2の3 戦闘準備と嫌な予感
《∞第3地下基地は大陸の南端にある東西4号線の西側で、パルマー城塞の近くに造られている。この城塞は更に南西の【聖地エルフガーデン】へアース神族が対抗して造った拠点になり、何度か戦争をした事がある曰くつきの場所だ。
彼らが目指すDK18Pはこの道を更に西へ進んだユルボ山脈の麓にある。》
第1特察隊はまず∞第3地下基地にゲートミラーで移動し、そこでキャンプ用品とか装備を整えてからダミス討伐へ出発する。
「この依頼は嫌だなぁ」と部隊の最後尾にいる男は呟いた。
《蒼空達は3頭のブルーホースにそれぞれ騎乗して道路を中速で進んでいた。道幅は馬車がすれ違えて歩道もある位に広いが、地面はガタガタし〘整備されないのに雑草が殆ど生えない異様な状態〙なのが今になる。》
「ほんとだよなマグレー、なんで俺達が埋め合わせをさせられるんだよ隊長」
「自分のケツは自分で拭けと大隊長なら言うだろう」
「俺達は悪くないーーーーーーーーーーー」
「ミラス伯爵がアホなだけなんだーーーーーーーーーーー」
「戦争するよりましだろーーーーーーーー」
「「「特察隊は素晴らしいーーーーーーーーーーーー」」」
聞こえる訳が無いが聞こえてくれないかなぁと、〘フードローブを被って銀色に光る仮面付けた姿〙をしている男達は揃って大声で叫んでみる。
心なしかブルーホースの足取りも重くなり速度の落ちる感じがしてきた。嫌だとは思うが此れも任務、過去は忘れて目の前の仕事に集中しようと男達は、機械馬の走る速度を上げて西へ西へと進んで行くのである。
「はぁせめてさぁ……」
「女は無理だぞマグレー」
「居てもかしくねぇだろうが! 昔ならな……」
蒼空達は前方の山で働いたりする人達用とかの町中を移動中。周囲にあるのは倒壊した家屋や骸骨やら何やらの死体という残骸だけで、見れば見るほど暗くなる気持ちを抱えながら特察隊は更に先へ先へ……
———出発してから機械馬の脚で約5時間後、DK18Pへ行く前に特察隊はまずその手前に造られた【仮小屋(避難場所)】へ入ることにした。
《余り使われないけど大陸全土の各所に必要な施設で、整備が間に合ってないがダミス等に追われたりした人が逃げ込んだり、壊滅した宿場町等の代わりに簡易な宿泊施設として使われるのがこの施設。
〘仮小屋の建設やら維持管理は統合軍のラウンドフォースが行っている〙。》
《夕日が見え始めた頃に辿り着いた仮小屋は地面の下にある。スロープで下ると鋼板の重い扉があり、閂はあるが入れないので鍵を付けない扉を押して入ると、10人以上は楽に寝泊りできる程の広い空間がそこに広がっていた。》
「仮小屋を使う前にまずやる事がある」
「そうだな」
馬を繋いでおく場所が内側の扉付近にあり、ブルーホースを繋いで降りた蒼空達は武器を抜くと仮小屋の点検を開始した。
《仮小屋など普段使わない建物にはダミスが潜んでいる事がある。
なので戦闘態勢になった彼らは、各所のランタンに火を点けながら調べていく。侵入されにくい構造だが天井に空いた通気口や煙突は特に要警戒で、据え置きの脚立を使いつつしっかり確認しなければならない。》
「ダミスは居ないみたいだなそっちはどうだ隊長?」
「こっちも問題ないぞ。俺はマグレーを連れて依頼場所の下見に行くからダリアンはその間に寝床と夕食の準備をしておいてくれ」
「分かった」
「食材と水は運んで来たんだ非常食は喰うなよ」
「俺はガキじゃねぇよ」
仮小屋には複数人が1週間は食べ繋げるだけの、非常食や水瓶とかトイレ用品なんかが用意されている。旨そうな肉の缶詰があるなと木箱の中を覗いていたダリアンは、顔を逸らすと蒼空達と一緒にブルーホースに積んで来た荷物を下ろしていく。
