5の3 ソール教団について

「……また仕事が増えるんだが私に恨みでもあるのか蒼空大佐?」

「クロフェン大隊長はソール教団の内情を知るために、何らかの関係を持ちたいと常々口にされていた筈です。そのチャンスが来たので自分は接触を試みました」

戦いの後アールブに戻った第1特察隊は、アディとの夕食まえに大隊長の判断を仰いでおこうと本部に戻ってクロフェンに報告をしている。

「それはそうだが各国が既にソール教団へスパイを送り込んでいる。私達が無理に関係を持つ必要はないと思うんだが」

「話し相手位にはなっても損はないと自分は思うのですが、やはり無理だったとアディに断る方が宜しいでしょうか?」

「……あくまでもお友達だからな」

「今の所はという話ではありますがそのつもりです。我々にはソール教団の内部に入り込んで調べる余裕などありません、そんな事をしたら過労で倒れてしまいます」

「分かっているならいい上手くやるんだぞ」

「了解しました」

「所でエミリア……」

 クロフェンと話し合う蒼空の後に残りの3人が並ぶのだが、その内の1人赤いポニーテールをした美しいヴァルキュリアは何故だか横を向いてた。

「お前は何がそんなに不満なのだ?」

 高そうな椅子に座っている金髪の少女、クロフェン大隊長の鋭い瞳がエミリアを見据えると圧力をかけ始めていく。

「私はこういうスパイ活動が好きじゃない」

「子供だな、よくそれで今まで生きてこられたものだ。天空都市国家(アースガルド)に住んでるのは上流貴族と奴らに顎で使われる、労働者や魔獣族だけだからさぞ居心地が良かっただろうな運命の三女神様は」

「私に喧嘩を売っているのかクロフェン?」(全くこの女は……)

 エミリアがクロフェンの方へ顔を向けると、2人の女性は睨み合う事になるが大隊長は動ぜず静かに話を続けていく。

「アースガルドの下にあるミッドガルドで、アース神族を維持する為にムスッペルとどんな戦争が行われていたか貴様は知るまい。貴様は戦場に立った事があるのか?」

「私の役目はアースガルドの防衛とユグドラシルの維持管理、そして運命の三女神として祭儀一式を取り仕切る事だ。ミッドガルドに関わっている暇など無かった」

「道理でお嬢様てき思考で綺麗事ばかりを並べる訳だ。貴様が今までそうやって生きて来られたのは誰かが貴様の変わりに戦っていたからだぞ、その様子では主神オーディンが嘆いていた事も知らなさそうだな」

「なんだと」

「本当に知らないのか?」

 クロフェンの話を聞いてエミリアは深く考えた、顎に手を当てながら首を傾けて過去の記憶を辿っていくと確かにそれらしい話を思い出す。

「オーディン様が世界を放浪されたり、時々どこかに隠れられたりしたのはそういう事だったのか? 正義を信じて働ける私が羨ましいとか言われたりしたな」

「魔導師として研究熱心なお方でもあったが、過激さをます争いを前にこんな筈ではなかったとオーディン様は常に嘆いておられた。蒼空の方が詳しいはずだ」

「そうなのか蒼空? なぜだ」

「主神オーディン・スルト直轄の超法規的、諜報組織【ルーンガード】で働いていたからだ。オーディン様は人々を思いやる素晴らしい方だったが、時間が経つにつれて疑心暗鬼が強くなり味方にも辛く当たるようになられた」

「【あの始末屋】で働いていたとはな通りで戦い慣れている訳だ」

「始末屋か間違いではないが……」

 《フェンサーがそうであるように∞=ルーンガードと呼んでもいい話。長く国を維持していると危ない人が現れたり、組織に適さない人が喧嘩を始めたりするので∞に移して切り離したり始末したりするのである。》

