第71話 運命のシャーレ、帰還す!

私は「時の加護者」アカネ。

進化魔獣に重傷を負わされたラヴィエとハクア(ライシャ)を目の前に我を失ったツグミ。ツグミの隠された闇の力が発動した。そして瀕死のラヴィエを前に海が光ると「アリアの剣」が飛来する。剣はアコウの記憶を呼び覚ます。髪も目も銀色になったアコウが風となり現れた。アコウは空間と一緒に魔獣をバラバラに切り裂いた。その切り裂かれた空間の穴から光が飛来する。それは、「運命の加護者」シャーレだった。


—太陽の国レイ ラジス峡谷―


「ふふふ、やっとこの時が来たわ。見なさい! アカネ! この魅惑的なボディを! これこそが『運命の加護者シャーレ』のあるべき姿よ」


その女性は自分の手で胸を押し上げ、続けてそのくびれた腰に手を添えて言った。


「も、もしかしてあなたはシャーレなの? 」


「その通りよ」


シャーレはウィンクをして答えた。


「な、なんだと。「運命の加護者」シャーレだぁ。好都合だ。僕のペットにしてやるう」


ダル・ボシュンが自らの胸に「祈願の手」をあてると身体が黒色に変化する。


「ペットだと..それは差別発言だな 」


初めて威圧的なシャーレの声を聞いた。


その声とともに激しいオーラが辺りを包みこむと、襲い掛かろうとしていたダル・ボシュンの身体が恐怖に固まったのが目に見えてわかった。


「ふぅ。私は忙しい。少しの間.. そこの男! この筋肉の相手をしてやれ。似た者同士だろ」


シャーレが指名したのはツグミの傍らにいたジェラだった。


「お、俺が.. ですか」


ジェラはダル・ボシュンの黒い姿を見ると足が震えた。


「おまえ、ツグミを守ると決意したのだろう。ならばそれを実行してみろ」


ラヴィエに癒しの力を与えつづけるツグミをみてジェラは思った。


「こんな小さなツグミだって、が、がんばっているのだ。お、俺だってやってやる! 」


小さな勇気が力に代ると、足の震えが止まった。


足を大地に踏みしめ、両手を突き出し、気功岩礁拳の構えをする。


「なんだぁ、モブ野郎がぁ。お前のようなモブは一瞬で体の骨を砕かれ血反吐を吐いて死ぬのがお決まりなんだよ」


白亜兵が担ぐ神輿から飛び降りると、顔を1㎝まで近づけながら、ダル・ボシュンはジェラを威嚇する。


「そんなに簡単にやられるわけにはいかねぇんだ」


自分の身体の2倍以上もあるダル・ボシュンにジェラは勇気を振り絞って言った。


「今のがお前の最後のセリフだなっと!! 」


全ての空気を持っていくようにその黒い腕を振り上げると、鉄球のような拳がジェラの胸にめり込んでさく裂した。


足を踏ん張ろうとしたジェラだったが10m以上も吹っ飛び、そこらにある大きな岩に、まるでピンボールのように何度もはじかれながら転がった。


「どれ、死にやがっただろう」


ダル・ボシュンが近づき覗き込むとジェラが目をぱちくりさせている。


サクッと立ち上がるとジェラは一言言った。


「痛く.. ねぇ」


その様子をシャーレは呆れた顔で言った。


「あの男はまだ気が付いていないのか? 」


「え? なにが? 」


「あれ? アカネ、お前たちも知らないのか? そうか、よし! 」とシャーレは悪戯を思いついたような顔をするとジェラに向かって言った。


「おいっ、男! その黒い奴を殴ってみろ」


きょとんとするジェラはハタっとすると拳に力を込めた。


「このダル・ボシュン様の筋肉は闘神シエラの蹴りだって効かないんだぜ。いいぜ! 特別サービスだ! やってみるがいい!! 」


ジェラはいちいち気功岩礁拳の構えをしながら拳を思いきり放った!


[ バコッ ]っと乾いた音を鳴らしてダル・ボシュンの胸にさく裂する。


「ぎゃはははははははははは。ひぃ、はぁ、はぁ。 何だ、何だ? ちゃんと気合い入れたのか? 僕を笑い死にさせるつもりか!? 」


ダル・ボシュンは涙を出しながら大笑いし、生き絶え絶えの状態だ。


[ バコ バコ バコ バコッ ]とジェラはダル・ボシュンの胸に連打をする。


ぜんっぜん効いている気配すらない。


だけど.. 不思議だ。


ジェラの腕がうっすら薔薇色のオーラを纏い始めている。


そのオーラはジェラの身体全体を包み込むと、そこから薔薇の花びらの模様が入った小さな蝶が生まれ、羽をはばたかせ飛び立った。


蝶はツグミの身体に止まると、スーッと吸収されていった。


「何なの、この現象は? 」


「はははは。あの男は変換器だよ。本来、あの男が得意としていた気功を練る技が特化し、全てのエネルギーを魔力へと変換させる能力となった。そして、その魔力を供給することがツグミを守る事となる。あいつはツグミの守護者だ。『法魔の加護者』ツグミのトパーズ・ジェラになったんだ」


「 ..え.... ええーっ!! 」


ジェラはダル・ボシュンにダメージを与えることはできなかった。しかし、ジェラが攻撃によりダメージを負う事もなかった。


「あ、そうそう、あの男はもう死ぬことはないぞ。アンデッドだからな」


「え.. ええーっ! 」


なんだ! なんだ! 情報量が多すぎて頭が追いつかない。


つまりツグミが『法魔の加護者』になって、ジェラがそのトパーズになったって事?


そしてジェラはアンデッドになっているって.. わけわかんない!?

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