それが終わったら2人は馬に乗ってDK18PのDMCへ出発した。
《【ユルボ山脈とは】ユーミルボディの略で原始の巨人族、その神にちなんで名付けられた標高8千mを超える山が連なった山岳地帯の事。》仮小屋から西へ十数㎞ほど行った所にあるユルボ山脈の麓、山道入り口の前に目的のDMCは立ててある。
「……誰だよ200体だなんて言った奴、虚偽記載で訴えてやるぞ」
「200体以上だから間違ってない。しかし300体は確実にいるな……」
森が消えて隠れ場所の無くなった広場、地面からだとダミスに見つかりそうなので蒼空達は、ブルーホースで上空に昇り遠くから双眼鏡で群れを見下ろしている。
《双眼鏡を使うのはマグレーだけで、蒼空はその代わりに【天空の瞳(ウラノスアイ)】という目の部分に埋め込んだ伝説級のマジックアイテムを使用中。ウラノスアイは人が見ると気味悪がるし光が眩しいので蒼空は仮面を外せないのだ。
【魔力を注ぐとウラノスアイは、2㎞先を飛んでる小蠅が見える程に視力が上がったり普段は見えない魔力や詠唱された呪文が視認できるようになる】。》
「精確な数を教えてくれ蒼空」
「少し待ってくれ……」(外部説明3:ラグナロクとダミスについて)
「ダミスってホント色んなのが居るよなぁ」
「種類が多すぎて調べるのが大変だ」
《人型から幽霊、鳥に蜂どこかで見たようなモンスターと、ダミスが多種多様なのは犠牲になった生命体の記憶から形作られるから。そのダミス軍団の中心に異様な漆黒のオーラを放って聳え立つ、巨大なクリスタルが【ダミスホイホイ⦅DMH⦆】で此はダークエーテルを圧縮成型して作られる。》
〘ダミスの行動原理は単純だ〙。
生命体を喰い殺すか、ダークエーテルの波動を感じ取って体内に吸収しようと近付いてくるかの2拓だけ。
そこで3ヶ国統合軍はダミスがミッドガルドへ溢れかえらないように、DMHとかを利用してこれ等を任意の場所におびき寄せ、定期的に掃除をしている訳なのだが数え終えた蒼空はゲンナリしてしまう。》
「ドラゴンや大型はいないが342体もいるぞ」
「前回より多いな80体ほど、俺達は勝てると思うか隊長?」
「作戦を立てたら入念な下準備をして一気呵成に攻め立てるんだ、ダミスが合体さえしなければ何とかなるだろう」
「適当な話しで誤魔化すな隊長、勝算はあるのかと俺は聞いてるんだ」
「クロフェン大隊長のご命令だぞ、どんな無理難題でも俺達はやるしかないんだよ」
顔を顰めてマグレーは嫌だと隊長に訴えるが、怒った大隊長の顔が頭に浮かぶと諦めてしまいブルーホースの手綱を引いてその頭を仮小屋へ向けた。
「さっさと仮小屋に帰るぞ隊長、作戦の準備時間は少しでも長い方がいい」
「同感だハァッ」
———ブルーホースを走らせて仮小屋に戻った蒼空達は中へ入って行く。
「戻ったかダミスはどうだった?」
「覚悟を決めろよダリアン、大型は居ないが前回より多い342体だった」
「そんなに居たのか!」
蒼空の話を聞いて驚いたダリアンは、食材を刻んでいた包丁を危うく落としかけた。軽く掃除された部屋には寝袋が用意され竈ではお湯が沸いている。
「3人でだけでやらずに応援を呼ぶべきだと思うんだが」
「給料を削られたらダリアンは困るだろ」
「母ちゃんにドヤされて暫く小遣いが貰えなくなるな。やれやれだ」
隊長がやる気なので抗議を止めたダリアンは料理を再開。切るのはジャガイモ、タマネギにニンジン、牛すじ肉で終わったら竈に載せてあるフライパンでこれ等を軽く炒めてから鍋に入れ、終わりにスパイスを加えてカレーにしていく。
《身長は人間より高めで狼の顔に筋肉質な体やら爪と、ワーウルフはその外見から人に恐れられるが〘群れの生活が基本なので意外と家庭的〙。》蒼空とマグレーは料理が得意でないのでダリアンの役目になる。
