第59話 偽りの海の女王
私は「時の加護者」アカネ。
私がもたもたしていたせいだ。もっと急いでいたらロッシを救えたかもしれなかったのに..
ダル・ボシュンの悪行に悲しみ・怒り・後悔いろいろな思いが交錯していた。
—太陽の国レオ ラジス峡谷―
ロッシの墓を前にしてガゼは責任を感じていた。なぜならダル・ボシュンの本当の狙いはガゼだったからだ。そんなガゼにシエラが声をかけた。
「そうだ、お前の責任だ。敵は追い詰めず一気に殺しておくべきなのだ」
そう言い放つシエラは虎の目をしていた。私は改めて「闘神」と呼ばれるシエラの一面を見た。
私たちはロッシの墓に花を手向けると、あの優雅に舞うような彼の勇姿を思い出すのだった。
「ロッシはいつもそうだった。私の為ならためらうことを知らなかった。私は第一王女を退こうと思っています。私はロッシの墓と共に残りの人生を歩もうと思います。でも、それはあのダル・ボシュンの死を見てから。たぶん私では無理。だから.. アカネ様、お願いです」
「うん。カレン、私は友達の願いを何よりも優先するよ」
「アカネ! 」
カレンは私の肩に縋りつくように泣いた。
***
—一方ベル港から出た船に乗るツグミとジェラは、穏やかな航海をしていた。しかし元海賊のロストとファイドもこんなに静かな海が何日も続くことに不気味さを拭えないでいた。そして、いよいよ大陸が見えてきた時だった。
「誰だ。我が海を勝手に渡ろうとする者は!」
声がする方を見ると、そこには4つの妖艶な瞳を持つ女が、長く美しい髪から水を滴らせながら立っていた。その女は男を惑わすフェロモンを放ちロストとファイドの心を掌握した。
「良い子のお前たちは、海に飛び込みスロコザメの餌にでもなりなさい」
2人が海に飛び込むと、辺り一面が赤く染まった。
「ほぉ.. お前は珍しい男だな。普通の人間の男ならば私の言葉には逆らえないのに」
女はジェラに話しかける。
「うるせぇ、化け物! それよりも、うちの操縦士を良くも殺ってくれたな」
「下等な生き物が! 言葉遣いを間違えるな! 」
その時、女の目が縦に瞬きをすると、何本もの髪の毛の束がムチのような速さでジェラを打ち付けた。
「痛って..くないな。てめぇ、何やってくれた」
「我は化け物ではない! ハクア様よりこの海を治めるために生み出された高等生物クリュシュだ。それよりもお前は興味深い。普通ならば我の髪に触れただけで毒死は免れぬというのに」
「ふふん。俺はお前の動きを紙一重で避けているのだ。この極意は無意識のもとに行われる究極の業だ。かつて銀色に輝く伝説の戦士が使ったと言われているぞ」
そう言いながらジェラは自分の脚にしがみ付くツグミを後ろに隠した。
「ふざけたことを。まぁ、いい。さっきお前は船の操縦士がいなくなって困ると言っていたな。その悩みを解決してやる」
「てめ、何をする気だ! 」
「なに、この船が無くなれば、操縦に困る事もないだろうという事だ! ガキと共に海に落ちてスロコザメの胃袋に納まるといい」
クリュシュが海に飛び込むとそこから渦巻きが発生した。
船は大きく揺れそのうちメキメキと音を立て始めた。
「ジェラ.. 」
ジェラは怯えるツグミを抱き寄せる。
だがついに船は大きな音を立てて壊れてしまった。
投げ出されたツグミとジェラが海中に引きずり込まれると、四方八方からスロコザメが襲ってきた。
ジェラはツグミを抱えて水面へ向かおうとするが、渦巻きは2人を逃そうとはしなかった。
そしてついに海を縦横無尽に泳ぐものが2人を捕らえた!
ツグミとジェラは鼻先でグイグイと押しあげられると勢いよく水面から宙に投げ出された。
宙を舞いながら2人は見た。
笑顔のような顔で輝く金の瞳で自分たちを見上げる純白のオキゴンドウの姿を。
オキゴンドウは大きな潮を噴き上げると、一度海に姿を消し、再び自らも勢いよく跳ね上がった。
[ズザーン]と2人に大きな水しぶきが降りかかる。
「君たち、そこにいるズールにしっかり捕まるんだ! 」
空を見上げると琥珀色に輝くルッソがいた。
ルッソが天に向かって手をかざすと、太陽の光が分裂していき黄金の槍に姿を変えた。
そして勢いよく放たれると海中のスロコザメを貫いていった。
「ギェエエ!! 誰だ! この海の女王クリュシュに歯向かうものは! 」
クリュシュは先ほどよりも大きな姿となり、上半身は女人、下半身からはエイという異形な
姿をしていた。
「お前など知らぬぞ! いったい誰の許可を得て海の女王を名乗る? 」
その少し高慢な態度の声の主は、翠の軌跡を描きながら近づいてきた。
「ルッソ、あまり無暗に人に関わるなと言っているだろうが」
「え~。だってあんな小さい子を襲うなんて放っておけないじゃん。それにあいつ、お姉ちゃんより偉そうにしているよ」
「ギシャヤァアア! 貴様は誰だ? 」
その威嚇音は海水面を震わせるほど攻撃的なものだった。
「お前ごときに教える名はないが教えてやる。我が名はレフィスだ」
「私はルッソね! 」
「鳥ごときがぁ、偉そうに。死ね! 」
海から何本ものムチのような尾がレフィスとルッソを襲う。
しかし、それらを琥珀と翠の光は軽々とかわしていく。
「ぬるい! ぬるい! そんなので海の女王とか笑わせる」
「ぬかせぇぇえええ! 」
耳をつんざくヒステリックな声と共にクリュシュの身体から百にも及ぶくらいの瞳が開いた。
「我の百の瞳を開かせたお前たちはもう終わりぞ。ははは、次の攻撃で貴様らを焼鳥にしてやる! 」
「あっ、そう。ところでお前の後ろに本物の海の王が挨拶に来たぞ」
クリュシュが後ろを振り向くと自分の何倍もある巨大な白鯨が顎を開き全てを飲み込まんとしていた。
「キェェエエエ! 食べないで—— 」
クリュシュをひと飲みすると白鯨は空高く舞い上がり海の中へ帰って行った
———ブゥゥウウ!!
時々、潮を吹いてイタズラするズールにジェラは度々ビショビショにされる。
その度にツグミとルッソは大笑い。
ズールも嬉しそうにキュキュキュキュと笑っている。
その声を聞くとツグミが『ラインとソックスみたいだね』とズールを両手で撫でた。
「え!? 君たち、ラインとソックスを知っているのかい? 」
「うん。大切なお友達だよ。私たちアカネおねえちゃんを探しに来たの」
「私もこの前、ラインとソックスと友達になったばかりだよ。着いておいでよ! 」
ツグミとジェラはルッソの案内で『未完の白浜』にたどり着いた。
診療所からライラが手を広げながら出迎えてくれた。
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