4の2 戦いを終えて宴会とウルズの依頼

 掃除屋と一緒に仕事をした時の後処理は、彼らに任せればいいので監察官とかの確認を待たずに、蒼空達はブルーホースを走らせてツェーダへ戻って来た。

 外と内を隔てている結界塔の門を抜けた彼らは、そのまま特察隊の本部に帰ってもいいのだが面倒だし、クロフェン大隊長に命じられた任務についてエミリアから話を聞く必要があるので宿を探してそこに向かう。

 蒼空達が探して入るのは鋼材とコンクリートの4階建て、大浴場や酒場があり兵舎のような無骨さが安心感を与えてくれる〘一応ホテルと呼ばれている所〙。

「ここは私には相応しくない低レベルの宿なんだが、他にいい所はないのか?」

「昔なら安宿でも今だと最高級のホテルになる」

「世界は生きられるだけで御の字なんだ贅沢を言うんじゃない」

「生活は苦しいがヴァルハラのホテルは綺麗だぞ。気が滅入ってくるな……」

「辛気くさい話は止めろお前ら」

 今の時世で観光をしようと思う人はおらず、宿の利用者は多くが掃除屋とかの軍関係者なので見掛けはどうでもいい。ホテルに入ると左側に受付カウンターがありそこで人数分の部屋を借りた蒼空達は、タオルや石鹸・下着も買って大浴場へ向かう。

「分かってると思うが私を覗いたら命はないからな、特にマグレー」

「そんな事は分かってるさ信じてくれよエミリア。

 所でさここには混浴もあるんだが俺と一緒に行かないか?」

「……」

「女神様は本気だぞ謝った方がいいんじゃないかマグレー?」

「冗談だよ冗談、怒ることないだろうが」(と油断させておいて……)


