5の4 ソール教団とグロナム研究所1

「本当にしつこい連中だったな」

「ウルズを変装させておいて正解だった。夕食会はですね大隊長……」

「……成る程、それで奴らの探索へ協力する事になった訳か。我々は特察隊だぞお友達として距離を置いた関係にするのではなかったのか?」

「そのつもりだったのですが状況が変わりました」

 翌日クロフェンが仕事を始めると同時に、大隊長室へ集まった第1特察隊は昨晩の話を報告しつつ上司に判断を仰いでいる最中だ。机の上で両手を組んだ彼女は威圧するように前の男を見上げながら真剣に聞いている。

 (普段より蒼空の語調が強いな、私が拒否しても押し通すつもりか……)

「何をやらせるつもりなのか不明なので情報が欲しいのですが、大隊長はソール教団が調査している物について何かご存じですか?」

「教団の小娘が関われる仕事など大した代物ではあるまい、と言いたい所だが情報管理局には聞いてみたのか?」

 《情報管理局には通常業務とは別に各国のスパイを纏めて管理する部署がある》

「何も知らないそうです、どこに聞いても同じだと推察されます」

「そうか、となるとなぜ我々を巻き込もうとするかだが」

「普通は隠すよなそうすれば独占できる」

 まぁそうだよな……と他の4人も思った。

「1つ可能性があります」

「なんだ?」

「ソール教団の手に負えない怪物が施設内に居るのではないでしょうか?」

「仮に怪物が居たとしてどうする? 統合政府が把握してない施設を見つけた場合は第1発見者がその管理権と財産権を主張できるのだ、怪物を倒しても奴らを助けるだけで特察隊にメリットは無いと思うぞ」

「我々はその施設がどこにありどんな物なのかを知りません。何も分からないまま密かに使われるよりは知っておいた方がいいと自分は考えますし、見返りもあります」

「ふむ……」

 (スキールニルめが一体何を考えている。狡猾な奴のすることだ用心の上にも用心を重ねて対応しなければならんな)

「問題があるならあれこれ言い訳を付けて撤退します。ソール教団へバカ正直に付き合ってやるつもりなどありません」

「統合政府に判断を仰ぎたい所だがどうしたものか」

「先ほども説明しましたが、ソール教団の主張はあくまでも慈善事業です。統合政府による干渉は一切受け付けないと教壇は明言しています」

「慈善事業とかよく言えたものだ。いいだろう蒼空大佐、好きにやってみるがいい、万一に備える手配や他部隊への連絡は私がしておく気をつけるんだぞ」

「了解しましたでは探索の準備に取りかかります、行くぞお前ら」

 背を向けた蒼空が部屋から出て行くと、クロフェン椅子から立ち上がって後にある書類棚や机の引き出しを開けたりとかあちこちを調べ始める。

 (ソール教団がしている探索に関した記録はやはりない初耳だな……)

 そして大隊長室の隅に移動したクロフェンは、そこに置いてあるマジフォンに近付いて起動すると統合政府の各所と話し始める。


「休みをくれーーーーー隊長」

「代休はあるのか? 休日出勤なんだから割り増しの給料を貰うぞ蒼空」

「家族サービスをしたいんだがいつ休みが貰えるんだ?」

「隊長でしかない俺に文句を言っても無駄だぞ、抗議する相手はクロフェン大隊長か統合政府に或いはフレイヤ様だろうが」

「そんな度胸ねぇよ」

 7月24日 日曜日の午前、第一特察隊は目的地に向けて出発した。

 しっかり準備を整えた第1特察隊は、ブルーホースに乗ってエルフガーデン支部まで行くとアディと合流し、彼女と並んで空を飛びながら次へ向かう。

 ユルボ山脈に沿って北へ北へ、途中で弁当を食べたり魔道機械馬にHEPを飲ませたりしつつはげ山を左に見ながら4時間ほど、アディの先導で北上して行くと山の谷間の前にソール教団の宿営地らしき場所が見えてきた。

「宗教団体の癖して軍隊並みの装備をもってやがるな」

「私達は世界を守るために戦わなければなりません、これは必要な事なんです」

「高度を下げつつゆっくり進むぞ」

 空から見下ろしただけだがソール教団の私設軍は、規模こそ違えど掃除屋やら各国の軍隊と遜色がいレベルの装備を持っているように見えた。前方には長期間の調査に備えた複数のテントが設営されいてブルーホースが引く大型馬車も幾つかある。

