5の2 2体目+雑魚戦+ソール教団の援護
「こうも楽に倒すとは噂通りの見事な手並みだった」
「ダミスホイホイの時より遙かに楽だ」
「たった4人で342体を倒すとか狂気の沙汰だよなぁ」
「そうか達成したのは第1特察隊だったな。どうやって倒したんだ?」
「それはだな……」
ダミスを一掃したら蒼空は闇宝石をリュックの中へ仕舞い込み、公園から出た第一特察隊はエルフガーデンの大通りを更に南へ下って行く。雑談をしながら時々来るザコを蹴散らしつつ次の目的地である、放棄された軍事基地を目指して進むと何だか空が曇ってきた。
「急に曇ってきたなひと雨来そうだぞ隊長」
「どこかで雨宿りした方がよさそうだ」
空を見上げたエミリアが聞くと蒼空は同行しているエルフの監察官に、目的まで後どれぐらい掛かるのか聞いてみる。
「戦闘がなければ後20分位で着くが雨が降ってる間は隠れた方がいい」
「雨にダークエーテルが混じっているからだな」
「それもあるがもっと恐い話がある」
《降り方にもよるがダミスは黒い雨によって魔力が無限に回復するので、雨が降っている時にこれと戦うのは自殺行為・無謀と断じていい話し。》
「黒い雨はラグナロク後から世界中で降り続いているんだろ。7年以上もこれが続いているとか凄い量になるじゃないか?」
「考えたくない話だ」
「あそこに隠れようぜ」
ダリアンが指さしたのは廃屋が沢山並んだ中の一軒家。多少壊れてはいるが壁とか屋根の部分はまだ残っていて、玄関から入った5人は階段で2階に上がるとそこで雨が上がるのを待つ事にする。
「それは何だダリアン?」
「クリアストーンだ手伝ってくれ」
《ダリアンがリュックから取り出すのは、魔宝石が付いた複数のアクセサリーをミスリル繊維の紐で1つに繋なげたのと接着剤に紙。協力し合いつつ壁に沿って囲むように紐を這わせた4人は、接着剤を塗った紙で紐を固定すると終わりに1人が先端を握って魔力を送る。
「聞きたい事があるんだが何と言えばのいいかその……」
「雨が降り出したな暇潰しに説明するからよく聞けよ……」
《ラグナロクの犠牲になった生命体から、発生したダークエーテルは粒子状の細かな魔力である。この星を覆い尽くしそうな程の量それ自体も凄まじいが、辺りに漂う粒子が自然現象で空に昇って水蒸気に混じり振ってくるが黒い雨。》
「なんで俺達が仮面を付けたり、エミリアや監察官の冑がフルフェイスと重装備なのが分かるか?」
「頭部を守るためだろ」
「半分正解だ」
「……若しかしてダークーエーテルを吸い込まないためか? 口の部分に金属の網を貼って布で覆うのはその為なんだな」
「そうだミスリルには邪を払う抗力があるし、魔力を通すと更に効果は上がる」
「仮面を付けたりフードローブを被って動くのは鬱陶しいんだよな」
「我慢するしかない」
「クリアストーンはなんの為にある?」
「雨が降ったり霧が出るとダークエーテルの濃度が上がるんだ、これに魔力を通すとそれが浄化されて呼吸が楽になる」
「そこまでやらないと駄目なのか?」
「そうだ雨水を貯めて観察すれば理由が分かるぞ」
よく分からないが言われた通りに、2階の床に転がっていた木のコップを持ったエミリアは壊れた窓に近付くと、外に手を伸ばして雨水を貯めたら観察する。
「薄暗くて見えにくいな……」
手を部屋の中に戻したエミリアはコップの中を覗き込むがよく分からない。
《昼間でも雨雲だし暗いから光源魔法【ライトボール】を発動させた彼女は、直径10㎝程になる光の玉の明るさを加減しながら顔の近くに漂わせた。》