 …… 体を洗って浴場から出た4人は食堂へむかい、鉄で作られたテーブルセットを囲んで座るとウエイトレスが側へやって来た。

「こんな場所で女神に出会えるとは思わなかったよ。今夜は暇かい? もし良かったら俺と一晩の思い出作りをしてくれないかな」

「女が欲しいならフラワー通りへ行って下さい。ご注文は何になさいますか?」

 ミントの爽やかな香りを漂わせ女性を包み込むように、目に痣を作っているキザな男は話しかけるもあっさりと断られてしまう。

「これで4人目だな」

「連続11人目なんだぞウルズ、成功率から考えて命中にはまだ遠そうだな」

「こんな男でも成功するとは悍ましい話だ」

「そうやって俺を貶してると後悔するぞエミリア。独りぼっちの夜に寂しくなっても暖めてやらないからな」

「私の腕力はオーガキング以上だが全力で殴っていいかマグレー?」

「あの〜〜〜〜」

 4人が会話をしてエミリアが拳を握るとウエイトレスが催促し、そして彼らはメニュー表を見るのだが1人が文句を言い始めるのだった。

「安物ワイン1本[750mL]が最低5000R・銀貨5枚! 水30%で割ったワイン1杯[150mL]が800R、ディナーもだが高過ぎるんじゃないかこれ?」

〘ウルズは何千年も生きていて昔の記憶と比較しながら考えている。〙

 《生きるのに必要とされる基本食材は、政府が補助金を付けたり厳しい管理で値段は抑えられるが、それ以外の嗜好品等は量産が難しい時代なので高くなるのだ。》

「軍事品が優先されるしこんな時代だから仕方がない」

「これでも良心的な方なんだぞ」

「懐具合が心配なら庶民の味方〘フレイの恵み〙がお勧めだ」

 ダリアンが指さしたメニュー表の端に書かれているそれは、【錬金術で量産される純粋エタノール】の事で美味しくないお酒。

「これでも300mL[度数30%]で500R・青銅貨5枚、こんな不味い物が飲めるか高過ぎるだろ!」

「金がない時は政府の補助金が付く〘ゴブリン酒[10% 100R]〙がいいぞ、砂糖とレモンも買って混ぜながら飲むんだ」

 エミリアがどれだけ憤っても現実は変わらず、ワイン2本を3人で分ける事にした彼らはつまみも注文する事にした。

「ダリアンは酒を飲まないのか?」

「俺は水だけでいいんだよ」

 じーーーーと赤髪をした女性の肩越しに、金色をしたオオカミ男の瞳が見つめるのはまだ無いけど背中にあるべき物の姿。

「おごってやるよダリアン。ワインは3本だつまみも倍にしてくれ」

「すまないな隊長」

「家族持ちって大変だよなぁ」

 注文を聞いたらウエイトレスは厨房へ向かい、ワインと干し肉やチーズのつまみセットが運ばれて来たら4人は乾杯して飲み始める。

「こんなに酷い世界でお前達はよく生きていられるな」

「ラグナロク直後なんか凄かったぞ。スヴァルトは無傷だったが地上には水も食料もなくてだな、∞や生き残りのギルドが総掛かりで炊き出しをやったりしたもんだ。ダミスと戦いながら生き残りを探すのがまた大変で、集めたら集めたで此れが……」

「蒼空のほんとうの年齢は何歳なんだ? 38歳は若すぎると思うんだが」

「自称38歳、詳しく教えないがアース神族の暗殺部隊で働いていた」

「……まぁいい。ダリアンは何歳になるんだ」

「俺達3人の中ではダリアンが一番若いんだぞ」

「そうなのか?」

 狼男は咀嚼していた干し肉をワインで胃に流し込んでから答えていく。

「俺は今年で174歳になる」

「ワーウルフの平均寿命は人と同程度だがLDT薬を使っているのか? ダリアンは魔獣族なのによく許可が下りたな」

 《LDT薬:ライフダウンストップ薬、種族によって配合が変わるが定期的に飲むことで老化を魔法的に止めてしまえる薬の事》

「俺が仕えていたのは雷神トール様だ、実力があれば誰にでも平等に接して昇給させて下さる立派なお方だった」

「トール様の下にいたのか惜しい方を亡くしたものだ」

 話をしながらエミリアはワインを飲んだりチーズを食べたりし、残りの1人が話したそうにチラチラ彼女を伺うので蒼空は促してみる。

「マグレーには聞いてやらないのかエミリア?」

「知りたくないし、聞くつもりもない。話したいなら勝手に喋っていいぞマグレー」

「教えてやらん。後で後悔しても知らないからな」

「マグレーはムスッペルの元伯爵様なんだぞ。400歳を超える善行と女遊びで知られたお方でな、多い時には10人を超える愛人を侍らせていたそうだ」

「ナンパの成功回数491敗20勝てのはな、九千回を超えてややこしくなったから最近新しく数え直し始めたという神様もビックリになる数字なんだと」

「マグレーは変態独身貴族だったのか。オーディン様とかも有名だがも男って奴はどうしてこう……、私も警戒しないといつ襲われるか分からないな」

「凄い嫌われようだな」

「エミリアは諦めた方が良いぞマグレー」

「お前らなぁ……難しい女ほど落としがいがある。時間はあるんだ、ゆっくり攻略し俺なしでは生きられない体にしてやるよ」

「貴様はこの場で始末した方が良さそうだ、切り落としてやるから首を出せ」

 腰から外して床で椅子に立て掛けた長剣へ、エミリアの手が伸び掛けると話題を変えるために蒼空は、彼女がフレイヤから与えられた任務について聞いてみる。

「私はもうアース神族ではないのだが……面白くない!」

 ワイングラスに残っていたのを飲んだエミリアは、ワインボトルを掴むとそこへなみなみと注いで一気飲みし2回続けてボトルを空にすると、別のボトルへ手を伸ばして注ぐのが面倒だと注ぎ口を咥えてグビグビ飲む。