「特察隊はその延長線上なのか? だからスヴァルトに本部があると」

「その通りだ。ムスッペルにも同じのがあって上とは逆に仲が良く一緒に遊んだりもしたんだぞ俺達は、ルーンガードは政治や戦争に関わらない中立組織だったんだ」

「ダリアンやマグレーも元ルーンガードなのか?」

「俺はただの大隊長でルーンガードとは関係ない」と答えたのはダリアン。

「当時のダリアンは私より地位が高かったのだ」

「斬り合うのが嫌で諜報組織にいた訳だが……」

「お前は話さなくていいどうせ女絡みだろ」

「ははははは……」 

「マグレーは伯爵でありながら高級娼館を経営していたんだと、大戦時は女達と一緒に地下シェルターに隠れてラグナロクをやり過ごしたんだそうだ」

「なんて汚らわしい男だ」

「ルーンガードとは付かず離れずの関係と言った所かな俺は」

 女性2人の睨み合いがが収まりかけた所で大隊長は再度質問。

「エミリアは此れでもまだ不満があるのか?」

「ある、汚い裏仕事など私は嫌だ」

「問題を起こすのは私達ではない、綺麗事に拘って問題を見逃し犠牲を出したらそれこそエミリアの正義は許さないのではないか?」

「……私はとても不愉快だ!」

 こう叫んだエミリアはまた横を向き、一応納得したらしいと理解した4人は話をここで終わらせるとアディとの夕食に備えて準備を始める。


 7月23日の土曜日、午後5時半頃。

 仏頂面のエミリアを含める4人は、ゲートーホールを通ってエルフガーデンに戻って来た。待ち合わせ場所はソール教団のエルフガーデン支部の前で、夕食前にアディに教団の案内をして貰おうという話。

 《第1特察隊が歩いているのは、ツェーダと同じく石造りの集合住宅が建ち並んだメインストリートで、リョース神殿へお祈りに行くエルフがよく使う坂道。日没に合わせるようにエルフ達は坂の上にある神殿へ集まりつつあり、ソール教団の支部は西端にある神殿から南西へ幾らか下った所に造られている。》

「ダリアンさーーんこっちですーー」

 坂道を進んで行くと前方で手を振ってきたアディは、昨日とおなじ軽装備で外したアーメットを金具で腰のベルトに吊り下げていた。結界塔に守られる神殿周辺ではダークエーテルの心配がいらないので、兜や仮面は外しても大丈夫。

 第1特察隊は呼んでくる彼女の方へと歩いて行くのだが、その内の3人は途中で足を止めると様子を見守ることにした。

 〔変態魔導師め〕

 〔成功すると思うか隊長?〕

 〔まだ無理だろうな〕

 〔これ私にですか?〕

 小隊長だがアディは〘凛々しさより愛らしさが先に立つ感じ〙。

 他は普段着の上に戦闘装備を着ていて夕食会と言うより堅い話をするような感じを漂わせているが、〘マグレーだけはタキシード姿で回りから浮いている〙。

「美しい君のために最高のバラを見繕ってきたんだ、どうか受け取って欲しい」

 アディに花束を差し出すマグレーは、女性をその気にさせる魅惑の香水を漂わせつつ化粧品で肌を整えており、跪いた体勢から銀色の瞳でエルフを見上げていく。

「奇麗なバラですねありがとう御座います」

 《今年で21歳、人間では成人だが長命のエルフ的には、女子高生のような扱いになるまだまだうら若きアディである。

 ソール教団の教えに深く感動して入団した資産家のエルフ娘、信仰心が厚く使命感に燃えている金色の髪の毛を後で軽く纏めた、愛らしい彼女はマグレーが差し出すバラの花束を受け取ると疑わず素直に礼を言う。》

 〔騙されやすそうな女性だが注意してあげるべきじゃないか?〕

 〔女は見かけじゃ分からん。あの若さで小隊長だし心配しなくても大丈夫だろ〕

 〔仕事だぞウルズ、作戦通りに彼女に疑われるような話しはするなよ〕

 〔不愉快だ!〕

戦闘中ではないが周りに聞かれたくない話をする時は、このようにテレムを使ってよく会話をする。

 (いきなり押すと警戒されるかな? 最初が肝心だぞマグレー……)

