて俺達に下るなら壊されなくて済むぞ」

「舐められたものですね」

「俺と戦うなら最低でも3機は同時しないとお前は後悔する事になる」

「それはそれは……」

 蒼空の挑発に怒ったのか魔力を全開にした人形達は、さっき戦っていたよりも幾らか圧力が増したようにウルズは感じとる。

 〔俺達はどう戦えばいいんだ隊長?〕

 〔2対3にして戦え、数的に有利ならお前達でも勝てるだろ。残りは俺がやる遠距離魔法からは守れるがマボウの援護は無くなるぞ〕

 〔私達にウラノスアイの守りはしなくていいぞ蒼空〕

 〔無くても勝てるのかエミリア?〕

 〔これ以上お前の手を借りたら私のプライドが許せなくなる〕

 〔プライドなんか止めとけってエミリア〕

 〔素直に隊長の力をだな……〕

 〔私はもの凄く不愉快なんだーーーーーーーーーーーーーー〕

 〔やれやれだ〕

 〔じゃあそういう事で〕

「器用なことをしますね彼方は」

「もっと褒めてくれていいんだぞ」

 蒼空がなぜこんな事をさせるのか、エミリには今一分からなかっがここで漸くその意味が理解できた。ウルズ達3人は自らの武器を鞘に仕舞ったりして手放しつつ、他の兵士から借りたミスリルソードを左右の手にそれぞれ持たされている。

 蒼空が動き始めるのに合わせてその剣が、何かに引かれるように動こうとするので手放すと3×2、6本のミスリルソードが彼の周りへ漂い始めたのだ。

「ダンシングソードですか、両手の剣と合わせて八刀流とか無茶苦茶ですよ彼方は」

「最低でも3機は同時にしろって言ったろ俺は」

「……確かに、私達をやれるものならやってみなさい!」

 警告された通りに女性型機は他の2機を引き連れて、一直線に蒼空へと襲い掛かって行き第二回戦が開始されるのだった。


「そんな馬鹿な……」

 属性こそないものの彼が構えている8本の魔法剣にはそれぞれ、ウルズが振るうものと同レベルの魔力が込められている。女性型機に合わせて同じように走り始めた蒼空がする最初の一振りでまずヴァルドールの1機が倒された。

 〔隊長はマボウより剣の方が怖いんだぞエミリア〕

 〔卑怯なやつめーーーーーーー〕

 〔凄いだろ俺!〕

 自在に動き回る4本の剣で2機を抑えつつ、残りの4本で蒼空は左側にいる量産型へ同時に斬りつける。量産型はその内の2本を剣と盾で防ぐが、残りの2本で頭部と胴体を攻撃されると動かなくなった。

 ノーボーンの機体を斬っても意味がなく量産型機を止めるには、目がありそうな頭部と胴体中央にある魔導炉に魔法剣を突き刺して壊すのである。

「ただの魔力剣でオリハルコンの鎧を易々と、許しませんよ彼方ーーーーーー」

 (機械なのに感情があるのか欲しいなこいつ……)

 援軍を呼びたいが他の2機は3人組を相手にして苦戦中、ライトニングバスター等のいわゆる攻撃魔法は蒼空に対して全く役に立たたない。他に考えつかない女性型機は盾を捨てて二刀流すると突撃を敢行したが簡単に解体されてしまう。

 女性型機と量産機を同時にほぼ同時に撃破、両手両足が切断され胴から切り離されたヴァルドールの頭部は、転がされた床の上から隊長を恨めしそうに見上げている。

「おのれ、おのれ……」

「お前は頭だけでも動けるんだな」

「残存魔力で話しているだけですよ。次があれば必ずお前をたおし……」

 最後まで言い切れずに女性型機は魔力が尽きて停止する、こっちは片付いたので蒼空は3人組へ援護をしようかと思ったが〔手を出したら怒るからな蒼空!〕と、ウルズに言われてたので戦いが終わるのを大人しく待つ事にした。

 

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