「あーーー此れか黒い粒々が水に混ざってるな」
「それを呼吸で吸い込むとか考えたらゾッとするだろ」
「ダークエーテルを吸い込むとどうなるんだ?」
「それはだな……」
《ミスリルローブを纏うのもその理由からだが、黒い雨を浴びたり粒子を吸い込んだりすると体が段々浸食されていき、バーサーカー化したり酷いと自分がモンスターその物やゾンビになってしまったりする。》
「悍ましい話だ」
「雨は止みそうにねぇな」
小雨ほどだった雨は勢いを増して本降りになり、天井から雨漏りがして割れた窓からも雨が吹き込んでくる。壊れたベッドやタンスでその窓を塞ごうとエミリアは提案したが、外が見えないとダミスの襲撃に備えられないので否定されしまった。
戦闘装備で身を固めた5人は雨に濡れても平気だが、余り気分がいいものではなくお腹が空いたので昼ご飯にする。彼らは雨の当たりにくい部屋の隅へ集まりクリアストーンの淡い光で部屋を満たしつつ、それぞれ持ってきた弁当を食べ始めた。
「雨に打たれながら食べるとかまるで戦場にいる見たいだ」
「全くだ」
雨が上がったのは2時間の昼1時頃、家から外に出たら地面に水溜まりが幾つかあってその辺りから黒くてウネウネしてる物が這い出して来ている。
「ダミスはああやって沸くのか」
「そうだ。ダークエーテルの量が少ない時はスライムでいる事が多い」
「小動物になる時もあるぞ」
「放置すると1つに纏まって大型になるから見つけ次第退治するんだ」
そう話しながらダークスライムに近付いたエルフの監察官は、手から炎の魔法を出して近くのダミスを焼却処分する。
「向こうにもいるな」
エミリアが右手を向けて雷撃魔法を放つと別の水溜まりはダミスごと蒸発した。
「細かいのに構ってると切りがない依頼場所に連れて行ってくれ」
「こっちだ付いて来い」
監察官後に付いて歩く第1特察隊は、廃墟に囲まれる大通りを下って鉄柵に囲まれている軍事基地の前へとやって来る。
「ここはラグナロク前にエルフガーデンの防衛部隊が使っていた基地だ、ここの地下格納庫にビッグスパイダーが掬っている」
「気持ちいい位に綺麗に片付けられた所だな」
「その方が戦いやすいからな」
《この基地にあった宿舎や司令部は撤去されており、鉄柵の内側には軍の所有地である事を示す看板がポツンと立っている。この基地に残されているのはダミスが集まりやすい地上と地下の倉庫・格納庫及び中央にある監視塔だけ。
基地の端へ山積みにされた廃材はその時にでたゴミで、北側にある地下格納庫へ降りられるスロープを5人は下って行く。》
「天井の高い所だがここには何を置いてあったんだ?」
「ゴーレムの格納庫だった所だ回収した兵器は有効に使ってる」
中が暗いので第一特察隊はリュックに吊り下げてある、透明な魔宝石で作った鳥を外すと魔力を送って飛ばさせた。《近距離ならライトボールの方がいいが、遠距離・広範囲を照らすにはミラースの方が便利なのである。》
ミラースを制御するのはもちろん蒼空隊長で、此れが明るく照らし出した地下格納庫内には黒い色をした蜘蛛の巣が張り巡らされていた。左右の広さは奥行きの半分程になり巨大な蜘蛛の巣の中央部分には大蜘蛛が鎮座している。
「あれがビッグスパイダーか名前通りの大きさだな」
「ビッグスパイダーとの戦い方は知ってるんだろうな?」
「勿論だ」
「作戦を説明してくれ」