「赤いバラが君の美しさを前にして恥じているよ、羞花閉月とはアディのように世界が羨む可憐な女性にこそ相応しい言葉なんだ」

「そんなに褒められると何だか照れちゃいますね」

 ほんのり頬を赤く染めて小さく微笑む彼女を、前にするマグレーは(こんな可愛い子は中々居ないぞ絶対ものにしてホテルに連れていく)と気を引き締めた。

「俺は君のことをよく知りたいんだが、どこかで2人きりにならないかい?」

「2人きりでですか? うーん……じゃあこっちに来て下さい」

 マグレーの熱い眼差しを浴びながら考えた彼女は、男の手を取って立たせるとエルフガーデン支部を囲んでいる塀の側へと連れて行く。

「尻が軽いのかあの女?」

「違うだろ見て分からないのか」

「財布代わりだな」


 マグレーが連れて行かれる教団を囲んだ石壁には〘鉄の箱が埋め込まれていた〙。

「これお願いします」

「何かなこれは?」

「ここに書いてあるでしょう、マグレーさんはとっても優しい方ですよね?」

 アディが手で示した石壁の金属プレートには『ソール教団は親を亡くした子供達にとって最後の希望です。恵まれない子供に愛の手を、皆様の善意で託されるお金が孤児達を絶望から守って育てます』 と書いてある。

「俺はアディの事が知りたいだけなんだが……」

「募金をして下さるならお話の相手ぐらいはしますよ」

 にっこり微笑む金髪エルフからマグレーは目を離したくなった。しかしここで断ると彼女に逃げられそうなので、懐から革袋を出したマグレーは中にある硬貨を数枚取ると渋々ながらも募金箱へ入れていく。

「これでいいかなアディ」

「マグレーさんの愛ってそれだけなんですか?」

 (彼女は諦めるんだマグレー勿体なくなんか……)

「じゃあもう少しだけ」

「私悲しいです、マグレーさんとお話できないなんて」

「……じゃあこれ位で」

「マグレーさんはケチですねアディを見損なわせないで下さい」

「これでいいかな?」

 引くに引けないマグレーは、アディにねだられる度に硬貨を募金箱へ入れていく。それを遠くから眺めている3人は笑いを堪えるのに必死だった。

「男らしくありませんさぁ景気よく財布ごと……」

 〔誰か助けてくれーーーーーーー〕

 〔自業自得だな〕

 〔頑張れよマグレー〕

「アディはもっとマグレーさんと仲良くなりたいです。一杯お話ししましょうね」

 逃げさないように男の腕をしっかり掴んでくるアディに、お願いされ続けて財布の半分10万リム程を取られた所でマグレーが根を上げ始める。

「これだけ募金すれば十分じゃないかな?」

「えーーーーーもう止めちゃうんですかぁ。私、マグレーさんには期待してたのにぃもっと頑張ってくださいよう」

「これで最後だからな」

「孤児達が可哀想だとは思わないんですか? そんな冷たい人とは私お付き合いなんて出来ませんからね」

「アディちゃんが俺とデートしてくれるならもっと寄付してもいいんだが」

 媚びるように下から見上げるアディの瞳を見返しつつ、男がこう聞くと彼女は僅かに視線を逸らして悩む。そして(そろそろ潮時かな?)と思ったアディは、マグレーを掴んでいた手を離すと後ろにいる蒼空達へ微笑みかけつつこう言った。

「僅かでもいいので皆さんも募金して頂けませんか? 皆さんの愛でソール教団の孤児達を助けてあげて欲しいんです」

「あんなこと言ってるぞ蒼空」

「ダリアンは募金しろ、でないと教団に協力するという姿勢が疑われる」

「仕事なんだよな隊長?」

 ダリアンの硬い爪がある掌が蒼空の方へと伸びてくる。俺には金がない、仕事なら隊長がどうにかしてくれと彼は言っているのだ。

「ウルズも出せよ」

「嫌だ、私には関係ない、断固拒否する」

 ウルズの顔は横を向いてしまい、懐から革袋を取り出した蒼空は中から金貨3枚を取り出すとワーウルフの掌に載せていく。

「3万Rも出すのか隊長?」

「3人分だからこれでいいだろ」

「マグレーさん! 12万R近くも募金して頂いてありがとう御座いました! この優しさはきっと孤児達に伝わると思います!」

「中々のやり手だなあの女」

「あのアホーーーーー」

 ぎゅっと男の両手を握ったアディが態とらしく大声で礼を言うと、何となくやりにくくなったので隊長はダリアンに渡した金貨を5倍にした。そして隊長に指示されて歩き出したダリアンは前にいる2人の側に来ると文句を言う。