「あれは魔導砲か? モンスターも連れてるが宗教団体には過ぎた代物だが、統合政府から句が出たりしないのか蒼空?」

 《様々なタイプがあるが魔導砲は砲身に魔力を貯めて、魔宝石とか貯めた魔力を直接撃ちだす兵器で炸裂した広範囲に影響力を与えられる魔導兵器。》 

 ダミスに備える宿営地の端と中央部分、そこに銀色の大砲が幾つか並んでおり空からこれを見て疑問を感じたウルズが蒼空に聞くと彼はこう答えていく。

「ソール教団の中核はアース神族の好戦派『ヴァーリ兵団』だ、奴らは有能な錬金術師や魔導師を抱えていてかなり強い。ダミスと戦うならと統合政府は見逃している」

「ヴァーリだとまだ生きていたのか彼奴」

「ヴァーリはバルドルやヴィーザルと共に、ラグナロクを生き残った数少ない高位魔導師だが、後の2人はディグリスで〘アース神族の代表と軍の総司令〙をしている」

「兄とその上司はアース神族の代表で、弟は怪しい宗教か」

「色々あるんだよ色々とな」

「………何者だそこで止まれ」

 高度を落として機械馬に地面を歩かせて、蒼空達がソール教団の宿営地付近へ近付くと数人の兵士が前に出てきて前を塞ぐ。

「これはこれは」

「騎士並みの装備だと宗教団体の癖に……」

 白く塗られたミスリルの全身鎧を着ていて、魔宝石が嵌め込まれた立派な剣と盾を持つと兵士達の装備は、戦前でも中々見掛けられない重装備だった。

「私は第3救助隊、隊長のアディです彼らが……」

 掃除屋の時と同じくゴースト対策として、宿営地の地面にはミスリルで織られた布が敷き詰めてあるが、金属繊維は強いので馬や馬車等がその上を通っても大丈夫。ブルーホースに乗ったままアディが第1特察隊を紹介すると、兵士達に案内されながら5人は宿営地の奥へと入って行く。

「マグルート様、第1特察隊の皆様をお連れ致しました」

「やっと来たかそこへ座ってくれ」

 第1特察隊が来たのは天幕があるだけの開けた場所、その中央には長机があって椅子に座った数人の軍人がこれを囲んでいる。酒瓶やら何やらと机に色々あるのは蒼空達の到着を待っていたからで、彼らは暇潰しのポーカーをしている最中だった。

 ブルーホースから降りた蒼空達がその下に入り、敬礼しながら報告した兵士と支部へ帰るように指示されたアディは居なくなる。


 4人は仮面や冑を外してソール教団の隊長らに、自己紹介をしつつ勧められた前にある椅子に並んで座っていく。

「なにか飲むか蒼空大佐?」

「必要ない、それより仕事の話を始めてくれ」

 《こう話しながら第1特察隊へ酒を勧めようとしたのは、ソール教団で第3中隊長になるドラス=マグルート。

 第1と第2中隊はヴァーリの直轄部隊。

 他にも第3~6中隊まであるが第3中隊はソール教団内の精鋭が集められた攻撃部隊になり、此れが配置されるという事はそれだけ危険な場所だという事になる。

 ヴァーリの忠実な部下であるドラスは、白人の中年で熊のような体格をした大男。机に立て掛けた武器は魔宝石の付いた大剣で全身鎧を着ている男は、話し掛けるのを躊躇うような獰猛な顔つきだ。》

 (ヴァーリが気に入りそうなタイプだな中々強そうな男だ)

「会ってどうするんだドラス?」

「蒼空大佐はどこまで話を聞いている?」

「渓谷の途中から分かれ道を抜けた先にあるアース神族の、秘密施設の調査を手伝って欲しいという話だったな。施設にある財宝か何かの15%相当が俺達の取り分で、詳細はここで聞くように言われたがどうなってる?」

「これを見てくれ」

 第1特察隊は余り歓迎されていないらしく、彼とか他の軍人達から向けられる疑りの眼差しが少々痛い。蒼空の話を聞いてから席を立ったマグルートは、折り畳んで机の隅に置いてあった地図を広げると説明を始める。

