第68話 最終局面

私は「時の加護者」アカネ。

傷ついたマジムさんやバンクはラインがカレンのいる砦へと運んで行った。そして私たちはセイレーンの言う通り、北へ進路を取りラヴィエたち捜索隊と合流した。そんな中、太陽の国レオではダル・ボシュンが民兵からなる討伐部隊を編成していた。


—太陽の国レオ 王都レオ—


「よいか! この戦いは世界の混沌を望む『時の加護者』を討伐する戦いなのだ。恐れる者はいるか!? フェルナン国の王を殺し、レオ国の女王レイフュ様、ファシオ様を誘拐、殺害し、さらにはハクア様を亡きものにした極悪非道の『アカネ』を今こそ退治するのだ! この太陽の国に平和を取り戻さんとするものは、僕について来い! 」


ダル・ボシュンの鼓舞に白亜部隊は足を踏み鳴らし、騎馬隊、民兵は鬨の声を上げた。


みんながみんな自分自身の勇ましさに酔いしれているようだった。


それは進化魔獣ロックテイラーが毒針から散布する『三つ先の望香』によるものだったのかもしれない。


この香りを嗅いだものは目標を達成するまで正常な思考ができないのだ。


ロックテイラーとは何億年も未来の魔獣ロックチェアーの進化した魔獣だ。


思考し言語を話す魔獣の最終形だ。


ハクアは『審判の瞳』により魔獣を進化魔獣に変えていたのだ。


そして各国へ送り出した進化魔獣こそがブルゲン大使の正体なのだ。


いま、その各国に散らばる進化魔獣4体もここ王都レオに集結した。


—太陽の国レオ ラジス峡谷の砦—


一方、アカネ達は『運命の加護者』シャーレを亜空間から連れ戻す手だてが見つからなかった。


驚いたことに彷徨い気を失ったアコウはラヴィエにより保護されていた。


しかしラヴィエの献身的な看護をしても、アコウの記憶は戻らないままだった。それに肝心な『アリアの剣』がどこにあるのかさえわからなかった。


こうしている間にもハクアやダル・ボシュンが、いつどのような攻撃をしてくるかわからない。


懐中時計が壊れてアカネの力が制限されてしまったからには、時期に「3主の力」は弱くなってしまう。


クローズやシエラがいつ岩に戻ってしまうかわからないのだ。


「もう! いったい『アリアの剣』はどこにあるのよ!! 」


「け..ん.... ありあ.. の剣か.... 」


アカネのイラついた叫びにダル・ボシュンとの闘いで重傷を負っているバンクがたどたどしく呟いた。


「バンク! あなた知っているの? 」


意識を失いそうになりながらも、バンクは記憶を辿って応えてくれた。


「お、おそらく、フェルナンの北.. の海。私..アコウと闘った.. 」


「フェルナンの北。もう取りに行っている時間なんてない.. どうすれば.. 」


するとクローズが応えた。


「アカネ様、ソルケに会いましたね。彼女の『不縛の剣』を見たでしょう。あれは彼女が使って初めて力を発揮します。私の『運命の輪』もそうです。だけど『アリアの剣』だけは違います。あれは意思を持つ剣なのです」


「どういうこと? 」


「お忘れですか。もともと『アリアの剣』には運命を果たせず命を終えてしまったアリアの魂が封印されていた事を。そしてその魂の共有者がアコウなのです。『アリアの剣』はその時が来れば、きっと自ら姿を現します」


