第52話 ふたつの崩壊

私は「時の加護者」アカネ。

私がナンパヒ島に滞在している間に王都フェルナンではツグミの癒しの能力で回復したジイン王とラヴィエが無事に再会することができた。本当によかった。


—王都フェルナン 闘技場隠し部屋—


「なぜ、アカネは黙って行ってしまったの? 」


「うむ。きっとアカネ様はお前の身を案じたのだろう。もしも私が生き残れば、白亜は弱った私を盾に、今度はお前に無理難題を言うに違いない。例えば世界の悪『時の加護者』を討伐しろなどと」


「そんな.. 」


「おそらくは、お前自身の考えで動けるようにしたのだ」


「でも『王殺し』という罪状を背負ったアカネはどうなるの」


「うむ。それだがな。彼女はその二つ名すら利用しようとしたのではないかと思う」


単純なアカネとシエラがそこまで深く考えていたかはわからないが、この『王殺し』の二つ名は民衆だけでなく各国の兵にまで恐怖心を植え付けていた。


その為、実際に『時の加護者』の討伐の声はなかったわけではないが、誰も志願をしようなどとは思わなかった。


王を殺すことも厭わない『時の加護者』と『闘神』を相手に誰が進んで討伐隊へ志願などしようか。


これはアカネ達にとって功を奏することになったのだ。


その後、すぐにラヴィエは王宮に入り、簡易的な戴冠式を行い女王へ即位した。


そして、ラヴィエもアカネの『王殺しの罪』を利用しカイト国、ギプス国の協力をもとに『時の加護者討伐隊』を編成する。


この大義名分を元に討伐隊は船での渡航、各国の境界線を自由に超える事が可能になったのだ。


だが、この隊の本当の目的は世界情勢の調査や行方不明になっている各国の王子、王女の捜索をすることだった。


もちろん、そこにはラヴィエの愛するアコウを探し出すという目的も含まれていたのだ。


***


—ナンパヒ・パカイ・ラヒ中心部・繭—


「クローズ大丈夫か? 」


「見た目よりは大丈夫だよ」


「ねぇ、クローズ、シャーレは何処にいるの? 」


「なんだ? セイレーン、君はまだ話していないのか? 」


「はい。話はそれを見ていただいてからの方が良いと思いまして」


セイレーンが手を掲げたほうをみると、繭の中心に球が浮いていた。


だが、それはとても危険な気配がした。


凝縮だ。


凄まじいエネルギーを凝縮し回転している。その紫の球は時々内部が白く発光すると、膨張と縮小を繰り返していた。


「これはいったい何なの? 」


「はい。これはこの惑星のバイタルエネルギーの凝集体です」


「この星のエネルギー? 」


「はい、しかしそれはまだ海の分のみです。これからこの島は陸つながりとなり、幼虫たちは大地のバイタルエネルギーを集めます」


ため息とともにクローズが静かに感情を押し殺しながら話しはじめた。


「アカネ様、私たちの存在がこの島を守るためにあるって聞きましたか? 」


「うん」


「まったくふざけた存在理由だと思いませんか? それなら島の記憶を消す必要などないのにと思いましたよ。でもね、そうもいかないのはこれの存在のせいらしい」


「クローズ、お前、その球はいったい何の為にあるか知っているのか? 」


「シエラ、まさにそれだよ。この球は、この星が存在する為のものらしい。この球は循環するためにあるのさ。命を終えたもののエネルギーを虫が集め、繭で凝縮し、星に返す。そして星はまた新たな命を生み出す。この循環は星が誕生した時からずっと繰り返されてきたんだ。ちなみに光鳥やティムはこのエネルギーの球から直接生み出された生命体らしいぞ」


「でも、何で隠す必要なんてあるのさ? 」


その問いにはセイレーンが答えた。


「シエラ様やクローズ様には理解できないのです。でも、アカネ様、あなたならわかるのではないでしょうか? 異世界から来たあなたなら。もしもあなたの世界で巨大なエネルギーが見つかったらどうなりますか」


「きっと.. 人間はそれを利用しようとする.. そして奪い合うかも.... 」


「エネルギーを奪い合う? 」


シエラが首を傾げた。


「私はこの世界にずっと違和感を覚えていた。だって、この世界は私のいた世界を参考にしていると言いながら、まったく科学の発展がないじゃない。それなのにシエラもクローズもシャーレすらそこを気にしていない。セイレーン、それこそあなた、何かを知っているんじゃないの? 」


「 ..はい。全ては星の意思なのです。この世界が科学を拒んだのです。この世界は、アカネ様の世界を見ながら常に軌道修正しています。アカネ様の世界の歴史を見て世界は思いました。人の欲望は危険だと。そして出来上がったのが今のこの世界。シャーレ様、シエラ様、クローズ様が疑問を持たないのはこの世界がそうさせているからなのです」


「そんなのエゴよ」


「アカネ様、エネルギーは有限です。このバイタルエネルギーもです。もしもこのエネルギーを人が利用すれば、いずれ枯渇し、この星は崩壊してしまいます。そしてハクアにそれを知られてはいけません」


「どういうこと? 」


「ハクアはこの星の崩壊を目論んでいるからです」


「何でそんな事わかるの? 星が崩壊すれば自分だって死んじゃうでしょ? 」


「無だ。虚無。いやそれすらも望まない未来。シャーレ様がハクアの運命を覗いた時、そう言っていた。だからシャーレ様は自分自身を亜空間に隠したんだ」


「アカネ様、星を崩壊させる一番手っ取り早い方法がもうひとつあります。それは、アカネ様の世界を消し去る事です」


「えっ!そんなの許さないわ!」


「アカネ様の世界は『秩序の加護者』『運命の加護者』『時の加護者』の絶大な力によって生み出された世界。そして時と運命が2つの世界を繋げています。アカネ様の世界で人が死ねば、こちらの世界でも死ぬのはご存じですよね。それならば、アカネ様の世界が丸ごと消え去ったとしたら? 」


身がすくむ思いがし、全身の産毛が逆立った。


「では、アカネ様の世界を消滅させる方法はご存じですか?」


私は考えがまとまらず首を横に振るのみだった。


「加護者の誰かが死ぬことです。その時点でアカネ様の世界は崩壊し、同時にこの世界も同じ運命を辿ります」


「そんな!」


「だから戦闘タイプではないシャーレ様は即座に亜空間に隠れたのです。そしてその居場所を探られない為、私はこの島に身を隠したのです」


クローズは全てをシャーレから教えてもらっているようだ。


「だけど、『時の加護者』と『闘神』が来た今、このクローズが隠れる必要は無くなった。私もお前たちと共に行くぞ」


「その前にシャーレを亜空間から出さないと」


「いや、シャーレ様は亜空間から出られないのだ」


「なんで? 」


「私の手に運命の輪がないだろ。あれはシャーレ様の意思で破壊した。もう亜空間に穴を開けられない。もう出られないのだ」


「いいえ、方法はあります」


「それは何だ? 教えろ! 」


クローズがセイレーンに詰め寄った。


「『運命の輪』は空間に穴を。『不縛の剣』は空間を凍結。そして『アリアの剣』は空間を切り裂くことができます。


『アリアの剣』さえ使えれば空間に出口を作ることが出来ます」


その為には、アコウの力を甦らさなければならない。


だが、それはアコウを再び戦場へ戻すことに他ならなかった。


それは本当に良い事なのだろうか..

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