「特察隊に探索を手伝って欲しいのはグロナムが作った研究所の1つだ」

「グロナムだと!」

「知っているのか蒼空?」

「グロナムはアース神族で特殊兵器を作っていた裏組織のことだ。敵国の諜報組織から身を隠すために秘匿されていた筈だがよく見つけられたな」

 驚いた蒼空へエミリアは聞くとスラスラ答えるので次は回りが驚愕した。

「私でさえ知らない事をよく知ってるな蒼空」

「エミリアは知らない事の方が多いと思うぞ」

「面白くない不愉快だ」

「聖職者は祭祀儀礼以外に首を突っ込むべきでは無いんだ、裏仕事やら軍隊紛いの事をすると神格が下がって民衆から崇められなくなる。そう思わないかみんな?」

「てめぇ……」

 エミリアは聖職者じゃなくなったので問題なし、ドラスが広げた地図へ顔を向けながら話した蒼空の言葉は、ソール教団に向けた牽制だが場の雰囲気は当然悪くなる。

「ははははは大した度胸じゃねぇかお前」

 殺気を露わにして蒼空を睨む者、剣に手を掛けたり何やらと喧嘩になり掛けたがドラスが体を揺すって笑うので大事にはならなかった。

「ははははヴァーリ様の話通りという訳か、ルーンガードとして働いていたそうだがお前は今までどんな仕事をして来んだ?」

「神の名の元にスパイから暗殺まで色々やってきた」

「堂々と神を語るとはな」

「ソール教団はどうやってグロナムの研究所を見つけたんだ?」

「そいつは教えられねぇな。ここからグロナムの第3研究所へ至るまでの道は、俺達がダミスを掃除して安全を確保してある。施設内にはモンスターが居たりして進むのに苦労したがどうにかここまでは進む事ができた」

 ドラスが指でなぞるのは枝分かれした迷宮地図で、その指が止まるのは終点になる研究所らしい場所の手前。

「俺達はそこで何をすればいい?」

「強力な魔道兵器がいて先に進めないのだ、それをお前達に倒して貰いたい」

「そんな所だろうと思っていた魔導砲やモンスターは使わないのか?」

「研究所内で魔導砲を使うと崩れそうで躊躇われるし、並みのモンスターでは瞬殺されて勝負にならなかった。複数の高位魔導師が欲しい所だが悩んでいた所へ……」

「俺達が来たわけだ戦う相手は?」

「魔導自動人形(オートマター)の戦乙女人形(ヴァルドール)は知っているか?」

「知っている……」

 《ヴァルドールは大戦末期に完成した戦闘兵器のこと。

 ヴァルキュリアは普通、相応の能力者か高位魔導師・主神クラスに近い人・ホムンクルス等が改造されてなる限られた者だが、此れを魔導機械・人形として複製・コピーし量産化に成功したのがヴァルドールになる。

 使われたのは短い期間だったが此れがももっと早く完成していたら、ラグナロクは起きなかったと噂される程にとても高い戦闘力を持つ》

「人形の癖に自我があるのもいたぞ」

「ヴァルドールの中でも自我を持つのは特別製だ、中でもあのグロナム製なら研究所ごと吹き飛ばす位でないと倒せないかも知れない。談ではないからな」

「怖いことを言うなよ」

 〔自我があるならこのヴァルドールは味方に出来そうだ、特察隊で保護するぞ。〕

 〔そんな事ができるのか?〕

 〔ルーンガードはヴァルキュリアやヴァルドールへの命令権を持っている。きちんと作られていればそいつは俺に逆らえない筈だ、ソール教団に邪魔させないようにしてくれ注意していてくれ〕

 〔了解した〕〔任せておけ〕〔……〕

「ヴァルドールはそんなに凄い兵器なのか?」

「兵器的に量産される高位魔導士の脅威はキメラの比ではない」

「ダミスの対抗策になりそうなんだがなぁ」

「ヴァルドールの敵がダミスである間はその通りだ、だが世界からダミスが居なくなったらどうなる? ヴァルドールは俺達へ反抗するかも知れないんだぞ、神々なら反乱を起こされても平気だろうが俺達は違う」

「ぞっとしない話だ」

「そんなのを使ってまで守るとか第3研究所は何を開発していたんだ?」

「さぁな俺達は知らないし、知っていてもお前達には教えたりしはない」

「これから一緒に戦うんだぞ俺達は」

「特察隊が統合政府から離れてソール教団に入るなら教えてやってもいい」

「きつい冗談なぁそれ」

「ははははは」


 お互いに笑い合いつつ話を終えて天幕の下から出た特察隊は、ブルーホースに載るとドラスの先導でグロナム第3研究所に向けて走り出す。廃墟になった村やソール教団の戦闘部隊を眼下に見ながら空中を進み、山の谷間にある細い道を進んで行く彼らはやがて切り立ったある崖の前で停車した。

