第70話 空間を切り裂け

私は「時の加護者」アカネ。

民兵を犠牲にしながら闘うダルの卑劣さに我慢ならなかった。ラヴィエは私の気持ちを察し、私を前線まで連れて行ってくれた。一対一の決闘を申し込むとダル・ボシュンは唾を吐き捨てるように却下した。だが、そこに現れたのが行方をくらませていたハクアだった。ボロボロのハクアはダルを一喝すると、残る力を振り絞り「審判の瞳」で民兵の催眠を解く。これにより戦況が変わると思ったのだが、ラヴィエとハクアが進化魔獣の手に落ちた。ゆるせない。


—太陽の国レオ ラジス峡谷—


「はははは。忌々しい者どもめ。野垂れ死ぬがいい。きゃははは。さぁ、魔獣ども、そいつらをさっさと片付けろ。アカネ、お前だけは生かしておいてやる。殺しちゃうと世界が消滅しちゃうからね。僕はこの世界の混沌をしゃぶりつくしたくなったよ。カオス最高!! うひひ!」


抱きかかえたラヴィエの手がだらりと下がる。


「ラヴィエ、ラヴィエ! 起きて。戻ってきて!」


「ライシャ!!」


そこに立っていたのは、ハクアを追いかけて来たツグミだった。


「ねぇ、ツグミ.. ラヴィエが.. ラヴィエが.. ツグミ..お願い助けて 」


私は自分の無力さが憎かった。いや、今はラヴィエが助かってほしい。それだけだ。


「えっ!? ラヴィエおねえちゃん!? おねぇちゃん!!」


駆け寄ったツグミはラヴィエの手を取るが、その手はスルスルと力なく地に落ちるのみだった。


「ラヴィエおねえちゃん! ああ、ひどいよ.. なんで!? ..お前らが、お前らがやったのか」


ツグミの目が黒よりも黒い闇色に光り始める。そして声のトーンが低くなると地の底まで震えるような残響がした。


『右に進むは闇の光。左に進むは無の光。その者、真に進むは永遠の苦しみ』


ツグミが詠唱を唱え、黒と白の混濁する球を地面に投げ入れた。


大地から生えた無数の手が魔獣の手足を捕らえると、突如、闇色の炎が燃え上がった。


『ぎぇええええ! 痛い! 熱い! 痛い! 』と断末魔をあげると魔獣は身動きも取れないまま、皮と肉を焼かれ塵になってしまう。


しかし、空気中に飛散した塵は天から舞い降りた白い手によって丁寧に集められていく。そして集められた塵が白い炎に包まれると、今度は魔獣が完璧に再生される。


魔獣が意識を取り戻すと、再び闇の手に捕まり闇色の炎に焼き尽くされた。


「ぎぃあああぁあ! 殺してくれぇぇえ! いやだぁ!! 」


魔獣は永遠に炎に焼かれ消滅と再生を繰り返すこととなる。


「な、なんだ、その恐ろしいガキは! ロックテイラーそのガキを殺せ! 」


ダル・ボシュンの命令で3匹の魔獣が向かってきた時、空が鳴り始める。


見渡す限りの海が激しく銀色に光ると天に向かって閃光が立ち上る。震える空が雷雲を創り光がほとばしった。


それは抑えきれない怒りで震えているようだった。


そして凄まじい閃光と衝撃音が大地に突き刺さる。


大地は慟哭しながら、突き刺さった『アリアの剣』を中心に歪んでいるように見えた。まるで重低音スピーカーの上に立っているようだ。


「ぐあああぁあ」


砦で眠っていたアコウが頭を抱えて跳ね起きる。


[—アコウ、我と同じ過ちを犯すのか? お前もこの剣に魂を置いていくつもりなのか? ]


「 ..アリア.. そうか.. だんだんと.. 思い出してきた。俺はお前の無念を胸に刻んでいたのだ..すまない」


[—ならば、剣をとれ! そして斬るのだ!! ]


アコウの髪が銀色に輝き、その両目すらも銀にかわる。


ロックテイラーの巨大な尾から鋭く固い毒針がツグミとラヴィエに連射された。


一陣の風が吹くと銀髪のアコウが剣を振る!! 毒針は粉々の塵になる。


「なにぃ! 俺の毒針が! ..生意気なぁ!! 」


アコウが小さな声で呟いた。


[ 貴様は空間ごと粉微塵になるがいい ]


『アリアの剣』を縦・横・斜めへと振る。


するとその太刀筋に沿って空間がズレていった。


「イギッ」


ロックテイラーはひと鳴きすると動かなくなった。


次の瞬間、空間ごとパズルピースのようにバラバラになる。


そして、そこにはバッカリと大きな暗黒が口を開けていた。


新たな空間が暗黒を覆い隠そうとした時、勢いよく光の球が飛来する。


光は着地し、大地を灼熱の赤に染める。


立ち揺れる蜃気楼の中、銀の耳、漆黒の黒髪を持つ『運命の加護者』シャーレが今ここに舞い戻った。

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