お姉さま、婚活の時間ですわ。やめて、私じゃないです

第20話 聖女様婚活作戦始動!

 見事にカールを粉砕した私でしたが、自分でも咄嗟に動けたのが奇跡らしく、足が震えて動けなくなってしまいました。乙女舐めんなと啖呵を切っておいてこのざまなのは、非常に恥ずかしいです。


「あの、グレイル様。大丈夫ですから」

「……リズは嫌なのか?」


 動けなくなった私をグレイル様は軽々と抱え上げ、タレーダン邸から外に出してくださいました。

 外では更なる羞恥が私を襲うのです。


「おお、妹様! ご無事だったぞ!」

「聖女様万歳、妹様万歳!」


 タレーダン伯爵はグレイル様を退けたとしても、逃げ道はなかったのですね。

 出入口をガッツリと押さえている聖アガサ騎士団の姿がそこにありました。完全武装、かつ全軍出撃です。

 玄関開けたら二秒でゴリラ。


「さすが竜皇子グレイル様だ。妹様とよくお似合いですぞ!」


 私はあまりのことにグレイル様の腕に顔をうめてしまう。それがまたよくなかったのです。


「おお、なんと仲睦まじい。両国の絆ですな!」

「あの恥じらい方がなんとも奥ゆかしい。お二人の仲はそこまでのものか」


 やめてくださいませええええええ。


 確かに、確かに私はその……グレイル様のことを憎からず思って……ますけども。人にあおられるのはちょっと嫌なんです。もっと二人のペースでゆっくりしたいと思ったりもしていまして……。


 でもこの後両親に報告するときは、きっと結婚をせかされるのでしょうし。あああ、もうどうすればいいのでしょう。


「リズ」

「お、お姉さま!」


 流石にお姉さまを上から見て話すわけにはいきません。だが降りようとした私をお姉さまもグレイル様も許してくれませんでした。


「そのままでいいのよリズ。怖かったね。辛かったね。お姉ちゃんがもっとしっかりしていればこんこと……」

「ううん、ごめんなさいお姉さま。私が護衛もつけずに外に出たのがすべての原因です。こんなにも多くの方にご迷惑をおかけして、申し訳なさでいっぱいです」


「すまない。俺の方でもしっかりと護衛をつけておくべきだった。聖アガサ騎士団にばかり負担をかけさせてしまったようだ。ここは帝国、それも帝都だというのに」


 みんなで謝りあっても話は進展しませんね。何度か頭を下げ合って、今後は私が自重するということで今回の反省としました。


 だがちょっと両国でもめ事が起きてしまいました。特に大したことではないし、すぐに収まることだろうけど、一応止めておこうと思います。


「下手人どもは我ら聖アガサ騎士団にお渡し願いたい。聖女様の御身内に手を出した賊徒がどうなるか、しっかりと衆目に晒さなければ」


「いや、それはできない。何度も言うがここは帝国領であり帝国の法が支配する場所だ。

当然犯人は帝国の刑法によって裁かれる」


 まーた兜突きつけ合って、ビキビキしてますわ。きっと水と油なのでしょうね。


「聖アガサの皆様、ここは帝国の方に理があります。皆様がアーデルハイドお姉さまを大切にしてくれる気持ちはわかりますが、私たちはいたずらに法を犯すために帝国に来たのではありません。どうか騎士たる礼節と順法精神をもってお望み下さい」


 一応引いてはくれたけれど、遠くからおガンをつけ合ってましてよ。

 聖アガサ騎士団と帝国第一師団、君たちは田舎のヤンキーです?


 ため息をつきつつ、私たちはその場を後にし、のちに皇帝陛下にことの顛末を奏上することになりました。


 ちなみにタレーダン伯爵とカールの処遇は怖くて聞けませんでした。


「まさか余の目の黒いうちに聖女様に仇なす愚者が現れるとはな。これを機に帝都内、いや帝国全土を浄化する必要がある。此度の仕儀、まことに遺憾であった。賊徒どもには必ずや『生まれてきたことを後悔』させるので、聖女様の怒りを鎮めてほしい」


 生の遺憾の意は初めて聞きました。でもそのあとに続くであろう言葉が怖すぎて、頷くしかできません。絶対王政下で遺憾の意を言わせるって、相当やばいケースなのでしょうね。