 空中から山道に降りて下馬した5人が向き合うのは、砕けて粉々になった岩の前。大岩の後ろに入り口があって邪魔だから壊したんだとドラスは言う。場所は知っているが彼らは扉の鍵を持っておらず、大岩と同じく壊されたミスリルの扉を潜って中に入る。

「迷宮を抜けるのは変だったんだぞ犠牲者を出すぐらいにな」

 入った先は地面を掘って鋼材で補強しただけの所、ランプで明るい洞窟には7つの穴が大きく口を開けていた。

「最深部まで行くことが出来たが大変だったんだぞほんと」

 大変、大変と繰り返している言葉通りドラスは相当苦労したようで、足取りの重い大男に従って道を選びながら皆は進んで行く。

「罠だらけだな」

「分かってくれるか蒼空大佐?」

 洞窟の天井にある火炎放射器、左右にある弓の仕掛けやら、ガスの噴出口とか何かが爆発したような焦げ跡。蒼空は道の至る所にある罠をウラノスアイで把握し、敵の襲撃に備えながら先へと進んで行く。

「最初から俺を呼んでくれれば楽だったぞ」

「次はそうする」

 罠が全て潰された道を抜けると小部屋に出て、そこに設置された水晶付きの杖に魔力を送ると足下の魔術陣が反応して別の場所に転移させられる。

「最初と同じようなところへ出て来たな」

「この迷宮はオーディン様が得意にしてるセブンターンだ」

「セブンターンとはなんだ蒼空?」

「穴の上に図柄が書いてあるだろウルズ」

 蒼空に言われて視線を上げたウルズは各穴の上に設置されたプレートを見た。

「火、水、土、風、雷、太陽、星の7つの絵が描いてあるな」

「1回につき7拓、階段を下るように行ったり来たりと、こういう構造が目的地に付くまで何度も表れるんだ。さっき転移したみたいに似たような景色で転移を繰り返すと、自分の進む道が正しいのかどうか分からなくなって精神的に参ってくる」

「こう言う繰り返しの道が6回もあったんだ、それぞれの道には罠やモンスターだらけで通り抜けるのは大変だった」

 成程なぁと思いつつウルズは足元の魔術陣とか穴を見ながら考えて、(この迷宮は意外と簡単に解けるのでは?)と思いついたので聞いてみる。

「攻略する側に数が居れば簡単に解けるんじゃないかこれ?」

「まぁそうなんだが普通はここを守ってる兵士が目印を消したり、魔法陣の後ろから表れて後から襲ったりとか正解の道や転移先を変えたりする」

「兵士は来なかったがモンスターは出て来たぞ」

「ヴァルドールの指示でか?」

「そうだろうな正解の道や転移先を変えると言うのは?」

「【セブンターンは解けない迷宮】なんだ。正解の道や転移先を変えられると迷宮内で永遠に彷徨うことになるだろ、恐らくだがヴァルドールにそれらの制御は出来ないだろうな。それらは研究所を管理している魔導師がやらないと駄目だし、どこかに抜け道がある筈だが見つけたのか?」

「そういう事か、抜けて道はまだ見つけてない」


 ……話が終わるとマグルートはまた先頭に立って歩き始めた、そして何度も何度も似たような通路を抜けて進みうんざりしながら皆は終わりまでやって来る。

「扉の上にオーディン様の顔を描いたプレートがあるぞ」

「ここが正解で最後だからな」

 扉の前には中の様子を伺う兵士達がキャンプを張っている。

 そこを抜けると壊された扉がありその先に体育館程の広さがある部屋があった。前と違ってコンクリートに覆われた部屋には、マンティコアや兵士の死体とか破壊されたオートマターや転がっていて激しい戦闘が行われたことを示している。

「ここで小隊が3つも潰された」

「ドラス隊長はあれと戦ったのか?」

「俺は中隊長で……まぁそのあれだ魔導士だが中級だしな」

「つまり戦わなかったと?」

「戦ったぞ目前で部下が倒されたが……逃げ出したんだよ俺は」

 蒼空に聞かれたマグルートは巨体に似合わず、小声で言い辛そうに答えながらお前達なら勝てるのかと聞いてくる。

「部屋の奥に並んでいるのがヴァルドールだな?」

「中央にいる女性型は自我のある特注品で周りのは量産機だと思う。先へ進まないと攻撃して来ないがあれらは高位魔道士で5人分以上の戦闘力があるぞ、お前らはあれらに勝つことができるのか?」