《依頼を受けた人に作戦とか特徴を説明させて、ダミスを倒せる能力があるかどうかを判断するのは監察官の大切な仕事になる。》
「説明したのを覚えているかエミリア?」
「私がやるのか? あーーーーーえっと……」
《ビッグスパイダーは地下室や洞窟に籠もって敵を待ち構える、毒蜘蛛キメラ兵器で基地に突入する兵士達に恐れられていた存在だ。何らかの理由で明かりを消されてしまうと高位魔導士でも命の危険がある高級品。》
「……攻撃手段は口から吐く火炎、8本手にある毒爪、お尻から撃ちだす糸と毒針。背に魔導砲を搭載した亜種もいて斬り込むと糸に絡め取られるから、遠距離主体で蜘蛛の巣を焼き払いながら戦うんだろ?」
「正解だ」
「親だけじゃ駄目なんだぞウルズほらあれだ」
蒼空が指さした天井に3匹、左右の壁とか親蜘蛛の周りに、中型~大型犬程もあるダークエーテルで作られた子蜘蛛達がウジャウジャと這い回っている。
「エミリアはああ言うのは平気か?」
「どういう意味だ?」
「蛇やら昆虫の群れを見るとこうキャーーーーーーーーって」
「私を少女扱いするな! 年増にみられるのも嫌なんだが……不愉快だ!」
「誰から戦いを始める?」
「今回は俺達からだな」
戦うのは蒼空とマグレーから。エミリアとダリアンを両側に配置して監察官は戦闘場所から待避し、ゆっくり前進する2人はファイヤートルネードと、炎放射弾で戦うのに邪魔な蜘蛛の巣を焼き払って行く。
「格納庫内を火の海にするとは大した魔力量じゃないか」
メイン火力はマグレーの魔法で、左右へ2発ずつ射られ続ける炎放射弾はマグレーが攻撃しにくい影とか天井に、当たって発動すると周囲を高温で燃やし尽くす。
ダミス達はミラースを壊したいようでしきりに狙うが蒼空に防がれた。
そして地下に張り巡らされた蜘蛛の巣が無くなると乱戦開始。
蒼空が数えた子蜘蛛の数は33匹、炎を避けるように壁を昇った此らは天井から粘着性のある糸とか毒針を撃ってきて、遠距離戦が苦手なダリアン以外がこれを迎撃。施設を壊さないように戦えと指示されたエミリアは、収束雷撃砲(ライトニングバスター)ではなく放射する雷撃(レディシヨンスパーク)をつかい高圧電流の箒で撫でるように子蜘蛛達を消していく。
〔楽な戦いだなこれは〕
〔敵の攻撃が当たらないのは隊長が逸らしてるからだぞ、感謝しとけよミリア〕
〔分かってる〕
ウラノスアイのおかげで遠距離戦では一方的に勝ててしまう第一特察隊。
近接攻撃を仕掛けるダミスも居るが蜘蛛型なので怖くない、近付いて来るのを待って左右にサッと躱したら横から斬りつけてドンドン倒す。素早く逃げ回ってる子蜘蛛達を4人は遠距離魔法で倒していって親蜘蛛が最後に残された。
〔あれはどうするんだ蒼空?〕
〔他にダミスは居ないから予定通りにする。俺が光槍弾の連射でビッグスパイダーの動きを拘束するから、お前達は奴を取り囲んで三方向から攻撃魔法を浴びせかけろ。窮鼠猫を噛むってやつだ油断するなよお前ら〕
〔了解した〕
親蜘蛛は逃げたいが地下格納庫の出口は、蒼空の後ろにある一つだけ。突進して彼らを突き抜けてもいいが自信がなく、ビッグスパイダーは8個の赤い目で睨みつつ、牙のある口を開いて高い声で鳴くと第一特察隊の面々を威嚇し続けている。
幅数mもあるビッグスパイダーの背後は壁、毒針を出したお尻を持ち上げて口には炎を貯め戦闘態勢を取っているも体は引き気味だ。
〔彼奴はビビッて動けないみたいだな〕
〔そうらしいな〕