「新しいワインボトルを2本くれ」


自分達の分が無くなったので蒼空は隊長として店に追加注文し、エミリアが落ち着くのを待って蒼空はもう一度尋ねてみた。

「ゲップ、任務というのはだな……」

 顔をほんのり赤くしたエミリアが語りだす任務とは、ヴァルハラを支えて空に浮かべている枯れそうなユグドラシルを治すのに必要な【虹の精霊石】を集めること。

「ユグドラシルを活性化する為に【精霊祭】をやるんだな?」

「その通りだ」

「何百億Rを積まれても無理な相談だな」

「虹の精霊石は対ダミス兵器を作るために全勢力が奪い合っている物だ、命が掛かってるから統合政府には譲って貰えない筈だぞ」

「統合政府は【ミーミルの泉】でさえ貸してくれないと言っていた、このまま何もせずにいるとヴァルハラは地上へ落ちる事になる」

 《ミーミルの泉とは大地から魔力を引き出して使うために、巨人族のミーミルがオーディンへ教えた技術の事で、神が各地へ作ったのを各勢力が厳重に管理する。》

「だから俺達に任務が来るのか」

「その通りだ。特に蒼空、お前には期待していいという話を聞いているぞ」

「フレイヤ様は虹の精霊石や泉を持っていないのか?」

「フレイヤ様が持っておられた虹の精霊石は大戦争で使い切ったそうだ。ミーミルの泉についてはだな、私が管理してたのを勝手に使うなんて酷いじゃない直ぐに返しなさいよ! と統合政府に怒っておられる」

「城に引き籠もって出てこない方が悪い」

「今更返せと言われても困るよな」

「ミーミルの泉を作れるのはオーディン様だけだし、秘密主義者だから身内でも泉のありかを全て知る人はいない。となるとフレイヤ様や統合政府の知らない場所が、どこかに隠されているかも知れないと言う話になっている」

「隠された場所か……」

 ウエイトレスが運んできたワインの栓を抜き、空になった自分のと他のグラスにワインを注いで蒼空は飲みながら幾つか質問する。

「ヴァルハラなんか落としてしまえと統合政府に言われただろ」

「言われた、何でお前達を統合政府が助けなければならないんだと。だがヴァルハラは対ダミスの切り札に使えると、フレイヤ様が主張したらみんな難しい顔になった」

「ヴァルハラが飛んでる高度は雲より上だよな?」

「その通りだ、お前達の言うダークエーテルが降らない所にあるからヴァルハラはダミスの影響を受けてない。地上がこんな風になっているとは思わなかったぞ」

 (羨ましい話だこっちは年中戦い続けているというのに……)

「虹の精霊石は幾つあればいい?」

「大精霊サイズで3ついる」

「3つもいるのか。1つはあるが残りはどうするか……」

「なんだと」

「あるのか?」

「詳しくは聞かないでくれただではやらんぞ」

「勿論だ、相応の礼はするとフレイヤ様はおっしゃられていた」

「恐らくだが∞連合に黙って隠し持つデーモンズが居るはずだ。そこはこれから順番に交渉していくとして……」

「すげーーー話が出てくるな」

「さすが俺達の隊長だ」

「隠された遺跡や秘密施設とかは統合政府と話をしてからだ。煩いのが多いから俺の分はフレイヤ様との直接取引で渡すこの事は誰にも話すなよ」

「分かった口外しないと約束する」

 エミリアに約束させたら蒼空は残りの2人にも固く誓わせた。

「この話は大隊長にしてもいいよな?」

「そうだな彼女には知っておいて貰う方がいいが他はダメだぞ」

「もう話は終わりか?」

「終わりでいいのか?」

「だな」

「それじゃあ俺は飲むぞ、飲まなきゃやってられないからな!」

 不満タラタラのウルズと、振られ続け戦い続けて機嫌の悪いマグレーは暴飲暴食を開始する。2人に続けと隊長やダリアンもそれを始めて、第一特察隊は夜遅くまで騒ぎ続けるのであった。

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