「あのダミス軍団を蹴散らした俺達だ、人形の5体位はへーきへーき楽に勝てる相手だってそうだよな隊長?」

 蒼空の代わりにマグレーは軽い調子で答えていくのだが……

「なんだよお前ら」

「別に」

「嫌なことを思い出しただけだ」

 蒼空、ダリアン、ウルズが銀髪の男を見つめると、彼ら4人は何だかとてもやるせない気分になってくるのである。

「ヴァルドールとダミスを同列に置くのは止めた方がいいな」

「そうだなそれで勝算は? 援護は必要なのか」

「うーん……」

 ウラノスイアイに魔力を集中させた蒼空は、青黒い仮面の奥からじっとヴァルドールを見据えて結論を出す。

「取り分を20%にしてくれるなら俺達だけでやるぞドラス隊長」

「上積みは無しだ」

「まぁいいか準備しろお前ら」

 扉の先に入ると攻撃されるのでその手前で皆は戦闘準備をする。

「なぜ私が……、休日なのに……、裏仕事とか……」

 ぶつぶつと文句言いつつエミリアは準備運動をしてから剣を抜き、青空は背負ったリュックから矢筒を取り出すと体に沢山巻き付けていく。

「量産機から順番に倒していく、先頭はウルズで俺と連携しながら1機ずつ倒すからマグレーとダリアンは残りを適当に掻き回してくれ」

「俺達は参加しなくていいのか?」

「中級や一般兵なんか居ても邪魔になるだけだ、援護をせずに特察隊の強さを後ろで見てるといい」

「それは楽しみだぜひ見学させて貰おう」


「そこで止まりなさいあなた達。ここは主神オーディン及びグロナム所長の許可を得ない者の立ち入りが禁止されています即刻立ち去るのです」

 3人の先頭に立って蒼空は扉の先にある広場へ足を踏み入れた、奥には6体の人形達が並んでいて彼に話し掛けるのはその中央に立つ女性的なヴァルドール。

 《顔はつるりとした仮面でガラスの目があり、全身鎧は黄金色をしたオリハルコン製で流麗なシルエットをしている。関節部分はワイヤーとか歯車で飾り気はないものの機械的な美しさを漂わせていた》

「ルーンガードの権限が使えればいいんだが」

 難しいだろうなと思いつつグローブを外した蒼空は、右手の甲を前に並んだヴァルドール達へ向けながら魔力を込めた。そこから空中に浮かび上がるのは生と死2つのルーン文字で自分の権限がいかに強いかを表している。

「ルーンガードの権限によりこの施設を強制調査する、道を空けてその先にある魔法及び魔導兵器に関わる物を開示せよ」

「ルーンガードによる強制調査には主神オーディンの許可が必要です。あなたにそれを証明できますか?」

「主神オーディンは現在、行方不明のため連絡が取れずにいる。我々の任務を優先してこの施設を調査させて貰いたい、従えないならお前達を強制排除する事になるがそれでもいいのか?」

「主神オーディンの許可がなければお通しできません、力に訴えるのならルーンガードと言えども危険分子とみなして排除します」

「全然だめじゃないか蒼空」

「こんな筈では……」

「人形らしく頑固な女だがどうするよ隊長」

「幾らマグレーでもあれは無理だな」

「それは分からないぞダリアン、マグレーは入りさえすれば相手は何でもいい筈だ。彼女に愛を囁けば以外と素直に応じるかも知れない試してみろ」

「俺は人間専門なんだよ!」(試して見ようかな……)

「やれやれだ」

 第一特察隊が戦闘態勢に入るとヴァルドール達も警戒態勢になる。黄金に輝く5体の人形達から吹き上がる魔力の波動は、それぞれがウルズに匹敵し気圧されたマグレーやダリアンは少し気後れをした。

 その圧力はダミス軍団と戦った時かそれ以上と嫌な感じだが、

「警告しておきます彼方達では私達に勝てないですよ。後ろに控えている大男や兵士を合わせても無理なので怪我をする前に撤退する事をお勧めします」

「なんだと」

「人形の分際で!」

「その台詞を後悔させてやる!」と3人は怒り出すので気持ちだけは何とかなった。

 ヴァルドールに浄化弾は通じないないので、今回は火炎弾がメイン。魔弾3発の先端を弓に引っ掛けて後ろ半分を引き抜き、蒼空が射るのが戦闘開始の合図になった。


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