〔一気に畳み掛けてもいいんじゃないか隊長?〕
〔うーんどうするかな……〕
やってもいいが何かあると嫌だし、エミリアに戦いを教える必要性から手順通りに倒そうと隊長は決めた。
そして光槍弾3発をマボウで構えた蒼空はダミスに射る、飛来する光の矢を躱そうとビッグスパイダーは横に動くが魔弾は向きを変えて命中。これで敵が動けなくなるとエミリアは攻撃する為に走り出しかけたがテレムで止められた。
〔なぜ止める蒼空?〕
〔よく見ろエミリア光の矢が消えるだろ、こうすると見えやすい〕
こう話した蒼空は制御しているミラースの光量を落として、格納庫内が薄暗くなるとビッグスパイダーに突き刺さった光槍弾が見えやすくなる。
〔3発当たったのにもう1発消えてるな〕
〔光槍弾の拘束時間はダミスが内包している、ダークエーテルの量によって変わるんだ。小型でも警戒が必要だが、大型の場合は指示を出すまで仕掛けないでくれ〕
〔了解した〕
3発だと効果が薄いのは分かってるので、蒼空は3連続の9発を撃ってから他の3人に攻撃を指示をだす。それからビッグスパイダーを囲んだ第1特察隊の面々は、光槍弾を追加しつつ浄化弾と攻撃魔法を浴びせてダミスを浄化してった。
「大した腕だな、他の連中もこれぐらい手際よく倒して欲しいものだ」
「依頼はこれで全部だな?」
「そうだ事後処理はこちらでやるから、お前達は帰還して報奨金を受け取るといい」
「今日もどこかに泊まって帰ろうぜ隊長、明日は休みでいいよな?」
「連戦しているから休日があるのは当然だ」
「明後日以降は仕事が倍になると思うがいいんじゃないかな」
「我らが愛しき大隊長様……」
依頼を達成した第1特察隊が監察官と話をしつつ、地下格納庫から外に出て大通りを西へ向かうと遠くで爆炎が上がる。
「なんの音だ?」
「建物の影で見えないが何か知ってるか?」
「あれは北西にある軍の訓練施設を兼ねた闘技場の辺りだな。第1特察隊とは別チームが昼過ぎからダミス討伐をすると聞いている」
「あの家の屋根まで運んでくれダリアン」
「分かった、掴まれ」
空を飛べる人がいないので蒼空がダリアンの背中に捕まると、ワーウルフは数mの高いジャンプで塀の上とかベランダを飛んで、この辺りで1番高い建物になる穴の空いた4階建てアパートの屋根へと登った。
〔大型が2体見えるな〕
〔白いローブに太陽のペンダント戦ってるのはソール教団の兵士達だ。その数は10人で指揮官は1人だが……対複数戦の構成じゃないぞ、監察官に依頼内容を聞いてみてくれマグレー〕
〔分かった……討伐対象はニーズホック1体だそうだ〕
〔援軍を呼ばれたか間抜けな奴らだ〕
〔援軍に来てるのはオーガキングだ。彼奴らを助けるぞ、俺はマボウでここから攻撃するから他の3人は援護に行ってくれ〕
〔ソール教団は特察隊の敵じゃないのか?〕
〔だったら尚更助けるべきだ、仲良くしておくと色々都合がいいんだよ〕
〔敵意を前に出すのは素人だぞウルズ、玄人は味方の振りをして内側から崩していくもんなんだ笑顔で安全をアピールしよう〕
〔特察隊はスパイもやるのか? それはヒーローじゃなくて悪党の仕事だろ〕
〔プロと言ってくれ皆やってる事じゃないか。あと隊長は美人だぞ〕
〔マジか隊長! 誘導してくれ〕
言うが早いかマグレーは駆けだし、呆れる残りの2人とエルフの監察官は仕方なく彼を追いかけて行く。
〔確かに美人だって、顔は見えてないだろ隊長!〕