カレーが完成したら買ってきたパンやリンゴと一緒に蒼空達は晩ご飯を食べた。
「……それで隊長はどんな作戦を考えているんだ?」
食器を片付けたら明日に備えて武器の手入れ、3人でランタンを囲みつつソードロッドを砥石で磨いているマグレーは蒼空に聞いてみる。
「前回と同じやり方で戦う」
「前回より数は多いんだよな?」
マグレーと同じようにミスリルソードを磨きつつ、ダリアンが尋ねると蒼空隊長は曖昧な返事でそれに答えてくのだった。
「まず初撃が大事だぞ。敵が動きだす前にどれだけ削れるかなのだがマグレーにはあれをやって貰おうと思う」
「あれってスーパートルネードのことか? やっても良いが一発で魔力が無くなるぞ」
「心配するなちゃんと此れを持って来てある」
側に置いたリュックから取り出して蒼空がマグレーに渡した小瓶は……
「エーテル(E)ポーション(P)か色は深緑色だな」
「濃度が高くなくないとお前は回復しきらないからな、ゆっくりと魔力中毒に注意しながら飲むんだぞ」
「分かってるよ」
《マグレーが渡されたEPは【エーテル(源魔法粒子)】を圧縮・液状化して霊体へ取り込みやすいように錬金術で作った薬で、飲み過ぎると自身の霊体が損傷して廃人になったりもする危険な魔法薬。
SHEP(スーパーハイ、主神クラス用の600%)~SEP(スモール、下級兵士用の30%)までの5種類があり、100㎜L辺りの回復量を基準に作られる。》
「1人1日3回までだ」
「3連続で飲んだら次まで1週間は間隔を開けるんだろ隊長。そんなの分かってるって此れは有難く貰っておく」
「ダリアンにもだ」
「ありがとよ」
2人が隊長から貰うのはH(ハイ)EPを各3本ずつ、此れは深緑色をした高位魔導士用の200%薬で濃度が上がると色も濃くなる。2人がそれぞれを腰袋へしまい込んだ所で隊長は作戦の話をし始めた。
「……まずスーパートルネードをマグレーが発動させるだろ」
「それから?」
「初撃が終わったらダリアンはダミスに突っ込んで吠えてくれ、お前がダミスを引きつけて逃げ回ってる間にマグレーと中衛の俺が横から数を削っていく」
「なる程なそれで?」
「それでとは?」
「前より数が多いのに同じやり方で勝てるのか?」
「前とは少し違うな今回の俺にはこれがある」
《そう言うと蒼空は側に置いてある、中が仕切り板で1本1本分けられた、【長方形の箱のような矢箱】の蓋を開けた。その小箱の中には長さ20㎝程でダーツのような【魔法の矢弾⦅魔弾と略す⦆】が複数並べて収められている。
激しい戦闘で飛び散らないように抑えているバネへ逆らうように、蒼空はその中から1本の魔弾を引き抜いてダリアンに渡していく。》
「見たことのない魔弾だな」
《手渡された呪文の彫り込まれたミスリルアローの先端には、蜂の巣のように分かれた黄色い魔宝石が9個付いている。》
「それは新作のスタンアローだ。少し大きめだが一つ一つの魔宝石は小さいので攻撃力が低くて、広範囲へ雷を撒いて敵を痺れさせることが出来るらしい」
「らしいってなんだよ大丈夫なのかこれ?」
「運用テストはクリアしているが、ダミスの集団へ使うのは俺が初めになる。少々不安だが∞のギルドは優秀だから信用していいいだろ」
「……」
スタンアローを返しながら狼顔のダリアンは、真摯な瞳で蒼空を見つめている。彼はこの依頼をやりたくないと隊長に訴えるのだが、言いたい事を理解した隊長は彼から顔を逸らしつつこのように呟いていった。
「家族を養うのは大変だよなぁほんと」
「その通りだ」
「なら頑張るしかない」
「俺が死んだら化けて呪ってやるからな」
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