第58話 従者

私は「時の加護者」アカネ。

セイレーンからシャーレを亜空間から呼び戻すには「アリアの剣」が必要だった。しかし剣の正統継承者であるアコウは記憶を失くした上に疾走してしまった。私たちはアコウを見つけ出さなければならなかった。アコウの後を追い私たちはナンパヒ島から東の大陸へ上陸する。


—ナンパヒ島~東の大陸—


ラインとソックスに跨り、私たちは走る。レフィスとルッソが空に描いた光の軌跡を追いかけて。森はまるで邪魔にならぬように道を開いているかのようだった。


森を抜けると島と大陸の境界線に到着した。すると突然、ラインとソックスが足を止める。


まさか、またバンクの禁言か?


警戒しながら地に足を着くと、地面がブヨブヨしていた。


『ギャー!! 』シエラは叫びながら慌ててラインの上に飛び乗った。


一見、黒い溶岩石のようだがよく見ると、それは全て島の幼虫の塊なのだ。虫は島と大陸を接合するため、まさに今、岩へと身体を変化させているのだ。


シエラの顔を見ると口が波線で蒼白な顔をしていた。そして腕で×印を作っていた。ラインとソックスもその違和感に気持ち悪くなっているようだった。


足元に注意しながら緩やかな崖を登りきると、突然、シエラを取り巻く空気が変わった。


一気に空気が張り詰めた。


「誰だ! そこに居るのは!? 隠れていないで出て来い! 」


丁度、人が隠れられるほどの岩に向かってシエラが声を張った。出てきたのは杖を突く男だった。


「お久しぶりです。アカネ様、そして.. シエラ様、そちらはクローズ様ですか? 」


「お前はガゼだな」


「はい。お名前を憶えていていただき光栄でございます」


「僕は誇り高き戦士の名前は忘れないよ。そうか、お前か。僕は聞いた事があったよ。白亜にさらわれる子供を助ける男は片足の風神だとね。僕はお前が立ち上がる事も不可能なほどに脚を粉砕したわけだけど、なぜ闘えるのさ? 」


「はい。シエラ様がハクアと闘っているという噂を聞き、私は地を這って光鳥シド様のもとへ参りました。シド様は既に泉の女神へとお姿を変えておられましたが、私の釈明を聞かずに『今度は志を忘れぬよう』と脚を治してくださったのです」


「え? じゃ、何で杖をついているの? シドが治したんなら完治しているはずでしょ? 」


「アカネ様、これは戒めなのです。私が完治ではなくて、最低限の骨の形成だけを頼んだのです。罪を犯した私が完璧に戻るなんて虫が良すぎる話です」


「相変わらず頭が固いな、お前は」


「はい。お褒めいただきありがとうございます」


「褒めてないんだけどね。とりあえずもう立ち上がりなよ。で、ガゼ、僕らはどこへ向かえばいいんだ」


まるで何十年も仕えてきた頼りになる部下へ話しかけるような口ぶりだった。


「はっ、ご案内いたします」


そう応えたガゼの身体は喜びに打ち震えているようだった。ガゼはシエラと一緒にラインに跨って私たちを導いた。それは何百メートルもの高い断崖が立ち並ぶラジス峡谷だった。


特徴的な瓦礫が散乱する荒野に着くと、突然、矢継ぎ早に矢が飛んできた。その矢が飛んできた崖から砂煙を立てながら降りて来る人物。


「あなたたちを待っていたわ。久しぶりね、アカネ! 」


それは少し痩せてはいたが、あのギプス国第一王女カレンだった。


「カレン! お前、身体は大丈夫なのか? いったい何があった? 」


ガゼがカレンに尋ねると、カレンは指にはめた指輪を見つめながら語り始めた。

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