4人が飛び込んだ石造りの円形闘技場にある観客席の高さは3階分ほど。その舞台中央辺りでオーガキングと対峙する、隊長らしいエルフの女性はエミリアと同じようにアーメットを被って全身鎧を着ている。
彼女が構えている武器は、槍の中央にMシールドの付いているたシールドハルバード(シルバード)。鎧越しでは分かり難いが体はよく鍛えられていて腕の立ちそうな一流の戦士だった。
〔胸が大きそうで体型は悪くない。アーメットの隙間から見えている瞳は綺麗で若そうだし、エルフだから恐らく美人で間違いないだろう〕
〔美人でなかったらどうしてくれる?〕
〔賭けるか? 俺は外した事がないんだが……〕
「あなた達は誰です?」
彼女に率いられる兵士10人の内、ニーズホックと戦うのは8人。その内の2人は黒いドラゴンをマボウの光槍弾で抑えて、残りが浄化弾で攻撃をし続けている。オーガキングと戦っているのは隊長を含めた3人だ。
「第1特察隊だ。遠くから爆炎を見て様子を確認しに来たんだが助けは必要か?」
「特察隊の助けなどいりません黙って見ていて下さい」
「所属と名前を教えてくれないか?」
「ソール教団の聖騎士、第3救助隊の隊長リーナ=アディです」
「救助隊ってなんだ?」
「信者を増やすためにソール教団が各地へ派遣する奉仕部隊の事で、6つある中隊の中から引き抜かれた人で構成される小隊が4つある」
「よくご存じですね繰り返しますが……」
戦いを邪魔しないように注意しつつ近付いたダリアンが、彼女らに尋ねるとアディはこのように返事をしてから戦闘に戻っていく。
〔……だそうだがどうする隊長?〕
〔言われた通りに離れた所で見ていろダリアン、そのうち助けを求めて来るだろ〕
それならばと距離をとり観客席の辺りまで下がった3人は、蒼空隊長と合流して静かにソール教団の戦いが終わるのを待つ事にした。
《ニーズホック首を含める体長は牛2頭分、体重は2t近くで長い尾が付くという各地で多用されてきた飛行魔獣の一種になる。ダークエーテルで形作った鎧と胸に付いている魔宝石は対空砲火に備えるための物、竜騎兵を背に乗せつつ空を飛んでこその飛行魔獣なので地上に固定されてしまうと弱い。》
正面の胸辺りにはMシールドがあるので攻撃する時は左右から。地面で横になっているドラゴンには頭から尻尾にまで光槍弾が複数突き刺さっており、これが消える度に兵士2人が新しく撃ち込んでいく。
動けないニーズホックを明るく光る浄化弾で攻撃する兵士は6人。ダミス戦とは魔力の削り合いであり、(あれでは時間が掛かるだろなぁ)と蒼空は思いつつ斬り合いをしている隊長に注目する。
援護があるとは言え腕4本に対して槍1本、エルフの隊長はニーズホックが倒されるまで1人でオーガキングを抑えるつもりらしいが、無理だなと蒼空は判断した。
焦ってはいけない。
オーガキングの左右にいる兵士は重火炎弾を撃たせない為に、光槍弾を顔に撃って封じ魔宝石で炎を宿した槍を構えるアディは、敵の間合いギリギリへ足を進ませる。角の生えた巨体の鬼は回りを見て誰を狙うか考え、目標を決めると黒くて厳つい顔で前にいるアディを睨んでいった。
(お手並み拝見といきたい所だが、相手が悪いよな……)
助けはいらないと彼女は言うが蒼空は念のために光槍弾3発を構えて待機し、オーガキングがアディへ斬り込む。まずオーガキングは上段にある2本のファイヤークラブを振り下ろして攻撃し、これを右に避けた隊長はジルバードで突きに行った。
(攻撃せずに避け続けるべきなんだがあの女は経験が浅いのか?)