「帝国の法に沿って裁判が行われると信じております。妹も無事でしたので、苛烈なる責め苦は不要と存じます」


「ふむ、聖女様がそう申されているのであれば、考慮しよう。どうか帝国に悪い印象を持たないでほしいと思うのは、余の我儘であろうか」


「いえ、帝国は素敵なところです。この度は私の不用意な行動で関係者に多大なる迷惑をかけて汗顔の至りです。どうぞ陛下の御心安んじられますよう」


 帝国と王国、これからは交流が深くなるかもしれません。だからなるべく風通しがいい関係を続けていければいいと思います。余計な禍根は残さないに限りますからね。


 この謁見を終え、私たちの帝国歴訪は終わりとなりました

 あ、グレイル様の背に乗って帰るのは断固として拒否しました。もうこれ以上私の胃をいじめないでください。


 王国に着き、私は久しぶりに自分のベッドにダイビングします。ああああ、本当にイベント続きで大変でした。この羽毛に包まれた時間こそが至福。もうしばらくこのまま安らかな日々を送りたいですわぁ。

 で、翌日。私は国王陛下with両親に呼び出されました。


「此度の帝国への訪問で、皇太子どのと将来を約束したとの報告がきておるが、そのあたりのことを詳しく報告してもらおう」


「リーゼロッテ、パパに全部話してごらん。経験者の芽からアドバイスをさせてほしい」

「こんどおうちに連れていらっしゃいな。ママもグレイル様と面と向かってお話したいわぁ」


 根掘り葉掘り、とはこのことです。娘の恋愛事情に口をはさんでこないでくださいませ。

 家的には、そして国家的にはそうはいかないのは理解しますけれど、ちょっと自分の口で語るのは辛いです。


「なんていわれてプロポーズされたんだ?」

「リズちゃんはグレイル様のことどう思ってるの?」

「どこまで進んでるんだ?まさかリズ……」

「あらやだ、親戚にも知らせないと!」


 こう、前世でもありました。冠婚葬祭で親戚が集まった時に言われる、「早く結婚しろ」トーク。これほんと泣けてくるので、やめてあげてください。


「帝国と懇談してからの結果となるが、来年の春には正式に婚儀を挙げるように」


 陛下の一言で場は決まりました。


「それでもパパとママの面接はありますからね!」

「リズも大きくなったものだ……」


 両親面接とか地獄すぎです。勘弁してください。

 やっと解放されて、私は今度は別の気持ちでベッドに沈みます。

 もう嫌だ。私は貝になりたい。そっとしておいてほしいです。


 軽く人間恐怖症になりそうでした。恋愛メンタル雑魚ですみません。



「お姉さまは……どうされるのだろう。帝国でも特に接近してきた男性はいなかったよね。まさかこのまま一生を神職ですごされるわけじゃ……」


 そうだ、私はへこんでいる場合ではないです。お姉さまの幸せな結婚をプロデュースしなければ。なんのための『破滅回避の魔眼』だと、ガバっと顔を上げます。


 机に向かい、私はかねてより貯蓄していた『聖女支援金』と『お姉さま保護基金』の中からとある予算を使用することに決めました。


 財政が火の車である王家に一部寄付という名目で、とある企画を提案しましょう。


『お姉さまからのお心遣いです。つきましては王国の威信を示すためにも、お姉さま主催で交流会を開かせていただきたいと思いまして。陛下のご裁可をいただきたいと存じます』


『お姉さま、この度の帝国での失態、申し訳ありませんでした。ついては日ごろの感謝も込めて食事会を開きたいと思うのですが。……もちろんお肉山盛りで』


『お父様、お母様。実は王国や帝国の方々が、この度のお姉さまのお骨折りに対して、感謝の宴を捧げたいと申しておりまして。このリーゼロッテに段取りをお任せいただけませんか?』


 根回しという名の土木工事に着手いたします。次は良いうわさを聞く貴族の子弟に対して、ひたすらに招待状を送付します。偽装工作として各ご令嬢にも一応出しておきましょう。


 そうですわ。あの方たちにも念のため声をかけておきましょう。

 保険は必要ですからね。


 会場設営の準備、お食事やお酒の発注。飾り付けや企画進行を考える。やることは山積みです。


 ふふふ、お任せください。お姉さまの幸せな婚活パーティーは、リズが演出してみせます。


『欲しがりのリズ』の本領発揮ですわ!

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