「随分と高く付いているが女の扱いは得意じゃなかったのかマグレー?」

「先行投資だ、これから取り返すから良いんだよこれで。約束だぞアディ俺と2人きりで話をさせて欲しいんだが」

「お話ですか? いいですよ。2人きりより大勢の方が楽しいですよね?」

「そうだなアディその方が楽しいよなはははは……」


 〔私が490人目だろ491、92、93、94、95……〕

 〔何を指折り数えているんだウルズ?〕

 〔マグレーがするナンパの命中率だ、身の毛のよだつ話だが後4、5人で彼奴は成功してしまう。どうにかして止めないと……〕

 〔計算が間違ってるぞウルズ。一度声を掛けた相手はキープ枠に入って確率から除外されるからアディで493回目、あと7人以上は声を掛けないと成功しない。〕

 〔ややこしい話だな、一度声を掛けただけで寝る女がいるとは世も末だ。〕

 〔一期一会、一発勝負だからナンパは面白いんじゃないか。〕

 〔それのどこが面白いんだ愛というものはだな……〕

 〔ナンパはドライで後腐れのない大人の遊びだ、難しく考えるものじゃない。〕

 〔どこまで最低な男なんだお前は〕

「教団の案内を始める前にまずお礼を言っておきますね、私が部隊を率いて大型のダミスと戦ったのは昨日が初めてだったんです。皆さんのおかげで犠牲を出さずに済みました本当にありがとうございます」

「そうかそれは良かった、仕事があるなら呼んでくれいつでも協力する」

「本当ですか? 有り難うございます」

 そう言ってアディは微笑みを浮かべたが他3人の内心は違うのである。

 〔仕事の話は癖なのか隊長?〕

 〔また大隊長に怒られそうだぞ〕

 〔余計だったかな?〕

 〔私は手伝わないからな〕

 〔彼女からの仕事は積極的に受けてくれ、そうしないと俺が困る〕

 〔彼女は諦めた方がいい〕〔脈なしだ〕〔財布男〕

 〔お前らうるせーーーーーーーー〕

「ちょっと待っていて下さいね」

 アディに連れられて警備兵が守っている門から皆で中に入ると、彼女はこう話しながら募金箱の裏側に回って中から金貨の入った革袋を取りだす。

「それどうするんだアディ?」

「これですか? 皆さんの善意がとても重たいので募金箱が壊れる前に孤児院へ届けるんです。ここの案内は孤児院から始めても良いですよね?」

「勿論だとも、俺は子供の相手をするのが大好きなんだ」

「それは良かったです。ご案内しますのでみなさん付いてきて下さい」

 5人の先頭に立って歩き出すアディはどことなく楽しそうで、その軽い足取りを後から眺めつつ4人はテレムで精神会話をする。

 〔子供好きとか嘘は良くないぞマグレー〕

 〔よく分かるなウルズ〕

 〔子供の相手なんかしてられるかお前の仕事だろって、ついこないだマグレーに押しつけられたな〕

 〔うるせぇよお前等! 12万R分を取り返すんだから余計な話しはするなよ〕

 夕日を浴びながら進んでいく彼らの両側は畑で、その前には農業用水にもなる水精霊が住み着いた噴水があった。

 〔マグレーはどうでも良いとして、孤児達を集めて育てているとかソール教団っていい所なんだな〕

 〔組織の拡大をするなら孤児が最も使いやすいんだぞ、知らないのかウルズ?〕

 〔そうなのか?〕

 〔政府や資産家から援助が貰えて、民衆からの信頼が効率的に集められるし、組織の教育を受けて育った子供は貴重な戦力になる〕

 〔子供を組織の道具として使うというのか〕

 〔綺麗事に拘って本質を見落とすな、孤児を育てられる組織力がいるがあるなら望まない手はない。ソール教団の教祖は狡猾さで知られたスキールニルだ、この点には常に最大限の警戒をしておけ〕