2本を避けてもまだ2本が残っている。
オーガキングが下段の左手に持っているファイヤーソードは、アディが構える槍より長くなっていてそれが横に振られると、彼女は慌て気味にジルバードを引き横にしマジックシールドそれを防ごうとする。
ミスリル製の槍のついた魔宝石が光ると、アディの前に現れてオーガキングの一撃を受け止めた。なぎ倒されそうなのをどうにか耐えた彼女だったが、直ぐに向きを変えたオーガキングは3本の腕を振って攻撃してくる。
足を止めてしまったアディを援護するために、兵士2人は光槍弾を腕に撃って止めるが代わりに頭が手薄になり、オーガキングは邪魔な彼らに火炎弾を発射。腕に意識を集中していた兵士は対応が遅れて、当たりそうになると籠手にある魔宝石でMシールドを作って防ごうとする。
〘オーガキングの重火炎弾は並みの兵士に耐えられるほど軽くはない〙。
兵士は歯を食いしばり重傷を負うと覚悟したが、命中前に向きを変えたそれは人の居ない場所で地面に当たると爆発して穴を作るのだった。
〔素人かよ誰か基本を教えてやってくれ……〕
驚くのは分かるが戦場で止まる兵士、アディの攻撃も狙ってる場所がおかしくて蒼空に言われたマグレーは遠くから叫んでいく。
「オーガキングの接近を許したら死ぬぞ! 動き回って攪乱するんだ。ダミスはどこを攻撃してもダメージは同じだから胴体ではなく腕を狙え!」
どこかから飛んできた閃光弾でオーガキングの目が眩み、その隙に後退できたアディだったが特察隊に指摘されると癪に障る。しかし彼女は部下を守らねばならず死にたくもないので小声で礼を言うと戦い方を変更した。
〔どうする隊長、無理にでも彼奴らを助けるか?〕
〔どうするかな……〕
別の場所にいる兵士達は頑張っているが、ニーズホックの体は漸く半分以下にまで縮んだ所。この後オーガキング戦を考えるなら、彼らが腰に吊っている矢箱とそこに収められた魔弾の数は明らかに足りてない。
蒼空は闘技場の3階から広範囲を見ているが、アディ部隊には予備弾を積んでそうなブルーホースがおらず、変わりに自分達のとは別になる監察官を見つけた。
〔ニーズホックは倒せるだろうがオーガキングは無理そうだ。アディに説明しながらもう一度聞いてみてくれダリアン〕
〔やれやれだ〕
蒼空とテレムで話をしながらダリアンは素早くアディへ近付いて説得開始。
「特察隊の助けなんかいりません! 来ないで下さい」
「そう構えずに話を聞けって……」
リディの横に付いたダリアンはオーガキングが振るう武器を一緒に躱しつつ、隙を見つけては巨人の腕を掠めるように剣でヒット&アウェイを繰り返す。
「……と言う事なんだ」
「残弾ですか? どうなのです貴方たち」
ダリアンからテレムで話を聞いた蒼空は閃光弾を撃ち、敵に隙が出来ると距離を取ったアディが回りに聞いて行き、数え終えた兵士達は素直に足りないと言う。
「ニーズホックだけを倒して逃げるか隊長? それでも依頼を達成した事になるから問題ないと思うんだが」
「民衆に尽くして正しき道を示すのがソール教団です。そこに所属する聖騎士がダミスに背を向けて逃げるなど出来ません、何が望みですか第1特察隊?」
「そう来なくっちゃな」
〔……判断をくれ隊長どうすればいい?〕
〔まず金はいらない〕
〔いらないのか?〕〔欲しいぞ〕〔何でだよ〕
〔総ツッコミするな! 貸しを作ってソール教団に近付くんだ戦いながら俺の話をそのままアディに伝えてくれ〕
ダリアンは隊長の指示通りにアディと話すが心は少し痛くなる。
「……夕食とソール教団の案内ですか? 私達の慈善活動に興味があると」
〔スパイの鏡だな汚らわしい〕
〔エミリアはこういのが嫌いか?〕
〔私は運命の三女神、アース神族の最高神官、正義と誇りに満ち溢れて民衆から崇められているヴァルキュリアだ。このようなスパイ活動など……〕
〔全て元だろうが、特察隊として働くなら慣れて貰わないと困る〕
〔不愉快だ!〕