—それから2日が経った。


静かだった。


とてもこの世界の運命を左右する戦いが行われているとは思えないくらいに、静かだ。


「ぐっ.. ぐはっ」


「バンク、大丈夫? 」


バンクの容態は悪くなる一方だった。


特にボロボロになった膝から細菌が入り、内臓を侵し高熱を発症、意識が混濁している。


「ねぇ、バンクは死んじゃうの? ねぇ、死んじゃうの? 」


縋りつく結月に私は何も答えることが出来なかった。


「大丈夫だよ、結月。きっと大丈夫」


結月を励ますのはラヴィエだった。その言葉がどれほど罪深いか知ったうえで、ラヴィエは希望をその言葉に込めているのだ。


結月はラヴィエの胸の中に顔をうずめると、いつのまにか眠りについた


・・・・・・

・・


「やっぱりすごいよ、ラヴィエは。私はそこまで強くないもの」


「ううん。私だってアカネと一緒だよ。でも、私はアカネ達の起こす奇跡を信じている。だから言えるんだよ。大丈夫ってね」


その時、上で見はるカレンが2つ石を落とす。


「敵襲だ!! 」


小高い岩に上り、カレンが指さす方向をみると砂漠に砂埃が立っているのが見える。


最悪だ。『時の加護者』の力を出せないうえに敵は部隊を作って来た。


こちらで戦力になるのは、ラワン隊長サーシャが率いる小部隊、ガゼ、シエラ、クローズだけだ。


私が戦力外の今、綿密な作戦を立てることにした。


「私たち、小部隊がまずは先陣をきります。そのこじ開けた道にシエラ様、クローズ様、ガゼ様が飛び込み一気に敵の頭を打ちとりましょう。カレン様とファシオ様はこの砦を守ってください」


「私も闘う」


結月は盲目ながらも前線に立つことを望んだ。


「いいかい、結月。この砦にも戦士が必要だ。今度は君がバンクを守るんだ。バンクの近くにいてあげてくれ。君の想いはこの闘神が持って闘おう!」


「シエラさん」


いつもだ。いつもシエラの言葉には力強い勇気がこもっている。


「みんな、ここを抜けられたら、きっとあいつらは『繭』を手中に収めようとする。あいつらの目的は世界征服ではない。この世界の破滅なんだ。絶対に負けることはできない」


ガゼが闘いの意義を説くと後ろで声がした。


「そういうことか。世界の破壊なんてさせられないな。俺はヴィタニマ村の命を守らねばならないのだからな」


その声の主は..


「ロウゼ!! 」


「ガゼ兄さん!! 」


ガゼとロウゼは固く手を組んだ。


「ロウゼ、どうしてここがわかったの? 」


「それはアカネが僕の毛を持っているからだよ」


私の問いに答えたのはフェレットのヤンバだった。


隣でボーダーコリーのリベンが頷いた。


「このリベン様の鼻は、何でも探し当てるんだぜ! 」


そうだった。ヤンバの毛は私のポシェットに入れていたんだ。


なんて心強い援軍だろう。これでロウゼ率いるオレブラン隊が加わった。


しかし、このわずかな人数で勝つことができるのだろうか。


そんな不安を抱きながら『時の加護者』としての力を失った私は砦に残るしかなかった。


***


—ナンパヒ島 未完の白浜—


真夜中、イビキを搔きながら眠るジェラのベッドの傍ら、ツグミは呟いた。


「ジェラ.. 私、アカネおねえちゃんの所へ行こうと思うの」


「いいぜ、すぐ行くか? 」


ジェラは片目を開けてツグミを見ていた。


「起きてたの?」


「まぁな、ツグミが一人で行っちまうかもしれないからな」


「ううん。私、ジェラを頼りにしているよ」


胸に抱き着くツグミの頭をなでるとジェラは『絶対に俺が守る』と決意を固めた。


「行くのだね? そんな気がしていたよ」


2人の会話を聞いていたルルさんがドアの向こうから話しかけた。


「うん。ルルおばさん、ありがとう」


「この島にいる永久蝶(とこしえちょう)があなた達の道を示してくれるわ。それを辿って行きなさい。ジェラさん、その子をしっかり守るのよ」


ルルはドアから離れると、窓から空を見上げながら言った。


『動き始めた。結界を解きなさい、セイレーン』

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