 〔あの詐欺師が教祖だと! 何てことだ直ぐに潰さなければ……〕

 〔運命の三女神さまは過激だなぁ〕


 噴水の脇を抜けて進むと正面に2つの建物が現れて、右側で入り口に黄金で作られた太陽の石像を建ててあるのが教団の礼拝堂。

「あそこにある像は純金なのか?」

「そうですよ盗むと呪われるので触らないで下さいね。こちらが孤児院です」

「孤児院なのに随分と大きい建物だな」

 彼女に付いて進むウルズが見上げた建物は、石と鋼材で作られた小部屋が沢山ある四角い建物で1階の壁から伸びた煙突からは煙が上がっていた。

「孤児の数は? ソール教団は毎年何人を受け入れている」

「各場所で毎年5、6人程を受け入れて、ここは4人部屋ずつに分かれた53人が住んでいます。これ以上増えるようなら増築を考えなけれなりません」

「53人も居るとか大変そうだが里親は探しているのか?」

「していません私達が責任を持って教育しています。入り口はこちらですよ」

 〔孤児院は各国の首都にそれぞれあって3カ所。全てが順調に集め続けたとして毎年15人以上ずつ、ソール教団は10年で150人増える計算だ〕

 〔その孤児達が大人になると組織の拡大が早まるんだよな〕

 〔厄介な話だ〕

 アディに続いて4人が入った鉄扉の奥は中々立派な作りだった。彼女が案内してくれた中は宗教団体らしく清潔に保たれて雰囲気はよく、大食堂とか大浴場があり孤児達の部屋は8畳一間とあまり狭くはない。

 〔ここの維持には相当の金が掛かりそうだが教団は金持ちなのか?〕

 〔さっきも説明したろウルズ。この手の商売は儲かるしソール教団はディグリスの近くの地下に本拠地を構えていて、約3万2千人の教徒を抱える一大勢力なんだぞ〕

 〔そんなに居るのか? 内乱がどうとか言う話しも眉唾では無さそうだ〕

 〔教徒は寄付とは別に毎月定額のお布施をしなきゃならん〕

 〔政府補助金+信者のお布施が数億R、毎月これが不課税で教団に入るんだ〕

 〔独立組織ではなくディグリスの法に従う宗教団体、独自勢力として動かない所がミソで教団を叩くには政府が壁になるし、政府は諸事情から強く干渉できない〕

 〔不幸な孤児達をみんなで育てましょう、皆さんの優しさと寄付が世界を暖かくして救います【私設軍を作りながらLove & Peace】だとよ〕

 〔スキールニルらしい汚いやり口だな。こんな下らない宗教よりオーディン様を崇めてアース神族の神殿を直すべきなのに面白くない、面白くない……〕

 蒼空達は孤児院を管理している事務所も見せて貰い、アディはここで孤児院の施設長である助祭に募金袋を渡してそれぞれ挨拶する。

「次はどこに行きましょうか?」

「孤児が見当たらないようだが何処にいる? 会わせて貰えないだろうか」

「この時間なら礼拝堂にいる筈ですご案内しますね」


 孤児院から出た蒼空達は来た道を通って礼拝堂前に戻って来た。

「ここが修道士から説教を聞いたり礼拝をする場所で、その横に併設されている建物がソール教団のエルフガーデン支部になります」

「外壁や柱とかが全て大理石って豪華な作りだな」

「お金の事についてよく言われますけど建築資材は全て廃材ですよ、使われなくなった神殿とか壊れた建物を解体しそこから運んで組み立てました。多くの人々を助けているのでソール教団の財政は常に苦しいんです」

 〔と表向きは宣伝されている〕

 〔純金の教像だけは絶対に違うだろ〕

 〔ダミスがうろつく世界で建物をバラして運ぶのがどれだけ大変か〕

〔私設軍を持つソール教団なら可能かも知れんが黒い噂は絶えねぇな〕

 〔信者の金やら補助金で新しく作ったと言うのが専らの噂だ〕

 〔同じような支部がまだ2つもある〕

 〔怪しい話だな〕

 〘聖地エルフガーデン内にある神殿なので、ここの信者や孤児はエルフばかり〙。

 アディに続いて第一特察隊は太陽神殿へと入って行く。

 《掃き清められた神殿の奥にあるのは〘金の台座に載せられた黄金の太陽像〙。その前には膝を折って並んだ数十人からエルフ達が居て、両手を組み合わせてながら一心に太陽像へと祈りを捧げていた。

 太陽像の両側には大理石の女神像が設置され、前後の壁に嵌め込まれたステンドグラスに朝日や夕日が差し込むと、太陽の形をした光が教徒の上へと包み込むように広がる様ななんとも凝った作りになっている。》