「信用できません。特察隊は私達ソール教団といがみ合っている筈です」
〔即答されたな貴様ら〕
〔煩いぞエミリア。ダリアンなら説得できる……〕
「家族愛ですか?」
勢いよく突撃してきたオーガキングキングを、ダリアンとアディは揃って前転で回避しながらあれこれ話していく。
「俺には8人の子供がいるんだ。ソール教団の慈善活動には興味があるし困ってる人のために役立ちたいと常に考えている」
〔家族まで使うとか……子供が8人もいるなんて大変そうだな〕
〔家族を養うのは大変だがそれが生き甲斐になるんだ〕
《ワーウルフは1度に3人~5人も産めて、食料問題とかから出産制限が掛かる位にハイペースで数が増える多産な種族である。ゴブリン、ウンディーネ、卵で増えるドラゴニアンなど魔獣族は総じて多産だが何故こうなのかは語るまでもない。》
〔慈善活動なんて本気でやるつもりなのか隊長?〕
〔やる、俺達はヒーロー&ヒロインなんだ。特察隊の名声を上げるのに利用するがのめり込みには注意してくれ、あくまでも奴らを利用するだけなんだからな〕
〔邪な考えでする慈善活動に私は荷担させられる訳か〕
〔人助けには違いないし、邪な考えではなく世界を守るために俺達は戦うんだぞ〕
「本当にそんな事を考えているんですか? 特察隊と言うのは統合政府の命令を受けて暗躍する怪しい組織だと聞いていますけど、私を騙すつもりじゃないんですか?」
敵から距離が離れると左右の兵士に向かいそうなので、オーガキングが下がったら2人は少し前に出ながら武器を振っていく。
〔彼女はよく分かっているようだな〕
〔全然わかってないぞ俺達はだな……〕
「特察隊は胡散臭くなんかない、統合政府の命令で悪をたおす正義の味方だ。俺達は誰に対しても常に中立だ現にソール教団だって助けているじゃないか」
〔……とダリアンは言ってる。私は捨てられて特察隊に売られた哀れなヴァルキュリアなんだがお前達は助けてくれないのか?〕
〔文句はフレイヤ様に言ってくれ。幾ら俺達でも神の意向には逆らえないんだよ〕
「分かりましたダリアンさん、今日からソール教団の一員としてこの世界をよくするため共に戦っていきましょう」
「……」
「どうかしたんですかダリアンさん?」
ワーウルフが急に口籠もるのでおかしいなと思いつつ、アディは横に振られた黒い剣を斜め後ろに飛んで躱すと攻撃魔法を使う。
「アイスニードル!」
槍を左手だけで持ち右掌を翳して放つのは氷魔術、撃つのは野球ボール程で8発と中々の威力でオーガキングの右腕に命中すると凍り付くが即元に戻った。
〔……な事を言われたんだが俺はどうすればいい?〕
〔寝返ることを前提にしつつ、適当に話を合わせて彼女と仲良くするんだ〕
〔さすが元ルーンガード〕
〔良心が痛むな〕
〔なんて酷い隊長だ〕
〔最初からスパイをするって言ってるだろうが〕
〔約束して良いんだよな隊長?〕
〔勿論だ、彼女には笑顔で紳士的に接するんだぞダリアン〕
〔どう彼女に言えばいい?〕
〔そうだなぁ……〕
「特察隊は立場があるから表だっては無理だが、俺個人としては最大限の協力をさせて貰おうと思う。困った事があるなら何でも相談してくれ」
ニーズホックと戦っていた他の兵士はそれを倒し終えたが、魔力と装備を使い切り息も上がっていて次の戦いには参加できそうにない。
〔なんて怪しい奴らなんだ〕
〔一々煩いぞエミリア〕
「そうですか此れから宜しくお願いしますねダリアンさん」
〔私は無関係を決め込むからな、こん汚いやり方はプライドが許さない〕
〔話が纏まったぞ隊長もう戦っていいよな?〕
〔総員アディ部隊を援護してダミスを倒せ〕
【エミリアはそっぽを向いて命令拒否】。
それに対して他の2人は文句を言うが、今はエミリアを放っておくように隊長が指示を出して、仕方なく3人はアディ部隊と一緒にオーガキングを倒していく。
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