 〔子供騙しの仕掛けだな、実体がなく有難みなんて欠片もない神殿だ。〕

 〔オーディン様やフレイヤ様は実在してるもんな〕

 〔何故こんなフザケタ物を信じられるのか私には全く理解できないぞ〕

 〔此れは仕事だからな〘笑顔を忘れるな〙よエミリア〕

 〔面白くない、不愉快だ、こんな神殿なんか直ぐにでも……〕

 《ラグナロク前であれば【邪教扱い】になり、神の名の元にルーンガードや神罰官が派遣されるようなソール教団。アース神族の最高神官としてはソール教団など唾棄すべき存在であり、神罰を実行に移したいが我慢、我慢なのである。》

「丁度良い時間みたいですが皆さんはどうされますか? 太陽神ソールへ祈るのなら信者たち列の後ろに付いて下さい」

 〔こんなものに祈って堪るかーーーーーーーーーーーー〕

 〔分かってる、分かってるから……〕

 〔落ち着けってエミリア〕

「ソール教団の考えには賛同するし協力もするが忠誠は誓わず祈らない。特察隊はソール教団員じゃないんだ集団の左側に集まるのが孤児達だな?」

「そうですよ此れからどうされますか?」

「少し時間をくれ」

「どうするんです?」

 《私服の人もいるが孤児も含めて基本的には白い修道服、アディにこう話した蒼空はみんなを連れて壁に沿いながら孤児の顔が見える側面へと回って行った。

「何をしてるんだ蒼空?」

「みんな健康そうだが……、アディ孤児達は戦闘訓練を受けてるな?」

「見ただけでよく分かりますね」

「手に豆があるし顔付きとか擦り傷とから想像が付く。訓練はかなり厳しそうだが怪我人とかは出ていないのか?」 

 蒼空に聞かれて振り向き青黒い仮面越しにその目を見たアディは、(噂通りに恐い人だわ気を付けないと)と思った。孤児院を案内している時もそうだったが時々心の内側を見透かされるような鋭い視線を感じるのである。

「お話の通りです。こんな時代ですから孤児達には、自分1人でも生き抜けるように必要な技術と知識を学んで貰っています」

「情報通りという訳か……」

「どういう意味ですか?」

「何でもない、次の場所に連れて行ってくれないか?」

「????? 分かりました。隣にあるエルフガーデン支部には夕食前にご案内いたしますので、神殿の裏にある学校と兵舎に向かいましょう」


 神殿の裏は太陽光を遮らないような広場になっている、学校とか兵舎はその左右に並んでいてアディの案内で一通り回ってみた蒼空達は神殿前に戻って来た。

 〔さっきからずっと黙っているが何を考えているんだ蒼空?〕

 〔……〕

 〔返事をしろ隊長、アディが困ってるじゃないか〕

「悪い、なんの話だった?」

「一通りご案内しましたので支部へ行こうと思うのですが、宜しいでしょうか?」

「いま何時かな?」

「6時34分です」

 蒼空が自分を見ていたアディに返事をすると、籠手をずらして手巻き腕時計を見た彼女はこう答えて、彼が従う事にしたら皆は支部に向かって歩きだす。

 〔それで何を考えていたんだ蒼空?〕

 〔大したことじゃない、事もないか。バーサーカーについて考えてた〕

 〔ソール教団が孤児を使って開発をしてるという噂のやつだな〕

「なんだと!」

「どうかしたんですか?」

「どうもしない忘れてくれアディ」

 思わず叫んでしまったエミリアだがアディに怪しまれると、彼女は慌てて表情を緩めつつ笑顔を作り不審がれながら精神会話をする。

 〔心で思っても顔には出さないそれがプロというものだ〕

 〔プロになんてなりたくない! 私はこういう仕事が大嫌いだそれで?〕

 〔バーサーカーは普通の人間では作れないのを知っているか?〕

 〔薬とか魔法へ絶えらずに心と体が壊れるからだろ。ああだからか〕

 〔孤児達の顔付きは飢えた獣のように険しかった、英才教育をしているのかも知れないが孤児にそこまでする必要はない〕

 〔バーサーカーへ作り替えるために鍛えてるって思うよな〕

 〔そんなに構えるなよエミリア疑われるだろうが〕

「皆さん離れずに付いて来て下さいね」

「悪い悪い直ぐに行く」

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